第9話 恋心
「お祭り?約束って?」
自主学を終えた後、佐竹に中庭へ呼ばれた瑞樹は、7日目の夜の祭りに一緒に行くと約束していた事を、
佐竹に聞かされて頭の中は「??」になり、質問を質問で返した。
「えっ?この前一緒に帰った時に電車で誘ったの覚えてないの?」
佐竹は焦った表情で言った。
嫌な予感は的中した。
どうやら電車で間宮の事に全神経を傾けている時に誘われたらしい。
全く話を聞いてなくて適当に相槌だけうっていたら、会話が成立してしまったようだ。
そもそもお祭りに行くなんて事も今初めて知った。そういえばスケジュール表は初日と最終日だけチェックして、
後は毎日同じスケジュールだと思い込んでいてしっかり見てなかった気がする。
7日目のスケジュールの夜はイベントとだけ表記してあり、佐竹が言うには1~2年生は肝試しを行い、
3年生だけは施設のマイクロバスで移動して地元の祭り見物をして、施設へ戻ったら1~2年生と合流して花火大会を開催するのが恒例になっているらしく、佐竹は去年から合宿へ参加していたから、内容を知っていて、他に先を越される前にと合宿前に瑞樹を誘ったらしい。
さて・・どうしたものか・・・
どう返事を返すか考えていたら何故かさっきの加藤とのやりとりが頭の中を過ぎった。
愛菜のあの態度って・・・
「あ、あの瑞樹さん?」
「あ!は、はい!」
「もしかして無理になったとか?」
「いや、そうじゃなくて・・」
瑞樹は誤魔化すのは無理だと諦めた。
「あの、佐竹さん」
「なに?」
「言いにくいんですけど、あの時は他に気を取られてて、その・・話を聞いてなくて相槌をうっていただけで・・・」
そう瑞樹は観念して打ち明けると、佐竹は少し驚いていたが、すぐに苦笑いして
「うん。なんとなくそんな気はしてたんだよね。」
「う、うん。」
暫く沈黙が流れる・・
「じゃ、じゃあさ!改めて誘いたいんだけど、僕と祭りに一緒に行ってくれないかな?」
俯いていた佐竹が視線を瑞樹に戻して、改めて誘ってみたが、
「ごめん。一緒には行けないと思う。」
瑞樹は視線を落としながら断った。
「そ、そう。そっか、わかった。」
「そ、それじゃ、私部屋に戻りますね。」
「う、うん。時間取らせてごめんね。おやすみ」
「いえ、おやすみなさい。」
瑞樹はそう言い残して部屋へ向かいだした。
佐竹は一応断れる覚悟はしていたが、やはり現実に断られるとショックを受けて立ち尽くしていた。
部屋へ戻るとまだ皆起きていて、シャワーを順番で浴びていたところだった。
瑞樹は加藤を探して二階の寝室に上がると、自分の鞄の整理をしていた。
その後ろ姿は寂しそうで、そっと顔を覗き込んで見ると落ち込んでいる様な表情をしている。
やっぱりだ!そんな加藤を見て確信した。
瑞樹はそのまま加藤に後ろから声をかけた。
「愛菜。」
ビクッ!加藤の体は軽く跳ねた。
「あ、あぁ!志乃か。ビックリしたじゃない。
おかえり!佐竹とちゃんと話してくれた?」
「うん。ほんと愛菜は強引なんだからさ!」
「はは。ごめんね・・・で?どうだった?」
加藤は少し強ばった表情で聞いてきた。
「どうって?」
加藤は何を聞きたくて、何を気にしているか気付いていたが、わざと聞き返した。
「だから・・お祭りの事とかさ・・」
加藤はちょっと拗ねたような顔をして視線を落としながら呟くように言った。
「佐竹君には申し訳なかったけど断ったよ。」
「そ、そうなんだ・・」
俯きながらそう言う加藤の口元に微かに安堵の笑みが溢れたのを瑞樹は見逃さなかった。
「うん。ねぇ!愛菜!」
「なに?」
「今からする質問に正直に答えて欲しいんだけどいいかな?」
瑞樹はこの寝室にまだ二人だけしかいない事を確認しながら加藤に詰め寄った。
