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29  作者: 葵 しずく
2章 導かれて
19/155

第12話 夏の夜に舞い降りた浴衣の天使 act 1

 7日目 夏祭り当日  


 朝目覚ましのアラームが鳴ったが、中々止められなかった。


 連日寝不足な上にワンワンと泣き疲れたのが原因だろう。

 子供っぽくて嫌になる・・・


 何とか布団から這い出てアラームを止め、皆を起こそうと見渡したら、

 珍しい光景を目の当たりにする。


 自分以外の布団は空になっていて加藤達がいないのだ・・・


 いつもなら誰ひとり起きてはいない時間のはずなのに・・・


 慌ててリビングへ降りるが誰もいない・・


 このコテージは瑞樹以外誰もいなくなっていた。


「あ、あれ?皆どこ?」

 一応シャワー室やトイレも確認してみたが、やはり誰もいない・・


 不安になりパジャマのままコテージを出て、外の様子を見てみると、

 隣のコテージで宿泊している女の子が体操をして体をほぐしていた。


 瑞樹が出てきたのに気付き声をかけてきた。

「あれ?瑞樹さん!おはよう!」

「あっ!おはよう、片山さん。

 えと愛菜とか見かけなかった?」


 キョトンとした片山は

「愛菜?あぁ!カトちゃんの事?カトちゃん達なら私が外に出てきた時に、ゾロゾロと本棟に入って行ったけど?まだ食堂もオープンしてないのにどこ行くのかなって思ってたんだけどね。」


「そ、そうなんだ・・・ありがとう。」

 そう言ってコテージへ戻った。

 あれ?何で私だけ置いて行かれたんだ?なんか疎外感半端なくて泣きそうなんだけれど・・・


 この部屋に一人だけなのは初めてだった。

 元々広い間取りだから狭さを感じなかった部屋に1人だけだと凄く広くて妙に寂しい。


 ソファーの真ん中で両足を抱き抱えて座って、皆まだかな・・一人でそう呟いた。



 それから少ししてからコテージの玄関のドアが開く音がした。

 加藤達のヒソヒソと話す小声が聞こえる

「神ちゃん、もっと静かにドア閉めてよ。」

「え~?これ以上無理だってば。」


 加藤達は忍び足で寝室へ戻ろうとしたが、リビングを横切ろうとした時に地の底から湧き出てきた様な声が聞こえた・・・


「どこいってたのよ・・」

 瑞樹が両足を抱き抱えたまま恨めしそうな眼差しを加藤達に向けてそう言った。


 ビクッ!!

 その恨めしそうな声を聞いて、加藤達は思わず体が跳ねる程驚いて声のする方を見た。


「し、志乃起きてたんだ・・・お、おはよう・・」

 加藤は気まずそうに苦笑いして挨拶した。


 瑞樹は挨拶には応じずに、口を尖らせて

「質問に答えよ!君達!」


 ウッ!?

「いや・・その今晩のお祭りの事でちょっとね・・ねぇ!」

 加藤が神山に目線を移してシドロモドロしながら言った。

「そ、そうそう!カトちゃんがさ!今のうちに準備しよう!って言い出してさ!」

 神山は焦りながら人差し指を立てて説明になってない説明をした。


「お祭りの準備?こんな早朝に?準備って何してたの?その準備には私は必要なかったの?」


 瑞樹はジト~っとした目で神山を見て言った。

 慌てて加藤が割り込んで

「いや!志乃も起こそうと思ったんだけど、連日寝不足だったしさ、それに昨日は特に疲れただろうし・・・ね!」

 昨日の瑞樹が話してくれた告白には触れないように、遠まわしに瑞樹へウインクしながら、説明の補足をした。


「・・・・そう・・・それならいいんだけどさ・・ごめんね、気を使わせてしまって、準備も手伝えなくて・・」

 瑞樹はそんな嘘くさい説明を信じて素直に謝った。


 そんな瑞樹を見て全員胸を打ち抜かれる思いで、良心が痛んだが、瑞樹のチョロさに救われた。


 急いで全員支度を済ませて食堂へ向かった。


 祭り当日とあって昨日よりさらに生徒達は盛り上がっていた。

 いや、生徒達だけではない・・


 藤崎が食堂に入った瞬間に男性講師達に取り囲まれた。

「藤崎先生!今晩の祭りは僕達に付き合ってもらえますよね?ね?」

「もうすでにポイントは確保してあります!準備は万端ですよ!」


 講師達の猛アタックに藤崎はタジタジだったが、その後に入って来た間宮を見てスイッチをONにした。

コホンと咳払いをして、

「先生方!何をしにここへ来たんですか?生徒達の受験勉強の為に我々はいるのですよ?お祭りだってあれは生徒達への頑張ったご褒美であって、私達は保護者代わりの立場です!そんな私達が浮かれてどうするんですか!」


