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29  作者: 葵 しずく
最終章 卒業
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第6話 卒業旅行 act 2 ~ホントの母~

 東京から休憩を挟みながら、一日目の目的地である京都へ到着した。

 とりあえず、すっかり観光スポットになっている京都駅に車を停めて、京都の空気を吸った。


「ここが京都駅かぁ。あっ! この大階段の吹き抜けの所ってここに来た人達が、SNSで必ず写真を撮ってる場所だよね!」

「おお! これは私達も負けじと撮らないとだね!」

「この大階段って夜になると全部ライトアップされたりするんでしょ!?」

「えッ!? マジで!? すごいじゃん! 見れないのが残念過ぎるよ!」


 京都駅の名所と名高い吹き抜けになっている大階段に、瑞樹達三人は感動の声を上げる。

 早速、若い連中は吹き抜けのあらゆる場所で、記念撮影会を始めた。


 佐竹をカメラマンとして引き連れて、はしゃぎながら撮影をするJK三人組。

 その中で一際目を引くのは、やはり瑞樹だった。

 間宮はそんな瑞樹を遠目で眺めながら、元々絶世の美少女なのは知っているが、本当に楽しそうにしている時の彼女は格別に映った。

 容姿が整った姿が、キラキラと輝いて見える。


 そんな瑞樹を見ているのは好きなのだが、こういう時は必ずと言っていい程、余計な者を引き付けてしまう。


 そんな心配をしていると、案の定今回も例に漏れずに、いかにもという感じの若い男が三人で瑞樹達に近づいているのが見えた。

 間宮は反射的に瑞樹達の元へ駆け寄ろうとしたが、松崎に肩を掴まれて制止させられた。

 肩を掴んだ松崎を見ると、軽く首を左右に振りながら「まぁ、見てろ」とだけ告げる。


 やがて三人組の男達が瑞樹達と接触した。


「ねぇ! さっきから見てたんだけど、君達って地元じゃないでしょ! 俺が思うに東京じゃね?」

「そうだけど?」

 男達の一人が馴れ馴れしく声をかけると、加藤がそう返答した。

「ビンゴじゃん! 俺達も東京でさ、こっちに三人で遊びに来てんだけど、よかったら俺達と回らねぇ?」


 男がそう誘いながら神山の手を握ろうとした時、男の手首をガッシリと握り動きを止める者がいた。


「おい! なにしてんだよ!」


 男の手首を握りしめていたのは、完全に男達の視界から外されていた佐竹だった。


「は? お前こそ何してんの? 離せよ!」

 男は握られた手を振りほどこうとしたが、佐竹は手首を握ったまま男の背後に回り込み、腕と手首の関節を決めた。


「うぐっ!!」


 ギリギリと力を入れる度に、男の顔が痛みで歪んでいく。

 苦悶の表情が色濃くなるほど、佐竹の目つきが鋭くなる。

 その目には怒りの感情に満ちていて、更に力を込めようとした時、佐竹の背中をポンと叩く音がした。


「ストップ! それ以上やったら、本当に折れちゃうよ」


 神山が佐竹の隣に立ち、背中を叩きながらそう告げて力を抜くように促した。

 神山にそう言われた佐竹は、ハッと我に返り握りしめていた男の手首を開放して、隣にいる神山を見つめる。


「だから言ったじゃん! こうなる事が怖いって!」

 神山は助けてくれた佐竹に、語尾を荒げてそう指摘した。

 だが佐竹を見つめる神山の目は、言葉と裏腹に心配しているのが分かる。

 力を持てば持つほど、間違った使い方をしてしまう恐れがある。

 神山は以前、佐竹にそう話した事があった。


