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29  作者: 葵 しずく
2章 導かれて
20/155

第13話 夏の夜に舞い降りた浴衣の天使 act 2

今晩は祭りなので夕食は軽めに済ませて、参加者は支度を始めだした。


 加藤はすぐに瑞樹に声をかける

「志乃!私達これから浴衣の着付けをしてもらいに行くんだけど、一緒についてきてくれないかな?」


「え?いいけど、どうして?」

 瑞樹はキョトンとした表情で聞いた。

「え?え~と・・志乃に最初に見てもらいたいから?かな。」

 加藤は苦笑いしながら答えた。


「そっか!うん、わかった。」

 加藤の返答に違和感を感じたが、素直に応じる事にした。



 着付けの受付へ到着すると、もう殆どの当選者が着付けの順番待ちで並んでいた。


「うわ!もう並んでる!皆、気合入ってるなぁ!」


 最後尾に神山、加藤と並び付き添いの立場で瑞樹が一番後ろへ並んだ。


 スタッフはこの着付けを終えたら、1~2年生の肝試しへ同行する為、人数を増員して対応にあたっていた。


 おかげで流れが早く、たいして待たずに神山の順番が回ってきた。

「じゃ!カトちゃん!瑞樹さんお先です!」


「うむ!行ってまいれ!神ちゃん!」

 そう言って加藤と神山は敬礼のポーズを決めた。


「あはは!神山さんの言い方だと、まるで私まで浴衣着るみたいじゃん。」


 ギクッ!?

 神山と加藤はお互いの目を見て頷きあった。


「もうバラしてもいいか!そうだよ!志乃も浴衣を来て祭りに行くんだよ!」

 加藤は瑞樹に手を差し伸べながらそう言った。


「へ?え?え?なんで?私クジ引きハズレたんだよ?」


 そう瑞樹が反応したのと殆ど同時に「おぉ!」と歓声が上がった。

 歓声がする方を見ると、着付けを終えた女子達が登場すると、

 まるで浴衣コレクションのようなファッションショー状態で盛り上がっていた。


「おっと!何か凄い事になってるじゃん!

 よし!神ちゃん!私達が美女3人組でトリを飾ろうじゃないか!」

「了解!じゃあ先陣を切ってきます!」

「よし!いけ!神ちゃん!」


 神山は楽しそうに更衣室として利用している会議室へ入っていった。


 その間にも浴衣コレクションはさらに盛り上がっていた。

 男子達は歓声を上げながら、スマホで写真や動画を撮っていた。


 それを見た瑞樹は顔色が青ざめた。

「ちょ、ちょっと!なにあれ!あんな見せ物みたいな事やるの?

 私は嫌だからね!」


「ま、まぁまぁ!ほら!瑞樹を誘って玉砕した男子も大勢いるじゃん!

 折角楽しみにしてたのに、拒否されて可哀想でしょ?せめて浴衣姿くらい見せてあげなよ~!水着姿を見せるわけじゃないんだしさ!」


 痛いところを突かれて困惑する瑞樹・・・

 その時ファッションショーの方から今日一番の大きな歓声が上がった。


 誰が出てきたのかと覗いてみると、そこには浴衣姿の藤崎が立っていた。


 藤崎は紺色を基調にした落ち着いた大人な浴衣で登場した。

 髪型は髪を一つに纏めてその纏めた髪を左肩の前方に垂らすスタイルで

 色っぽさを感じさせる出で立ちだった。


 当然男子達は大盛り上がりだったのは言うまでもなかった。


 そこへ浴衣に着替える為に間宮がやって来たのに気付いた藤崎は、すぐに間宮に近づいた。


 二人は何やら楽しそうに話をしているが、瑞樹に位置からでは聞き取れなかった。

 でも間宮の嬉しそうな顔を見て

 何嬉しそうにデレデレしてるのよ!あいつ!