 男性講師達はその演説めいた台詞に意気消沈してしまった。


 藤崎はそう言い切ってドヤ顔で間宮を見た。


 間宮はそれを聞いて苦笑いしながら、藤崎の方へ近づいて

「さすが藤崎先生いい事言いますね。」

 そう拍手しながら称賛した。


「天谷社長のゼミで正規講師を目指す者としては当然の事ですよ!」

 得意気に藤崎は言い切った。


だが・・・


「僕は夏祭りでビールを片手に食べ歩くのが大好きなので、藤崎先生のような心構えはありませんし、楽しみなんですよ。」


「えっ!?」

 藤崎は固まった・・・



 すると男性講師達は息を吹き返しだした。

「で、ですよね!間宮先生なら解って頂けると思ってましたよ!

 僕達、藤崎先生にフられてしまったので、良かったら一緒に食べ歩きしませんか?」

「いいですねぇ!久しぶりに羽伸ばしちゃいますか!」


 ワイワイと男性講師達が盛り上がっていると、

「皆さんで食べ歩きされるんですか?私達もご一緒させて下さい!」

 他の女性講師達も混ざってきた。

「おお!それは嬉しいですね!是非!一緒に行きましょう!」

 奥寺達のテンションがさらに上がった。


 完全に取り残された藤崎・・

「あ、あの・・やっぱり、わ、私も・・」

 間宮に良講師ぶりをアピールした後で、二人で祭り見物に誘うとゆう藤崎の目論見は完全に失敗に終わった。


 立ち尽くす藤崎の背後から声がかかる。

「藤崎先生失敗しましたね。ドンマイです!」

 加藤がニヤニヤしながら慰めた。


「んぐっ!?べ、別に目論見なんてなかったわよ。で、でも、そうね!皆でお祭りを楽しむのも最終日へ向けていい気分転換になるわよね。」

 そう言って講師の集まりを慌てて追いかけて行った。


 藤崎の後ろ姿を見送りながら

「フッ!悪いね!藤崎先生。どうやら運命の神様は私達に微笑んでくれてるよ。」

 加藤が悪そうに笑みを浮かべながらそう言った。

「カトちゃんなんだか楽しそうね。」

 神山は悪巧みしている加藤を見て素直な感想を述べた。

「それは褒め言葉として受け取っておこうか。」

 そうニヤリと笑みを浮かべて神山達に言った。


 プッ!あはははははは!