「う、うん。なに?」
加藤はちょっと焦ったような表情で答える。
「これは私の推測ってかカンなんだけど、もしかして佐竹君に私の事嗾けたのって愛菜じゃない?」
「えっ!?ち、ちが・・・!」
瑞樹は真剣な顔で加藤に言った。
その瑞樹の顔を見てとっさに否定しようとしたが、確信を得た瞳で見つめられて思わず
「ち、違わないか・・・うん。そうだよ・・。」
観念した表情で認めた。
「どうしてそんな事したの?」
「だって佐竹が2年の頃からずっと志乃の事ばかり私に話すから、そんなに好きなんだったら、合宿のお祭り誘ってタイミングを整えて、
そのまま告っちゃえばって言ったんだ。だから本当はバスで初めて志乃に出会った時、直接には初めてだったけど、志乃の存在は知ってたの。
知り合いになれば佐竹の役に立てるかとも思ってた。ごめんね・・」
「なんでそんな事したの!!」
「本当にごめんね。でも利用しようとか思ってたわけじゃなくて、志乃とは本当にこれからも仲良くして欲しいって思ってるよ!」
「そうじゃなくて!何で好きな人を他の子のとこへ行かそうとしたのって言ってるの!!」
「えっ?す、好き!?」
「ボン!」っと聞こえてきそうな位に
加藤の顔が物凄い勢いで真っ赤になった。
「な、何言ってるかなぁ!私が佐竹を?いやいや!ないでしょ!あんな情けない奴!」
そう言って慌てふためく加藤を瑞樹は真剣な眼差しで見つめて動かなかった。
うぅっ!・・・・・
「・・・・わ、私なんかじゃ無理じゃん。だってあいつの好きな人って志乃なんだよ?逆立ちしたって勝てっこないもん。」
加藤は観念して本音を漏らしだした。
「そんな事ないよ。何で愛菜は自分の事そんなに悪く言うのか理解出来ないんだけど?愛菜って自分の事には鈍感だから気付いてないかもだけど、すごく人気あるんだよ?
色んな男子に加藤って付き合ってる奴いるの?って質問されたもん。」
「う、うそ!?」
「ほんと!そんな嘘つくわけないじゃん!」
「でもでも!少なくともあいつは私の事を女と思ってないと思う。だって好きな女の子の話をずっと聞かされてたんだよ?
普通、女の子に他の好きな女子の事話したりしないよね?」
「そうかな。今の私ってこんなだから説得力ないかもだけど、そんな事話せる位に心を開いてくれてるって事だってあるんじゃないかな?
少なくとも佐竹君にとって愛菜は唯一素直な気持ちを話す事が出来る女の子なんだと思うよ。
それって凄く特別な存在なんじゃないかなぁ。」
・・・・・
加藤は無言で俯いて聞いていた。
暫く考え込んで加藤は決心した!
「・・・志乃がそこまで言うなら騙されたと思ってやってみるか!
まぁ!今あいつ志乃に振られて凹んでるだろうから、特別な存在らしい私が励ましてやらないとね!」
加藤はそう言って立ち上がった。
「うん!そうだよ!きっと愛菜を待ってると思うよ!佐竹君!」
瑞樹は動き出した加藤を嬉しそうに見ながら言った。
「なんか・・・凹ました本人に言われるのって不思議感すごいんですけど?」
「あ!ご、ごめん・・」
「あははは!冗談だって!ごめんね!さて!んじゃ行ってくるわ!」
加藤は小さい握りこぶしを作って、覚悟を決めて部屋の玄関に向かいだした。
「うん!頑張れ!愛菜!」
「おう!」
そう言い残して玄関のドアを閉めて出て行った。
すると1階のリビングから呼ばれる声がした。
「瑞樹さん?今出て行ったのカトちゃん?」
「え?うん!そうだよ。何か用事があったの?」
「いや、用事って言うかシャワーの順番カトちゃんだったからさ。」
「そうなんだ。あ!じゃあ代わりに私浴びていいかな?」
「OK!いいよ!」
よし!じゃあサッパリしてから愛菜の帰りを待つ事にしようかな!
