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29  作者: 葵 しずく
最終章 卒業
139/155

第29話 追い求めるもの

「改めまして、営業部からこちらでお世話になる事になりました間宮 良介です。本来なら4月の頭からの予定だったのですが、私事で一か月も遅くなり、大変ご迷惑をおかけしました。大学を出てからずっとこの会社で働いてきましたが、気持ちを新たに新卒のつもりで頑張りますので、宜しくお願いします!」


「間宮さん! 挨拶が固いです! もっとフランクにいきましょうよ!」

「ははは、そう言われてもな」


 ゴールデンウイーク中に大阪から新潟へ移り、連休明けから研究所に出社を始めた間宮に対して、以前本社で一緒に仕事をした川島が中心になっている開発2課のメンバーが、研究所のすぐ近くに流れている川辺で間宮のBBQ歓迎会をひらいてくれていた。


「それでは! 間宮さんの入所を歓迎して、乾杯!!」


 幹事役である川島が乾杯の音頭をとると、一斉にそれぞれ手に持った缶を突き合わせた。

 若手の男性陣が率先して、コンロで食材を焼き始めた。

 準備した食材も豪華な物で、綺麗な霜降りの牛肉や新鮮な魚介類に新鮮な野菜を豪快に焼いていく。


 やがて良い匂いに誘われて、酒を飲んでいた連中が次々にコンロの周りに集まってきた。


 焼いている若手だけでは手が足りなさそうだったから、顔を覚えてもらう為にも彼らを手伝う事にした。


 焼いては各皿に乗せて、また次を焼く。

 その間に沢山話しかけてくれたおかげで、参加している人達との距離を縮める事が出来たと思う。


 悩んで迷って、ここへ来る事を決断したから知り合えた大切な出会いだ。

 大事にしたいと思う。


 腹を空かせた連中の空腹感をある程度満たすと、焼き場も落ち着きだした。

 とりあえず焼けた食材を保温エリアへ移動させてから、自分の皿を手に取り、焼いた食材を適当に盛り付けてトングを置いた。


 冷えた新しいビールと皿をもって、BBQをしている様子を全体的に見渡せる距離まで離れて、丁度いい大きさの岩に腰を掛けて周りを見渡してみる。

 あちらこちらで笑い声が聞こえて、皆本当に楽しそうだ。


 冷えたビールを喉に流し込んだ後、そんな事を思いながら大きく空気を吸い込む。

 東京の淀んだ空気を大きく吸い込もうとは思ったこともないが、ここの空気は凄く美味くて心が和むようだ。


「隣いいですか? 間宮さん」

「どうぞ」


 空を見上げながら美味い空気を何度も吸い込んでいると、ひょっこりと川島が現れた。


「失礼しま~す」と隣に座って、ビールをゴクゴクと喉を鳴らして美味そうに飲んでいる。


「俺もよく言われるんだけど、川島さんも本当に美味そうにビール飲むよな」

「ホントに美味しいですからね! 特にこうして外で飲むビールは最高だと思いませんか?」

「そうだね。てか、こんな本格的なBBQって初めてだと思う」

「そうなんですか?」

 大阪に住んでいた頃はそんな場所があるにはあったが、両親が忙しくてそんな機会には恵まれなかった。

 高校を卒業してから東京に住んでいたが、こっちはこんなに気軽にBBQが出来る場所が見当たらず、そんな場所があっても有料でかなりの金額設定になっていた為、貧乏学生には無縁だった。

