第8話 間宮student
4日目 朝
スマホの目覚ましアラームが鳴った瞬間に止めた。
瑞樹は設定した時間より早く起きていた。
そのまま、まだ寝ている同室のメンバーを起こして回った。
「はい!朝ですよ~!皆起きて~!」
「う~ん・・あと5分だけ・・・・」
「朝ごはんいらないから寝かせて~~」
皆起きようとしない・・
特にグズってるのが加藤だった。
「今日はテスト休みって事にしよ・・昼まで寝ていい日って事でよろ・・・し・・・く・・」
そう言って加藤はまた夢の中に戻ろうとする。
「もう!愛菜!そんな休みはないよ!ほら!おっきなさ~~~い!」
バサッ!!
潜り込んでいた掛ふとんを勢いよく捲った。
「ひゃあ!もう・・わかったよ~~」
加藤は観念して体を起こした。
「おはよ!愛菜!」
「おはよ~~志乃・・・ん??」
他の子達も張り切って起こして回る瑞樹を見て、加藤は瑞樹の変化に気付いた。
「ね~志乃~何かあった?」
「ん?どうして?」
「ん~何か今朝はやたらと元気だし、凄くご機嫌だからさ」
「へ?べ、別に何もないよ!いつもこんな感じじゃない?」
「いやいや!ないから!何があった!?素直に吐くのじゃ!」
そう言って加藤は瑞樹に抱きついて脇腹をくすぐった。
「きゃはははは!や、やめて!死ぬ!死ぬからやめて~~!!」
瑞樹が暴れるから加藤の手がズレて瑞樹の胸元へ
「ん?なんだこれは!けしからん大きさだな!許さん!」
「ちょ、そこは本当にやめてよ!くすぐったいから!きゃははははは!」
そのやりとりを見ていた他の女子達は
「はい!その騒ぎで皆目が覚めたよ!早く着替えて朝ごはん行こうよ。」
今朝も瑞樹達の部屋は賑やかなスタートを切ったのである。
食堂に到着した瑞樹は朝食の受け取りに並んでいた。
「はぁ・・愛菜のせいで笑い過ぎて一日分の体力使っちゃったじゃない・・」
と瑞樹は朝から疲れきっていた。
「あはは!それは志乃が素直に何があったか吐かないからだからね。」
「だから何にもないってば~」
そんな事言われても無理だ。昨日の事は間宮との秘密だと頼まれたのだ。
いや、頼まれていなくても愛菜が相手でも話したくない。
グッタリしていると後ろから2人の声が聞こえてきた。
「おはようございます。皆さん。」
間宮がにっこりと微笑みながら挨拶してきた。
ビクッ!
瑞樹は体が飛び跳ねるのを必死に堪えた。
「おはよ~皆朝から元気だねえ」
続いて藤崎も挨拶を済ませた。
また間宮先生と一緒にいるし・・
瑞樹は2人を見て少しムッとした。
「おはようございます!藤崎先生はあまり元気ないですね。」
加藤が藤崎の様子を伺った。
「そう?昨日寝るのが遅くなったからかなぁ」
「昨日何してたんですか?あ!もしかして間宮先生と?」
加藤はニヤニヤしながら藤崎に突っ込んだ質問をした。
「え~?・・違うよ~?」
藤崎は瑞樹をチラッと見て悪戯っぽく答えた。
ムカッ!