 と独り言の様に呟くと、加藤の方へ振り向いて

「愛菜!理由はよく解らないけど、ハズレた私も浴衣着ていいの?」

 急変した瑞樹に少し驚いたが

「もちろん!実は志乃に元気出して貰おうと思って、今朝フロントにお願いして、皆で少しづつお金出しあってレンタルの浴衣を手配してたんだ!」


「え?だから今朝、皆いなかったの?」

 瑞樹は驚いた表情で加藤を見つめた。

「うん!どうせならサプライズとして準備した方がいいかなって内緒にしてたんだ!ごめんね!」


「そっか。そうだったんだ。それなのに拗ねちゃって、私の方こそごめんね。」


「あはは!いいよ、いいよ!志乃以外全員出て行ったのは、瑞樹が着替える部屋に浴衣バージョンの髪型を作る為の道具を運び込んでたんだ。当選した私と神ちゃんもやってもらう事になったけど、時間があまりないから、簡易的な髪型しか出来ないらしくて、それでもバッチリ決めるってウチのスタイリストが張り切ってたよ!」


 それを聞いて瑞樹はデレデレしてた間宮にムカついていた事を忘れて、

 すごく温かい気持ちになった。


「ありがとう愛菜!あとで皆にもお礼言わないとね!」

「そうだね!じゃ!私の番だから行ってくるね!」

「うん!いってらっしゃい!」

 手を振って見送っていると、また歓声が上がった。


 さっき先陣を切った神山が着替え終えて出てきた。


「うわぁ!!神山さん!超可愛い!!髪型も超いい感じだ!あんな短い時間しかなかったのにすご~い!」


 想像以上に可愛く変身した神山を見て思わずスマホを取り出し、カメラを起動させて神山を呼んだ。

「神山さ~ん!こっち向いてぇ!」

 神山は大勢に囲まれていたが、瑞樹の声に気付いて囲まれてた人だかりから、

 ひょこっと抜け出して瑞樹が構えるスマホに向けて小さいピースサインと可愛い笑顔で応えた。


 先陣を切った神山は期待以上の結果を出した。

 さすがは美人部屋のメンバーである。


 ニコニコして神山を眺めていた瑞樹にスタッフから声がかかった。

「それでは瑞樹さん着替えに入って下さい。これで最後ですね。」

「あ!はい、そうです。宜しくお願いします。」

 加藤の浴衣姿の登場シーンが見れないのが、心残りだったが皆が撮った画像を楽しみにして瑞樹は着替え用に用意された部屋へ入った。


 部屋へ入ると着付けをしてくれるスタッフが2人と

「やっほ!みっちゃん!」

「南ちゃん!てっちゃん!2人が愛菜が言ってたスタイリストさんだったんだ。」

 道具を手に持った同室の南と寺坂が待機していた。


「そ!まぁ!髪型は私達に任せてね!すでにみっちゃんの髪型は完璧にイメージ出来てるから!」


「では!浴衣の着付けを始めますから、服を脱いで下さい。」

 早速スタッフが指示を出してきた。


 部屋には女性しかいなくても、自分だけ脱ぐのはやはり恥ずかしかったが、モタモタしていると迷惑をかけてしまうので、思い切って一気に脱いだ。


 脱いだ瑞樹を見て、南と寺坂から思わずため息が漏れた。

「おぉ!やっぱりスタイルめちゃくちゃいいじゃん!ね!てっちゃん!」

「うん!しかも肌が超キレイだし羨ましい!私のお肉貰って欲しいわ!」


 二人の会話を聞いてスタッフも思わず手を止めて

「ほんとね!モデルみたいにスタイルいいし、透き通る様な白い綺麗な肌してるわね!」

 そう4人で瑞樹の下着姿の感想で盛り上がっていると

「あの!そんなにジロジロ見られてると恥ずかしいから、早く浴衣着せてもらえませんか?それと南ちゃんと、てっちゃんも変な事言わないでよ~。」


 すると南が反論する。

「えぇ~!?恥ずかしがる事ないじゃん!逆に自慢するとこだって!

 まぁ!みっちゃんらしいとは思うけどね。」


 あははははは!

 恥ずかしがっている瑞樹を眺めて4人は笑いながら作業に取り掛かった。


 手馴れた手付きで着付けとヘアメイクと軽い化粧をわずか15分程で終わらせた。


 完成した瑞樹を4人で眺めて

「おぉ!これはヤバイ!絶対騒ぎになるレベルだ!」

 と南が興奮気味に言うと

「だね!つかチートがかってるって!反則だよ!」

 寺坂も絶賛した。


「ほんとね!これは一緒にお祭りに行く男性はボディーガード大変でしょうね。」



「え?えぇ?!ぜ、全然そんな事ないですから。」

 瑞樹は恥ずかしながら否定した。


「ま!部屋を出て皆の前にでたら、どれだけ神がかってるか嫌でもわかるよ!」

 そう言って、南がニヤニヤしながら道具を片付け出した。


「えっと、着付けありがとうございました。

 南ちゃんと、てっちゃんもありがとう!ヘアメイクもだけどこの浴衣って皆でお金出しあってレンタルしてくれたんだってね。本当にありがとう!嬉しかった!」


「どういたしまして~ん!超早朝にカトちゃんに叩き起された時は何事かと思ったけどね。」

 南が驚いた表情を作ってそう言うと

「あはは!そう!そう!起こされたと思ったら、いきなり詳しい理由は言えないけど、志乃が超ピンチなの!だから少しでも前を向いて欲しくて、それにはこのお祭りイベントは絶対にいいキッカケになるから、力を貸して!って泣きそうな顔で言うんだもん。」