 就職してからは、仕事に追われる日々で気持ち的にそんな余裕は持てなかったのだ。


 そういえば、付き合ってる時BBQがしたいって優香が言ってたっけな。

 結局お互い忙しくて出来なかったんだっけ。


「まぁ、東京はそんなイメージですよね。ところで我が新潟県はどうですか?」

「ん? まだ数える程しか住んでないけど、自然が多くてのんびりしてる感じがいいよな」

「まぁ、間宮さんが観光客として来たのならそうなんでしょうけど、実際住むとなると大変ですよ? 東京に比べたらすっごく不便ですし!」

「はは、確かに不便な事はあるけど、住んでる人達は温かい人達ばっかりだし、気持ちに余裕をもっていられる感じが気に入ってるよ」

「そう言ってもらえると、生まれも育ちも新潟っ子としては嬉しいです」


 元々初見ではなく、一緒に仕事をした事がある2人だった為、変な緊張もなくお互いの色々な話で盛り上がった。


「松崎さんはお元気ですか?」

「あぁ、相変わらずだよ」

「そうですか! 松崎さんにも色々と良くして頂いたんですよ」

「そっか! そういえば川島さんみたいな人が開発にいてくれるのなら、ウチの会社は安泰だなってアイツが言ってたな」

「えっへへ! そう言って貰えるとモチベがヤバい位上がっちゃいますね!」


 そんな時、何気に川島の口から出た人物名で、間宮のビールを飲む手が止まる。


「そうそう! あの子は元気ですか?」

「あの子?」

「ほら! 天谷社長のゼミに2人で数日通っていた時、私達を見てムスッとしてたあの女子高生ですよ」

「……あぁ、瑞樹の事か。確かにあの時はムスッとしてたな。受験勉強でストレス溜まってたんじゃないか」

「……」


 川島が不思議そうな表情で、ポカンと口を開けている。


「え? なに?」

「間宮さん、それってワザと言ってますよね?」

「なに? ワザとって」


 川島が何を言いたいのか問おうとした時、いつの間にか他の同僚達が集まってきた。


「まさかの川島女史が間宮さんにアプローチを!?」

「ば~か! そんなんじゃないよ」


 同僚の男が川島を揶揄ったが、当の本人は涼しい顔でサラッと受け流した。


 配属になった日に、川島以外にも色々な人に所内の説明を受けた。

 その時に聞いた話だが、川島はここではかなりの優良物件らしく、絶大な人気を誇っているそうだ。

 確かにモテるのは俺にも理解は出来る。

 この若さでチーフを任される人材で、その仕事っぷりは男の俺から見ても格好いいと思える。

 可愛いというよりも、格好いいとか綺麗という表現が似合う女性だ。


 だが、彼女が入社してから一度も浮いた噂がなかったらしい。


 そんな話を聞いていたから、こうして彼女と二人で話し込んでいるのを見たら、そう勘違いをするのも理解は出来た。


「そうだよ。川島さんに新潟県の魅力を教えてもらってただけだよ」


「ここの魅力? こんな田舎に魅力なんてないって! そんなことより東京生活の話を聞かせて下さいよ!」


 興味津々と言わんばかりに、そう言ってきたこの女性は川島と同期入社らしく、見た目は川島と逆な感じでどちらかと言うと可愛い系な感じの女性だった。


「東京生活って言っても、俺は別に東京生まれじゃないからね」

「そういえば、大阪生まれでしたよね」

「そうだけど、何で知ってるの?」

「川ちゃんに聞いたんですよ! てか、彼女さんとか大丈夫だったんですか?」


 彼女の話題になった瞬間、周りにいた他の連中が距離を詰めてきた気がするのは気のせいだろうか。


「彼女なんていなかったから、問題はなかったかな」

「え~!? 彼女いないんですか!? 凄くモテそうな感じなのに! ねぇ! 川ちゃんホントなん?」

「う~ん、確かにあの時もいないって言ってたけど……」

「けど?」

「モテてはいたよ。本社のOLさん数名が間宮さんの事噂してるの聞いた事があるし、顧客のゼミで英語の講師をやってる綺麗なお姉さんとも何かありそうだったし、それに……」

「それにってまだあるの!?」

「神クラスの美少女JKとも仲良くしてたしね!」

「マジですか!?」


 なんだか全自動でチャラい男のイメージを固めれつつある流れに、口を挟む隙を与えられずに、周りがドンドン盛り上がっていく。


 固まりながらも隣に座っていた川島の方を見ると、彼女はその盛り上がりを見てクックックと声を殺して笑っていたが、俺の視線に気が付いたのか、慌てて平静を繕おうと姿勢を正した。