「ご、ごめん! ここまでするつもりじゃなかったんだ」


 佐竹は顔を青ざめながら、神山に頭を下げた。


 大切な自分の彼女が危ない時に、助けられるようになりたい。

 神山の元で稽古をつけてもらいだしてから、いつの間にか稽古をする動機がそう変わっていた。

 だからこうして彼女を助けられたのだから、目的は達した。

 でも、ここまでやる事はなかった。

 カッとなって理性が飛んだのだと自覚した。

 あれだけ言われていた事なのに、約束までしたのに守れなかった。


「もういい!」


 神山はそれだけ告げて、瑞樹達の元へ駆けていく。


 駆け寄ってきた神山に瑞樹達が、態度を改めるように促していたが、聞く耳持たずと2人の背中を押してその場から離れていく。


 その様子を泣きそうな表情で見送る佐竹に、間宮達が近づいた。


「喧嘩をするなとか言われてたのか?」

「まぁ……そんな感じです」

 間宮の問いかけに、佐竹は肩を落としてそう答えた。

「彼女を守って何が悪いんだよ」

「結衣は僕に変わって欲しくないらしいんですよ」

「自分の彼女が連れ去られて行くのを、黙って見とけって事か!?」

 神山が佐竹に求めているものが理解出来ないと、松崎が首を傾げていると、間宮がやれやれと言いたげな表情を浮かべた。


「そういう事じゃなくて、単純に佐竹君の身を案じてるんだと思うけどな」

 間宮はそう話し、佐竹の肩に手を乗せた。


「折角の旅行でケンカしてたんじゃ楽しめないだろうから、早めに仲直りしておけよ」

「はい! あの、空気悪くしてしまってすみません」

「別に誰も悪いわけじゃないんだから、気にしなくていいよ」

 申し訳なさそうにする佐竹に、間宮はニッコリと微笑んでそう返した。


 それからは、神山と佐竹の微妙な距離感が気になったが、清水寺など有名どころの寺を回ったり、嵐山を探索したりと時間が許す限り京都観光を楽しんだ。


 日が傾き始めて、間宮達は車に乗り込み今日の宿へ向かう。

 道中の車内では瑞樹達は相変わらず賑やかにはしゃいでいたが、松崎は何故か緊張した面持ちになったいた。


 目的の旅館に到着して、駐車場に停めた車から各自荷物を下ろして旅館の前に立つ。


「おお! これは思っていた以上に凄い旅館だな」

「本当だね! こんな素敵な所に泊まれるなんて、松崎さんのおかげだね!」

「いや、それは別に……な」


 間宮と瑞樹が旅館の佇まいに感動して、用意してくれた松崎に感謝したのだが、松崎本人の歯切れが悪いのが気になった。

 旅館をキョロキョロと見渡しながら、正面玄関をくぐると番頭や仲居、そして女将とみられる女性が出迎えてくれた。


「ようこそ、おいでやす」


 女将達が深くお辞儀をして、京都独特の言い回しで出迎える。

「お世話になります。松崎の名前で予約していた者です」

 間宮が代表して、軽く会釈をしながらそう告げると、女将が顔を上げて満面の笑みを浮かべた。


「ええ! 存じております」

 女将はそう話して、間宮の後ろに隠れるように立っている松崎を見つめた。


「ひさしぶりやね、貴彦」

「あぁ、今日は無理言って悪かったな」


 松崎と女将の会話に、間宮達は目を見開いて固まった。


「何言うとるんや。息子に我儘を言われるのは、母親冥利に尽きるってもんやわ」


 ……は、母親?ってことは。


 間宮が女将と松崎を交互に見渡していると、間宮と目が合った女将が笑顔で決定的な事を告げる。


「貴方が間宮さんやね。お話は貴彦から聞かせて貰ってます」

「え? あ、いえ。えっと、あなたは……」