「カトちゃんのあんな顔見せられたら、理由を聞く必要なんてなかったよね!」


 二人はそう言って笑った。


 愛菜・・・・・

 瑞樹は加藤の親友申請してくれた時の真剣な顔を思い出して、親友の名を心で呟いた。


「あ!そうだ!みっちゃん!」

「え?はい!」

「この浴衣をプレゼントするには条件があるからね!」

 てっちゃんは悪戯っぽくニヤっとしながら言ってきた。

「え?条件て?てか着付けしてから、それ言うかなぁ・・」

「あはは!条件はその浴衣姿を皆に披露する事!せっかく神がかった姿なのに、見せないなんて勿体無いもんね!」

 南が人差し指を立ててそれが条件だと言った。


「うん、そうだね。皆が用意してくれた浴衣だもんね。わかった!でも本当に変じゃない?」

 そう瑞樹が確認してくると、二人は綺麗にハモって

「超完璧な浴衣美人!」


 三人はお互い顔を見合わせて笑った。


「じゃ!そろそろ行くね。」

「おう!私達は速攻で反対側から出て、カトちゃん達と合流して待ってるね!」

 そう言って南と寺坂は先に部屋を出て行った。


 続いて瑞樹も部屋出る際に

「ありがとうございました。1~2年生の肝試し頑張って下さい。」

 瑞樹は会釈してお礼を言った。

「どういたしまして。また帰ってきたら着替えるの手伝うから言ってね。」

 スタッフはにこやかにそう言ってくれた。

「はい。では、いってきます。」


 バタン!

 瑞樹は部屋を出た所で落ち着こうと深呼吸した。

 大丈夫!浴衣姿を見せるだけだ!なるべく笑顔で出て行くんだ!

 そう目を閉じておまじないの様に呟いていると、


 バタン!