「で!? 誰と付き合ってるんですか!? 私的には英語の講師さんとみた!」

 何だかクイズ形式の流れになり、誰と付き合っているか当てようと若い男性社員が自信満々で答える。


「いや、だからね……」

「まぁ、まずそのJKはないですよね!」

「え?」

「だって間宮さんってもうすぐ30歳になるんですよね? そんな大人の男が親の脛を齧ってるだけの口だけ達者なガキと付き合うとかないですもんね!」

「は?」

「何にも努力なんてしてないくせ、何かあると周りせいにして自分の程度の低さを認めないどうしようもない女達ですよ! 東京の女子高生なんて」


 間宮から正解を聞く前に、川島の同期の女性が東京の女子高生を悪く言うと、間宮が座っていた岩から立ち上がり同期の女性を睨みつける。


「瑞樹をそんなのと一緒にすんじゃねえ!! あいつはなぁ! あいつは……」


 間宮が大きな声で川島の同期である女に激怒した。


 その大きな怒鳴り声に、間宮の周りに集まっていた連中は勿論、少し離れた所にいた連中も、間宮に視線を集めて固まっていた。


「え? い、いや……その」


 間宮を怒らせた張本人である同期の女は、間宮の迫力に追われて思わず尻餅を着く。


 そんな間宮達の様子を冷静に見ていた川島が、手に持っていた缶ビールを一口喉を潤す程度に飲んでから、隣で立ち上がっている間宮の腰の辺りをポンと叩く。


 不意に叩かれた感覚を覚え、間宮は冷静さを取り戻し我に返った。


「!! ごめん! 何やってんだ俺は! 本当に申し訳ない! 大丈夫か?」

「あ、いや、大丈夫です。私こそすみませんでした!」


 不必要に女性を怖がらせてしまった罪悪感から、間宮は両膝をつき謝罪した。

 彼女も酔った勢いで暴言を吐いてしまった自覚があった為、差し伸べてきた間宮の手を取って、立ち上がりながら謝罪する。


 その様子を見ていた周りの連中は、ホッと安堵した表情を浮かべている。


 周りの空気が和らいだ事を確認した川島は、次にコンロの前にいた若手の男性社員に目線で合図を送る。


「あ! えっと、今から皆さんお待ちかねの特性ニンニク炒飯を作りますので、食べる方は集まって順番に並んで下さい!」


 川島の意図を汲み取った男性社員は、恒例になっているらしい特性炒飯を餌に間宮達の周りにいる人間の意識を自分に向けるように呼び掛けた。


 当然、そんな白々しさには皆気が付いていたが、これをきっかけに空気を戻そうと川島の行動に同意した参加メンバーは次々に間宮から離れて、コンロの方に向かっていった。


「さてと! 私も炒飯貰ってこようかな! 間宮さんもどうですか? この炒飯凄く美味しいんですよ!」

「そうなんだ。でも、遠慮しておくよ。食欲が全くなくなっちゃってさ」


 間宮の顔色が相当に悪くなっている。

 かなり激しい自己嫌悪に陥っているようだ。


 らしくない事をした。

 でも、凄く腹が立ったんだ。

 アイツの事を全く知らないくせに、その辺の連中と同じ括りにされたのが我慢ならなかった。


 でも、だからってあんなに怒る事なかったんだよな……


「そうですか。じゃあ、私は取りに行ってきますね」

「うん」


 皿を持ち直して川島が間宮から離れようと数歩進んだと思うと、ピタリとその足を止めた