「はい! 貴彦の母の由梨と申します。息子がいつもお世話になっています」


「ええぇぇぇ!!!!???」


 間宮を含めた全員が、思わず大声を上げた。


 そういえば以前に、今の母親は父親の再婚相手だって聞いた事があった。

 てことは、この人が松崎を生んだ母親って事だ。

 まさか、この旅館の女将が松崎の母親だなんて。


「女将さん! ちょっとええですか?」

「ええ、今行きます」


 驚いている間宮達を横目に、旅館のスタッフに呼ばれた女将は仕事に戻ると告げた。


「それじゃ、貴彦。後で顔出すからゆっくりしててな」

「無理しなくていいよ」

「絶対行くから待っときや!」

「分かったよ」


 松崎が照れ臭そうに頭を掻いている姿を、可笑しそうに微笑みながら女将が奥へ姿を消した。

 間宮達はチェックインを済ませて、仲居の案内に従って予約していた部屋へ入る。


「うわっ! 凄くない!?」

 部屋に入るなり加藤が唸る。

「ホント! ここから見える景色とか最高なんだけど!」

 続いて神山が窓から見える景色に驚く。

「ねぇ! お部屋に露天風呂があるよ!」

「え!? マジで!?」

 瑞樹が部屋に設置されている露天風呂を発見して、加藤と神山が食いついた。


 あれ?なんで?


「あの、予約していた部屋とは違うんじゃないですか?」


 人数分のお茶を用意いている仲居に、松崎が恐る恐るそう聞く。


 通された部屋は、どう安く見積もっても一人4万円はする部屋だ。

 確かに良さげな部屋を予約したが、それでも2万程の部屋だったはずだ。


「いえ、確かにこの部屋だと伺っていますよ。女将から直接言われたので間違いございません。なにかあれば御申しつけ下さい。それでは失礼いたします」


 丁寧にお茶の用意を終えた仲居は、松崎にそう答えて部屋を出て行った。


 そうか……母さんの仕業か。


 余計な気を使ってと呆れたが、体全体を使って喜びを爆発させるようにはしゃぐ加藤の姿を見て、彼女が喜んでくれているのならと、母の粋な計らいを素直に受ける事にした。


 その後、男女各部屋に入り荷物を置いて浴衣に着替える。

 兎にも角にも、まずはやはり温泉に入ろうという事になり、6人はすぐにこの宿自慢の温泉に足を向けた。


 特に間宮と松崎は、東京から京都まで運転をして、そのまま京都観光で歩き回ったせいで、口には出さなかったが疲労困憊だった為、温泉に向かう足取りが他の四人より早かったのは言うまでもなかった。


「くあぁ……! 生き返るなぁ……」

「そのおっさんみたいな台詞が、似合いすぎだろ」

 幸せそうな顔で温泉に浸かった松崎に、呆れ顔で間宮がそう話す。

「うるせぃ! 間宮だって似たようなもんだろが!」

 松崎がそう反論していると、「ぐはあぁぁ……」と隣から本物のご老体の口から出てきそうな声が聞こえた。


 間宮達が視線を向けると、そこには顔面の筋肉が緩み切った佐竹が至福の時間を堪能していた。


「さ、佐竹君……その顔を神山さんには見せない方がいいと思うぞ」

「え?」

「うんうん! 百年の恋も冷めるレベルだぞ」

「えぇ!? あの、そんなに酷い顔してました!?」

「あぁ! 手元にスマホがあれば、写真を撮って脅せるほどに」

「ひ、酷いっすよ! 松崎さん!」


 あははははは!


 男湯に明るい笑い声が響く。

 楽しそうに笑う松崎と佐竹を見て、間宮は最後になるかもしれない楽しい時間を噛み締めた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おぉ! 凄い解放感だね!」