瑞樹はブスっと膨れた。
「違うよ!間宮先生だけじゃなくて藤崎先生は講師の人達とお酒飲んで寝不足なだけですよね?」
すかさず瑞樹は作り笑いで藤崎にやり返した。
その瑞樹の反応が面白くて藤崎はクスクスと笑った。
「あれ?何で志乃がそんな事知ってるの?」
加藤が不思議そうに聞いていた。
「別に何でもいいじゃない・・」
瑞樹は不機嫌な表情で答えた。
その2人のやり取りに挟まれた間宮は状況を飲み込めず「ははは」と苦笑いするしかなかった。
朝食を済ませて4日目の講義が始まった。
間宮は新しいCクラスの出席をとると再編成の一連の事を説明した。
「昨日発表があった通り僕はCクラスを引き続き担当します。
この件で随分色々と問い合わせを受けたので、ここで簡単に説明をさせてもらいますね。
これは初めから僕は最後までCクラスを受け持つ事が決まっていたからなんです。」
「どうしてですか?他の先生は結果に応じて担当が変更したのに・・」
「そうですよね。不思議ですよね。それは僕の講義方法が原因なんです。
皆さんが名前をつけてくれたstory magicは最大でもAクラスにギリギリ入れるかどうかって所までは
複数の生徒達を一気に持ち上げるのに適しているのですが、その上のレベルとなると個人的にピックアップを行い指導しないと
効率が悪いんです。だからそこからは藤崎先生と村田先生にお任せするのが、皆さんの学力を伸ばすのに一番良いと天谷オーナーの判断だったのです。
だから僕の究極的な目標はCクラスの生徒を0にする事なので、皆さんしっかり付いて来て下さいね!」
そう説明を終えると生徒全員が
「はい!宜しくお願いします!」
と力強く答えた。
「はい!では講義を始めます。」
昨日までより熱の入った講義が行われた。
もちろんその後の2年生、1年生の講義も同等の内容で4日目の講義を終えた。
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同時刻 藤崎のAクラスでも生徒に同じ説明を終えた。
それから藤崎は正直な気持ちを生徒達に打ち明けた。
「えと・・説明は以上ですが、正直悔しい思いがあります。
でもこんな私に天谷オーナーからあなた達Aクラスのさらなるレベルアップを任されています!
全力で頑張りますので、どうか!私についてきてください!」
藤崎先生も変わったね。ここに来た時は講義の内容は良かったけど、どこか違うところを見てるって受講した神山さんが言ってたもんね。
変わったのは間宮先生が叱った事が原因なんだろうな。
私も間宮先生に固まって自分ではどうしよもなくっていた壁みたいなのが、少しずつだけど壊すとゆうか溶かされだしてる感じだ。
自分を守る為の壁だから少し怖い・・でも嫌じゃない。
なんだか私と藤崎先生って間宮先生に育てられてるみたいな感じがする。まだまだ私なんて「間宮student」だもんね・・・
私も頑張れば今の藤崎先生みたいに笑えるのかな・・
ずっと諦めていたあの頃の私に戻れるのかな・・・
そう考えながら、藤崎先生の話を聞いていると、私は自然と席を立っていた
「はい!私達も全力で頑張ります!宜しくお願いします!」
瑞樹は壇上に立っている藤崎にそう告げた。
小さい顔に綺麗なサラサラストレートの髪が揺れる。
決意に満ちた大きな瞳は真剣な眼差しで藤崎を見つめる、でもその決意は藤崎だけに向けられたものではない。
半分は自分への決意だ。もう間宮先生から逃げるのはやめよう!必ず正体を明かしてけじめをつけよう!そう決意したのだ。
当然瑞樹が立ち上がってそんな事を言うものだから、他の生徒達は驚きを隠せない。
だが藤崎だけは瑞樹の瞳を見て決心がついたのだと気付いた。
そんな瑞樹を見て藤崎は優しい表情で瑞樹を見つめて
「ありがとう。全力で頑張る!だから瑞樹さんも頑張って!」
この頑張れと言うのは勉強だけではない事は気付いている。
「はい!頑張ります!」
そんな瑞樹を見て乗り遅れた生徒達が一斉に立ち上がり
「よろしくお願いします!」
各々で藤崎に声をかけだした。
「ありがとう!こちらこそよろしくね!」
藤崎はここへ来てから一番の笑顔で生徒達に言った。