「ああ、そうだ。さっきの話なんですけど」


 さっきの話?あぁ、ワザと言ってるとかの話か。

 バカな事して激しく凹んですっかり忘れてた。


「あぁ」

「彼女絶対に間宮さんの事が好きですよ。それもかなり!」

「は? いや、懐いてくれてるのは分かるけど、それは兄的な意味であって……」

「あはは! 間宮さんがそんなんだとあの子も大変ですね。あの時の彼女の目を見て分かりませんでした? もう完全に恋する乙女の目でしたよ」

「……」

「全く自覚がなかったって顔してますねぇ。まっ! お節介はここまで! それじゃいってきま~す」


 川島が手を振りながら、皆が集まっている所へ向かう背中を見送ってから、間宮は両手を額に当てて俯いた。


 かなりご都合主義な考え方をしてみよう。

 こんなの妄想癖があるって言われてしまう考え方だ。


 もし、もしだ。

 もし、瑞樹が以前から俺の事を好きになってくれていたとして、今までの彼女の行動を検証してみようか。


 ……兄の様に慕っているから警戒していなかったのではなくて、俺の事が好きだからとった行動だと考えた方が自然な気がしてきた。


 もし、この考えが正解なら……俺はあいつに物凄く酷い事をしてしまったんじゃないか?


 あの日、俺の意識が戻った朝、あいつが引き続き看病をすると言い出した時、俺は迷惑だと断わった。


 意識がない夢の中で、俺はあいつの事が好きなんだと自覚した。

 だから、それまでは気にならなかった事が気になってしまって、瑞樹が泊まり込みで看病すると言い出した事が気に入らなかったんだ。


 あいつは自分のせいでこんな事になったという罪悪感から、そう言いだしたのだろうが、心のどこかで俺に対して警戒する必要がないからという気持ちがあると思っていた。

 その事が気に入らなかった。

 だって、それは俺を男として見ていないって事だと思っていたから。


 ――――――――

 ――――――

 ――――

 ――


 そこで午前0時を知らせるピピッと、2018年5月27日になった事を告げる、間宮が愛用している瑞樹とペアの腕時計からアラームが鳴った。


 ずっと目を閉じて29歳になってからを振り返っていた間宮は、ゆっくりと目を開けて壁にかけている時計を確認する。


 ……すごいな。

 10代を振り返る時でも、こんなに時間はかからなかったんだけどな。

 まさか日にちが変わるまでに、間に合わないとは思わなかった。


 結局あのBBQの時に川島に言われた事に対しての答えが出せずに、今日まで仕事に打ち込んできた。


 いや、考えない様にしていただけだな。

 今更、どうしようもない事だったから。


 ふと、自分の新しい部屋を見渡してみる。


 リビングに小さいテーブルが置いているだけ、ベッドも適当な位置にマットレスを置いて乱れたシーツもそのまま放置して使っている。

 食器類も必要最低限の物だけ段ボールから取り出して、他の物は未だに箱の中で眠っている。


 元々以前住んでいたマンションの家具が備え付けだった為、殆どの家具を買わないといけないのだが、買い物も近所のスーパー位しか行く気になれず、今の間宮の部屋は極端に物がなく、殺風景でやたらと広く感じる。