「この解放感の前だと、タオルで体を隠す気もなくなるね!」

 そう言って、加藤と神山は全く躊躇なく体を隠していたタオルを豪快に投げ捨てた。


「いやいや! いくら女同士だからって、少しは恥じらおうよ」

 慌てて2人が投げ捨てたタオルを拾い集めながら、瑞樹は2人に女の恥じらいについて説く。


「あはは! 志乃にはまだ早かったか!」

「いや、早いとか遅いとかの問題じゃないと思うんだけど」


 何とか加藤達を落ち着かせて、ようやく露天風呂に三人そろって入る事が出来た。

 温かい温泉につかっている三人に、少し冷たい風が吹き抜けいく。


「ん~~!! ホントに気持ちいいね!」

「ホント! ホント!」

 頬を少し赤らめた加藤達が、明るい笑顔を見せている。

 そんな二人を見ていると、これまで頑張ってきて良かったと心から瑞樹は実感した。


「皆でこうして旅行に来るなんて、合宿の時じゃ考えられなかったね」

「そうだね」

「私ね! 志乃と愛菜と知り合えて、仲良くなれてホントに良かったって思うよ」

「それは私もだよ。結衣」

「私も志乃や結衣がいたから、受験頑張れたと思う」

「あのゼミに通ってて、ホントに良かった」


 さっきまではしゃいでいた三人は、温泉のお湯の中で互いの手を握りしめて、微笑みあった。



「凄い豪華!」


 温泉からあがり部屋へ戻ると、間宮達の部屋に6人分の食事が用意されているところだった。


 瑞樹達がきれいに盛り付けられた、旅館自慢の京都料理の夕食に目を輝かせながら、先に座っていた男達の向かい側の席に座った。


 全員が揃ったところで、この旅館を準備した松崎がビールを注がれたグラスを手に持って、コホンと咳をして他のメンバーの視線を集まる。


「えっと、それじゃ! 佐竹君、神山ちゃんに瑞樹ちゃん、それと愛菜。皆大学受験合格おめでとう!! 乾杯!!」

「ありがとう! 乾杯!」


 松崎の乾杯の音頭に、瑞樹達受験生がそれぞれに乾杯と告げて、皆のグラスを突き合わせた。

 間宮と松崎は、手に持っていたグラスに入っていたビールを一気に喉に流し込む。


「クゥゥ!! 美味い!!」

「やっぱり、ビールは一口目が最高だな!」


 長距離の運転と、観光で歩き回った疲れを癒す為に温泉に浸かった為、体中の血液の循環がよくなった体に、ビールのアルコールが染み渡っていく。

 幸せそうに一口目の余韻に浸っている間宮と松崎を、瑞樹と加藤が微笑むように見つめている。


「ビールってそんなに美味しいんですか?」


 食事を始めて、色々と会話が弾んで楽しい時間を過ごしていた時、あまりに美味そうにビールを飲む間宮達を見て、興味津々に神山がそう尋ねた。


「う~ん、好き好きだと思うけどな。実際、苦みがあるわけだし。まぁ、その苦みがいいんだけどさ」

 松崎がそう答えると、神山の興味が更に増したような顔を見せた。


「あの、一口だけ飲んでいいですか?」


 もう我慢出来ないといった感じで、ビールを注いだばかりの松崎のグラスに釘付けだった。


「だ~め! 神山ちゃんはまだ未成年でしょ!」


 正直、今時の高校生で飲んだ事がない方が少ないのかもしれない。

 だが、もう卒業を待つだけの状況とはいえ、まだ高校生で未成年だ。

 松崎も決して真面目に生きてきたわけではないが、引率も兼ねている立場上、酒を飲ませるわけにはいかなかった。


 そう松崎に言われて渋々引き下がり食事に戻った……ように見えた。


 楽しい食事の時間だ。

 楽しむ時間なのだから、盛り上がるのは問題ない。

 だが、間宮は瑞樹達の盛り上がり方が気になっていた。

 それにさっきから瑞樹達が飲んでいる物に、違和感がある。

 今食べている料理は、京都料理のコースだ。

 この系統の料理なら、飲み物はお茶系が普通だろう。

 だが彼女達が飲んでいるのは、仲良くオレンジジュースだった。


 そもそも料理が運ばれた時、あいつらオレンジジュースなんて頼んでたか?