 向かいの部屋のドアも閉まる音がした。


 閉じていた目を開けて音がする方を見ると、

「あれ?間宮先生。」

 そこには浴衣に着替えた間宮が立っていた。


 間宮は何も言わずに目を大きく見開いて、瑞樹を見つめたまま微動だに動かずに立ち尽くしていた。

「・・・・・・・・・」


「間宮先生?」

 瑞樹は首を傾げながら間宮に呼びかけた。


 その呼びかけに我に返った間宮は

「え?あっ!えっと・・瑞樹さんですか?」

 珍しくアタフタしながら当たり前の事を確認した。


「え?そうですよ?何言ってるんですか先生。」

 不思議そうな表情を浮かべて答えた。


「あ、その・・凄く綺麗になってて一瞬誰だか解らなかったんです。」

 間宮は人差し指で頬を掻きながら、照れくさそうにそう言った。


「あ、ありがとうございます。

 でもその言い方だと普段は綺麗じゃないって事ですかぁ?」

 顔を赤く染めて照れながら、冗談っぽく間宮を誂う様に言った。


「え?いや!そうじゃなくて、その・・・凄く大人っぽくなって照れました。」


「ボン!!」


 元々頬が赤く染まっていたが、その一言で顔全体が真っ赤っかに茹で上がった。

「そ、そ、そうですか・・喜んでくれたみたいで良かったで・・・す・・」



 少しの間沈黙が続いたが、間宮は軽く深呼吸し落ち着かせてから

「それじゃ、僕先に出てますね。男の浴衣姿なんて誰も待ってませんから、大トリで瑞樹さんの浴衣姿をお披露目して下さい。それじゃ!」


 そう言って間宮が歩き出そうとした。

「え?ちょっと・・ま、待って!」


 間宮が歩こうとすると浴衣の袖が引っ張られて、振り返ると

 瑞樹が間宮の浴衣の袖を親指と人差し指でチョコっと摘むようにして、

 俯いて立っていた。


「あ、あの、一緒に出てもらえませんか?その、一人だと恥ずかしくて・・・」

 真っ赤な顔で間宮にお願いした。


「・・・・わかりました。では二人で並んで出ていきましょうか。」

 その返答を聞くと瑞樹は素早く顔を上げて安堵した表情で

「ほ、本当ですか?ありがとうございます!宜しくお願いします。」


 そのまま二人は並んで皆が待っている広場へ続く通路を歩いた。


 歩いている途中に間宮が口を開いた。

「そうだ!折角こうして並んで登場するのですから、何かテーマに沿ったポーズでもとってみませんか」

 そう間宮は提案した。

「テーマ?どんなテーマなんですか?」

「う~~ん・・・!やっぱり二人共こんな格好なので、浴衣デートとゆうのはどうでしょうか?」

 ニッコリと笑顔でサラッとそう言った。

「デ、デート・・・ですか・・」

 もう赤くなる場所が残されていない瑞樹は足元がフラつきそうになるのを耐えるのに必死だった。


「ええ。浴衣デートをしているとしたら、瑞樹さんならどんな風に並んで歩きますか?そのイメージを僕がそのデート相手だと思ってしてみて下さい。」


 歩きながらそんな話をしていたから、もう出口の前まできてしまっていた。

 でも逆に自分がとった行動を、間宮がしっかり確認する暇がないと判断したので、少し大胆になろうと決心した。

「私が浴衣デートをした場合どうやって歩くかですね?わかりました!」


 広場へ出る直前、瑞樹は間宮との間にあった距離を一気に詰めて、間宮の左腕と瑞樹の右腕が軽く当たる所まで近づいて、瑞樹は間宮の浴衣の袖をチョコっと摘んで皆が待つ広場へ出て行った。




 二人が広場に出た瞬間!


 うおおあああぁぁぁ!!!!!


 当然のように今日一番の超大歓声が広場に響いた。


 瑞樹の浴衣は淡いピンクのストライプ地に花びらが白で葉の部分が黒く染めたられた大柄な椿柄で、瑞樹の華やかな外見をより一層引き立てるデザインの浴衣だった。その浴衣に合わせる様に髪型は寺坂渾身の作!ダブル三つ編みねじりのハーフアップに、ポイントをガッチリと掴んだセンスのいいナチュラルメイクで元々小顔の瑞樹のシャープな顔立ちが冴え渡っている。

 まさに美し過ぎる浴衣超美人降臨と言った感じだ。


 ファッションショーの会場と化した広場に響く大歓声に怖くなった瑞樹は、

 間宮の袖を軽く摘んでいた指に力が入り、慌てて間宮の後ろへ隠れようとした。

 だが間宮の左手が瑞樹の右肩に触れて後ろへ回り込めなくして、

 焦る瑞樹と同じ高さの視線まで膝を曲げた間宮は、瑞樹の強張る瞳を優しく見つめて、顔を近づけ瑞樹にしか聞こえない程度の小声で呟きかけた。


「祭りの屋台でメロンパンって売ってないかな?何か無性に食べたくなったんだけど!勿論メロンクリームとかホイップクリームとは入ってないやつな!あれは俺的に邪道だから!」


 と急に間宮先生から間宮良介に変わった事に驚いて、強張っていた体の力が自然と抜けて、話しかけた内容がまさかのメロンパンの話題だった事に呆気にとられたが、すぐに笑いがこみ上げてきて


 プッ!ククククク・・・・・・

 慌てて手を口元に当てて笑いを我慢しようとしたが、


「あはははははは!」

 我慢できずに大笑いしてしまった。


 間宮は曲げていた膝を立たせて瑞樹を見下ろしながら優しく微笑む。

「な、何でここでメロンパン食べたくなったりするかなぁ!」

 と間宮を見上げる視線でそう返しながら、パッと咲いた華の様な笑顔で間宮を見つめた。




「今だ!!!!」

 カシャ!!


 間宮と瑞樹の真正面の特等席でスマホのカメラを構えていた加藤が、

 合図と同時にシャッターを切った。


 撮った画像をファッションショーを先に終えた加藤や神山、ヘアメイクを担当した南や寺坂、この場所をひたすら頑張って確保した田村、後藤、川上達、俗に言う美人部屋の面々がチェックした。


 画像には本当に楽しそうでキラキラと光っているような笑顔の瑞樹と、それを優しく包み込む様な柔らかい笑顔の間宮が綺麗に撮れていた。




 夏の夜に舞い降りた浴衣の天使

 そう形容しても大袈裟とは思えない程、

 美しい笑顔の天使が加藤のスマホ画面いっぱいに舞い降りた瞬間だった。

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