 とうとう30歳になったか。

 瑞樹と初めて会った日から、丁度一年になるんだな。


 ついさっきまでギリギリ20代だった時より、あいつとの距離が遠くなった気がする。


 ……考え込んでも仕方ないよな。

 風呂入って寝るか。


 間宮は溜息をついて、風呂に入りすぐに眠りについた。


 ――――――――

 ――――――

 ――――

 ――


 翌日、間宮にとって良いのか悪いのか、今年の誕生日は日曜日で会社が休みだった。

 いや、良いのか悪いのかと言えば、間宮にとっては後者だろう。

 折角休日に誕生日を迎える年ではあったが、今の間宮には余計な時間でしかなかったからだ。

 東京にいる瑞樹の事で後悔を引きずってしまっている状況で、休日に誕生日を迎えても、余計に悶々と考え込んでしまうだけだからだ。


 その点、平日であれば新天地で覚える事だらけで、頭の中は仕事の事だけになり仕事以外の事を考えてる余裕がなくなるから助かるのに。


 部屋にいても余計に落ち込むだけだし、いい加減家具でも見に行くか。


 間宮は重い腰を上げて、身支度を済ませると玄関を出て行く。

 間宮の住んでいるハイツは二階建てで、建ててからまだ日が浅く洒落たデザインの外装をしている。


 二階から降りると、すぐに駐車場が目に入る。

 その一角に何も停まっていないスペースがあるのだが、そこは先に間宮が契約している駐車場だった。


 東京では必要性を感じないからと、ずっと大阪の実家の預けていた車を停める為に確保したスペースだ。


 ここ新潟では流石に自転車では色々と不便で、どうしても車が必要だと感じて、近々実家に出向き車を引き取る予定になっている。


 とはいえ、今の間宮の移動手段は自転車だ。

 年季の入っていた自転車は向こうで処分してもらい、こっちに来てすぐに買い直した。


 駐輪所に向かうと真新しい自転車が目に入った。

 折角だからと、以前から少し興味があったクロスバイクタイプの自転車を買った。

 不便だと言ったが、住んでいるハイツから仕事場まではそう距離があるわけではなかった為、快適に走れる自転車にしてみた。

 普通のシティーサイクルとは違い、本当に車体が軽い。

 片手で楽に持ち上げられる程だ。


 その軽さは絶大で、大した力を必要とせずかなりのスピードが出る。

 間宮は新しい愛機に跨り、スピードを楽しみながら近くにある総合家具を取り扱っている店に向かった。


 5月の下旬だったが、まだ梅雨独特の湿り気を帯びた空気ではなく、爽やかな心地いい風が間宮の体を吹き抜けていく。


 そんな心地いい風を感じていても、やはり頭の中はあの事で一杯になっていた。


 やがて目的地の店の看板が見えてきた。

 ラストスパートをかけようと足に力と入れようとした時、足とは真逆に両手でしっかりとブレーキをかけて自転車を急停止させる。

 後輪にしかブレーキがない自転車で急にフルブレーキをかけた為、ブレーキがロックして後輪のタイヤが少し白煙を上げて横方向に滑り出した。

 間宮はその流れる力を受け流す様な体制を作り、180度ターンした状態で自転車を止めた。


 間宮はその後暫く俯いて何かを考え込んでいる。


 やがて腕に巻いていた時計が午前10時を知らせるアラームが鳴る。

 そのアラーム音を聞いた間宮は、俯いていた顔を上げて再びペダルを漕ぎだしたのだが、向かっている方向が店とは反対方向に自転車を走らせる。


 スピードをドンドン上げて、こまめに時計の時間を気にしながら向かった先は、間宮の住んでいるハイツから最寄りの駅だった。


 自転車を駐輪所に預けて、駆け足で駅に向かいホームに入って来た電車に飛び乗った。


 乱れた呼吸を整える事をせずに、困惑した表情で窓から流れる景色を見る。

 それはまるで自分の本能と理性が激しくぶつかり合いながら、自分の体を動かしている上手く説明が出来なさそうな衝動からくるもののようだった。


 やがて間宮を乗せた電車が到着したのは、新潟駅だった。


 間宮は新潟駅の正面口に設置されている、時刻表の掲示板に目を向ける。

 時刻表を確認した間宮は、少し口の角度を上げて窓口へ走った。


 その頃には間宮の中で起こっていた本能と理性の戦いは決着を迎えていたようで、間宮の動きに迷いはなかった。


 丁度いいタイミングで自由席の切符を買う事が出来た間宮は、急いでホームへ向かい後30分ほどで到着する新幹線を待つ。


 ホームの銀傘を見上げて大きく息を吐く。


 突然の思いつきで行動した結果、間宮は手ぶらで服装もどう見ても遠出をする恰好ではない。


 だが、そんな事を気にする事なく、ただ新幹線が入ってくる方向をずっと眺めている。


 やがてホームに到着した新幹線に乗り込み、約2時間後に間宮が降り立った場所は、東京駅だった。


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