「それでは講義を始めます。」
藤崎は講師モードへ切り替えて熱弁を揮った。
それは3年生だけではなく、2年生、1年生にもしっかり伝わり充実した合宿4日目の講義は終了した。
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合宿 5日目
もう5日目になると体も環境になれて生徒達の集中力も増して、受験勉強も凄く捗っていた。
それに呼応するように講師達の熱も増してまさに講師と生徒の一体感が生まれ充実した合宿が行われていた。
これが天谷社長が目指した自慢の合宿だと言う由縁なのだろう。
その夜いつものようにルームメイト達と自主学をしていて時間がきたので、部屋へ向かって歩いていた。
向かっている時もタブレットを開いて皆で問題を解いたりして本当に勉強一色だったが、不思議と誰も嫌がったりしていなかった。
「み、瑞樹さん!」
部屋へ向かっていて中庭がある通路を歩いている時に、後ろから声をかけられた。
一緒にいた全員が振り向くと妙に緊張している佐竹が立っていた。
「あ!佐竹じゃん!」
「こ、こんばんわ。加藤さん」
その2人のやりとりを見て
「なに?あの人知り合いなの?愛菜」
「え?あぁ!うん!3年になるまでゼミが同じ曜日でさ!早く講義が終わった後に時々勉強教えてもらってたりしてたんだ。」
「ふ~ん、そうなんだ。」
ちょっと困った顔をして瑞樹が相槌をうっていると、
「なに?志乃に用事?」
加藤がニヤリとした顔で佐竹に問いかける。
「あぁ。うん!そうなんだ。」
加藤はその表情のままで今度は瑞樹を見て
「だってさ!」
「う、うん」
加藤の顔が気になったが、その前にまずは断ろうとしたら、直前で加藤が割って入った
「ok!もう後はお風呂入って寝るだけだから、志乃はここに置いていくね!」
加藤はそう佐竹に言って、瑞樹の肩にポンと手を置いた。
「は?ちょ、何言ってるのよ愛菜!」
焦りながら加藤を睨む!
「まぁまぁ!前にline送ったと思うけど、前から自由時間になるとあちこち志乃の事探し回ってたみたいだし、少しくらいいいんじゃない?」
加藤はそう言って瑞樹の背中を軽く押した。
「あのね!愛菜!他人事だと思って!」
振り返って言ったが、当の本人は他のルームメイトを先導して部屋へ歩き出していた。
「ちょっと!愛菜!」
加藤は瑞樹の声に振り向かないで手だけヒラヒラと振って立ち去って行った。
愛菜め!明日起こす時問答無用で脇腹くすぐってやるからな!と瑞樹は加藤に恨み言を心の中で呟いた。
チラリと佐竹の方を見ると照れくさそうに後頭部を掻きながら俯いていた。
「はぁ・・」瑞樹は観念した様にため息をついた。
「で?何か用ですか?」
瑞樹は少し不機嫌な顔で佐竹に言った。
「あ、うん。疲れてる時にごめんね。あの、ここまだ人通りがあるからそこの中庭までいい?」
佐竹は中庭のデッキチェアがある方へ指差す。
「人がいると困るような事するつもりじゃないでしょうね!」
「ま、まさか!そ、そんな事するわけないじゃん!」
佐竹は顔を真っ赤にして必死に否定した。
佐竹はそのまま中庭へ移動しだしたから、瑞樹は渋々ついていった。
瑞樹は中庭へ移動して一番近くにあったデッキチェアの端に腰を下ろした。
相変わらず気持ちの良い涼しい風が吹き抜ける。
その柔らかい風に瑞樹の綺麗な髪が少し揺れる。綺麗な星空を見上げる顔は月明かりとランタンの優しい光に浮かび上がり神秘的にすら思えた。
長い髪を靡かせ綺麗な瞳で星空を見ている姿をそのコントラストで映し出された瑞樹は美しいと言う形容詞しか思い浮かばない。
そんな瑞樹を佐竹は我を忘れる様に見惚れていた。
その視線に気付いた瑞樹は睨むように佐竹の方を見て
「なんですか?用があるなら早くしてもらえませんか?私も早く休みたいので。」
そう言われて我に返った佐竹は慌てて話し出す。
「はは。相変わらず冷たいなぁ・・あ、あのさ!7日目の夜に行く祭りの事なんだけどさ!約束してた通り一緒に見物してくれるんだよね?」
「は?お祭り?約束って?」
瑞樹はキョトンとした表情で佐竹に答えた。
い、嫌な予感しかしない・・・
私はそう直感した・・・