 意味ありげに皆が笑う中、瑞樹だけ「??」だった。


「ねぇ!何がそんなに面白いの?私だけ全くついていけないんだけど・・」

 不安そうな表情で同室メンバーに訴えかけるが、加藤が瑞樹の肩をポンポンと叩いて

「いいの!いいの!志乃はいつものようにしていればいいから!気にしないで!」加藤はニヤリを笑いながら、瑞樹を促した。


 これ以上追求するのは野暮な気がして諦めたが、あきらかに不満顔全開の表情で朝食を食べだした。


 そこへスタッフが食堂へ現れて連絡事項を全員に伝えだした。

「今晩の夏祭りへ参加する皆さんに連絡があります。

 社長の計らいで浴衣を無料でレンタル出来ます。ただし男女各10着までなので、もしそれ以上希望された場合抽選になります。着付けは我々がしますので、声をかけて下さい。


 それでは今から集計しますのでレンタルを希望する方は私の方まで伝えに来てください。


 生徒達がさらに盛り上がりを見せた

「浴衣あるんだって!持って来れば良かったって思ってたんだよね。」

「夏祭りって感じでいいよね!よし!私申し込む!」


「浴衣か!いいんじゃね?」

「だよな!雰囲気でていい感じじゃん!」


 あちこちで盛り上がり、あっとゆう間に申し込む行列が出来ていた。

 予想以上の競争率のくじ引きになった。


「へぇ!浴衣だって!でもこれって凄いくじ運がないと当たりそうにないなぁ・・皆はどうするの?」

 と瑞樹は加藤達の方を振り向くと、加藤達はお互いの顔を見合わせてニヤニヤしていた。

 皆の表情に首を傾げていると、それに気付いた加藤が

「お、おぉ!浴衣ね!いいじゃん!いいじゃん!皆で申し込みにいこうよ!」

「流石にこの高倍率じゃ当たらないだろうなぁ!でも受験前の運試しだと思って申し込みに行こうか!」

「え~!?じゃあハズレたら縁起悪いじゃん!」

「あ!ほんとだ!」

「あはははははは!」

 と皆で申し込みに行く事になったが、瑞樹は何となく腑に落ちない表情で皆の後をついていった。



「浴衣ですか!いいですねぇ!間宮先生!僕達も申込みましょうよ!」


「え、いや、僕まで行くと確率がさらに下がっちゃいますから、皆さんで行ってきて下さい。」

「何言ってるんですか!運試しですよ!運試し!」


 間宮は半ば強引に男性講師達に引っ張られて行った。



 やはり申し込み人数は遥かにオーバーしていて抽選のくじ引きになった。


 男性のクジ紐を垂らした段ボールと女性のクジ紐を垂らした段ボールを中心に取り囲んで、一斉に引く事になり先が赤くなっている紐クジが当選になる。


 スタッフが司会を務めた。

「それでは皆さん引くクジを手にしていますか?」


「はい!準備完了です!」

 加藤が張り切って返事した。


「男性陣も準備できました!」

 こちらは佐竹が報告した。


「では!一斉に引きますよ!せ~の!!」

 男女合わせて86人が一斉にクジを引いた。


 引いたメンバーの集まりから色んな声が上がった。


「やったー!当たった!!」


「くっそー!ハズレた!!」


「えっ!?カトちゃん当たってるじゃん!」

「嘘!?」

 加藤は目を瞑って引いたクジをまだ見てなかったのだが、その声を聞いて目を開けると、紐クジの先に真っ赤な色が確かに付いていた。


「きゃーー!!当たったーーー!!」

 加藤はピョンピョンと飛び跳ねながら体全体を使って喜んだ。

「カトちゃん私も当たっちゃったよ!」

 そう言って神山は加藤に当たりくじを見せた。

「マジで!?同室で二人も当たり引くなんて凄くない!?」


 加藤と神山は抱き合いながら喜んで

「皆はどうだった?」

 とテンション高い二人が他の同室メンバーに聞いた。

「全然ダメだった~」

「私も~~」


「私もハズレちゃった。」

 瑞樹は少し残念そうに苦笑いして答えた。



 当たった10人を取り囲んでハズレた人達から拍手がおこった。


 自分の事の様に喜んで大きな拍手を贈っている瑞樹の姿が加藤の目にとまった。


「志乃~~!これで私も浴衣が着れるよ!」

「おめでとう!愛菜の浴衣姿楽しみだよ!」


 ん??・・・・私・・・・・「も」??


 瑞樹は加藤の言葉に引っかりを感じたが、興奮して間違えたのかなと深くは考えなかった。


 すると男性陣からも歓声が上がった。


 こちらも色々な声が上がる中

「あ、当たってますね。」

 とやたら冷静に自分の当たりクジを眺めている男が1人・・

 間宮が当選していた。


 隣にいた奥寺が思わず突っ込んだ

 。

「いやいや!この倍率を引き当てたんですから、もっと喜びましょうよ!」


「いや、僕は何となく引いただけなので・・」

 と頬をポリポリと掻いて苦笑いした。

「奥寺先生、よかったらこの当たりクジ差し上げますよ?」

 そう言って奥寺にクジを差し出したが

「いや!こうゆうのは当てて着るのがいいんです!なので浴衣は間宮先生が着るべきですよ!」

 とキッパリ断られたので、自分で着る事にした。


 その様子を見ていた佐竹がスマホを取り出した。



 会議室へ移動している加藤のスマホが震えた。

 佐竹からlineが届いたのだ。

 内容を確認すると加藤はニヤリと笑みを浮かべた。

 瑞樹は違うクラスで、もう別れた後だったので、

 隣を歩く神山に届いたメッセを見せた。


「!!そっか!当たったんだ!これはもう運命がかったものを感じるね!」

 神山は少し興奮気味で言った。

「でしょ!もう神様が応援してくれてるとしか思えないよね!」

 加藤も興奮していた。


「お祭りが楽しみ過ぎる!よし!今日も講義頑張ろうよ!カトちゃん!」

「うん!がんばろ!」


 加藤達がなにやら企んで盛り上がってる事なんて知らずに

 瑞樹は今日も黙々と受験勉強に取組んでいた。



 7日目の全講義が終了した。


 終了と同時にスタッフが会議室へ入ってきて

 手持ちのタブレットで生徒全員にアンケート表を配信しながら説明する。

「今配信したアンケート表に明日最終日に各科目で受講したい講師の名前を書き込み、それをまたこちらへ送信して下さい。

 希望された講師の講義を明日は受けていただきます。

 書き込みを終えて送信された人は本日の講義は終了になりますので、解散してくれて結構です。」



 その説明を受けて瑞樹達が顔を見合わせて話し出す。

「そっか!最終日はアンケート制の講義だったね。すっかり忘れてた。」

「うん!何かこの生活リズムが当たり前になっててウッカリ忘れてたね。」


 そんな事を話しながら各科目の希望講師を書き込みそのアンケートをすぐに送信して会議室を出た。



そこで瑞樹は思い出して呟いた

「そういえば、最終日用に作り直していた、この合宿を題材にした物語って どうなったんだろ・・」


























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