今晩は愛菜が戻ってくるまで何時まででも待つつもりだ。
大切な友達の大切な恋が上手くいくことを願って。
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6日目
この日早朝にスケジュールではイベントとだけ書かれていた時間帯に何をするのかの詳細が各タブレットに告知された。
やはり佐竹の情報どおり3年は祭り見物と花火、1~2年生は肝試しと花火と告知されていた為、朝から食堂は賑やかだった。
1.2年生は肝試しがどこで行われるかのチェックと花火の量などで盛り上がり、最上級生の3年生は誰と祭りに行くかで盛り上がっていた。
男子達はその事で盛り上がりつつも、視線はチラチラと食堂の入口に頻繁に向けられていた。
そこへお待ちかねの瑞樹達が食堂へ入ってきた。
「ふぁ~~~・・眠たいよ~~」
先頭の加藤は眠たそうな顔で入ってきた。
「流石にこの眠たさはヤバイかも・・・」
瑞樹も加藤に負けず劣らすの寝不足全開の顔で加藤の後に続いて入ってきた。
「結局二人は何時に寝たの?」
神山が呆れた声で訪ねた。
「ん~何時だったかな・・3時過ぎ?」
「それくらいかな・・・帰って来るまで待つって決めてたから待ったけど、まさか3時まで帰ってこないなんて思ってなかったからなぁ。
一体そんな時間まで何やってたのよ?愛菜」
瑞樹は恨めしそうな顔で加藤を見て問い詰めた。
「えっ?何って・・別に・・ただ喋ってただけだよ?・・・うん」
加藤はアタフタしながら答えていると瑞樹は眠そうな顔しながらも、さらに追い打ちをかける。
「5時間弱も話す事があったんだ・・へぇ・・どんな事話してたのかなぁ?」
瑞樹はいつも加藤に誂われていた仕返しとばかりに、悪戯っぽく笑いながら言った。
「いや!だからね!志乃の事とか・・」
加藤が必死に説明しようとしたが、途中で会話を切られる。
「加藤さん!」
「は、はい!」
振り向くと7人程の男子が加藤の周りに集まっていた。
「な、なに?なに?」
加藤はこの状況が飲み込めなくて慌てていた。
「加藤さんは明日の祭りって誰と行くか決まってるの?まだなら俺と一緒に行かない?」
「バッカ!俺と行ってくれるんだよね?加藤さん!」
「は?おいおい!笑わせるなよ!加藤さんは俺と行く事になってるんだよ!ね!加藤さん!」
祭りのお誘いがあちこちからかかる。
加藤は訳が分からず、助けを求めるように瑞樹の方を見た。
「だから愛菜は人気者なんだって言ったじゃん。」
ニヤニヤしながら助けを拒否した。
「もう!志乃ってそんな意地悪だったっけ?」
「愛菜先生を見習いました。」
「そんなとこ見習わなくていいってばぁ!」
「あはは!頑張れ!愛菜!お先に~!」
瑞樹はしてやったりと先に朝食を受け取り席に向かった。
そこで自分の後ろに並んでいたはずの神山達がついてこないのに気付いて、さっきまで並んでいたとこを見ると、
神山達も男子達に猛プッシュを受けていた。
後で知ったのだが、瑞樹達の部屋は別名{美人部屋}と男子達にそう呼ばれていたらしい。
確かに偶然が必然なのか不明だが、個性豊かな美人揃いのメンバーだったかもしれない・・
珍しく瑞樹には声がかからなかったから、ご機嫌で席について食べようとしたら・・・
「いただき・・・」
「瑞樹さん!」
「・・・ます?・・」
と残りの台詞を言いながら後ろを振り向くと、加藤達とは比べようがない人数の男子達が待ち構えていた。
「・・・・・・」
その人数に、男に声をかけられ慣れてるはずの瑞樹でさえ固まってしまった。
なんと瑞樹狙いで集まった男共の人数26人!
「瑞樹さん!祭りなんだけど」「一緒にどうかなって」「屋台がさ!」「もちろんご馳走する」「なんだよ!狭いんだからあっちいけよ」「おい!順番まだか?」
「・・・・・」「・・・・・・・・・」
「え、えと・・・その・・・・」
目が点になって困惑していたら、
パン!パン!パン!
手を大きく叩く音が3回!
「はい!男子全員聞いてください!」
突然現れた間宮が声を大きくして男子達に呼びかける。
「明日の祭りに女子を誘いたい気持ちは同じ男として理解出来ますが、
今は朝食中ですよ!食べ終わったら今日も講義があります!
時間がなくなって朝食を食べそびれたりしたら、一緒にいたい女子達を講義中お腹の音を気にさせながら受講させるつもりですか?」
それを聞かされた男子達は一瞬で静まり返った。
た、助かった!ありがとう!間宮先生!瑞樹は感謝の眼差しを間宮に向けた。
「なので!」
「ん?」
「お誘いは講義が終わった後で、存分にアタックして下さい。」
は?助かったと思ったのにオチつけなくていいのに・・・
感謝して損した・・・・
あはははははは!食堂に笑いが起こったが、
瑞樹は怒っていた。怒涛のお誘いラッシュは夜へ持ち越されたのであった。