 間宮は気になって加藤の足元に置いてあったトレイに視線を移すと、トレイの上にはウーロン茶がたっぷりに注がれているグラスが三個隠すように置かれているのが見えた。


「お前ら! まさか!」

「あ、バレた?」


 間宮が目を見開いて、オレンジジュースだと思っていた液体の正体に気付くと、加藤が下をペロっとだしておどけて見せた。


「仲居さんに注文したら止められると思ったから、お風呂からあがった時に自販機でこっそり買ってたんだ」


 加藤は悪びれる事もなく、そう話しながらグラスに入ったオレンジジュースに似た液体を飲み干した。


「愛菜、なにやってんだよ」

「いいじゃん! もう卒業なんだしさ!」

「そうだ! そうだ!」

 松崎が呆れ顔でそう話すと、加藤と神山が反論を始めた。

「卒業しても、未成年には変わらないだろ」

「だって、間宮さんと松崎さんだけズルいじゃん!」

 間宮が松崎を援護しようとすると、今度は瑞樹の口撃が始まった。


 間宮と松崎はもう飲むなと言い聞かせようとしたが、瑞樹達も頑として譲らず暫く平行線を辿っていたが、佐竹が買ってきた分だけ許してやってくれと間宮達を説得にかかり、高校生相手に大人が言いくるめられる形で決着した。


「お酒って不思議だね。何だか体がふわふわするよ」

「だね~! 気持ちいいね」

「きゃはは! ほんとそれね!」


 酒が入った瑞樹達にハラハラさせられながら、食事を終えて仲居が片付けを済ませた。


「ん~! 美味しかった!」

「ホント! 何て言うの? 日本人で良かったって味だったね」

「ホントそれね!」


 カンパリオレンジ飲んでた奴に、京都料理の味なんて分かるのかと溜息をついていると、加藤が自分の部屋から何やら持ち込んできた。


「よっし! トランプやろ! トランプ!」


 加藤がトランプが入ったケースを高々と突きあげて、他のメンバーにそう告げた。

 高校生の酔い冷ましには丁度いいかと、間宮達も了承してまるで修学旅行のような雰囲気の中、間宮達6人はトランプを囲んだ。


 まるで学生に戻ったようなテンションで、カードを楽しんでいたのだが、何も賭けていないカードゲームでは、その盛り上がりは長くは続かなかった。


「じゃ! 次のゲームが最後ね!」


 ニヤリと笑みを浮かべた加藤に、他の全員の背筋に寒気を感じた。


「やっぱり男女6人がいるわけだし!ここはやっぱり恋バナ絡めたいよね!」


 そう言って加藤はカードをランダムに広げた。

 加藤はこれから始めるゲームの説明を始めた。


 ゲームの内容は、このカードから全員一枚だけカードを捲り、引いたカードの数字が一番大きい者が、一番小さい番号の者に何でも聞きたい事が聞けると言う罰ゲームも合わせて説明した。


 確かにシンプルなゲームではあるが、罰ゲームがヤバいと感じた間宮は、適当な言い訳を作って逃げようとしたのだが、逃げた奴は覚悟しておくようにと加藤に脅されて、仕方なく参加する事にした。


 因みに、勝負は10回のみで、どうしても答えたくない場合は三回までパスが可能になるルールを付け加えた。


 一回目は加藤がトップで、佐竹が最下位だった。


「じゃあ、まず最初の質問ね!」

 トップの加藤がニヤリと笑みを浮かべて、佐竹を見る。


「結衣ともうキスしたのかな?」

「は?」「は?」

 加藤のいきなりの質問に、佐竹と神山が同時に声を出した。


「ほらほら! 早く答えなさいよ!」


 酔っぱらっている加藤の暴走を止める者は一人もいなかった。


「あ、えっと……ぱ、パスで」

「ばっかじゃないの! パスなんてしたらキスした事を隠してるみたいじゃん!!」


 挙動不審な態度で、ノーコメントだと返す佐竹に神山が猛抗議した。

 顔を真っ赤にした2人を、微笑ましく眺める間宮に、この後とんでもない核弾頭が落とされる事になるなんて、この時の間宮は考えもしなかった。


 その後、ゲームは続いて時折とんでもない質問が飛び出したりと、佐竹以外の五人は酒が入っているからなのか、ワイワイと盛り上がってゲームを進行していく。


 そしてラスト10回目のターンで、瑞樹がトップ間宮が最下位の結果に終わり、瑞樹は質問する前に飲みかけの缶カクテルを一気に飲み干した。

 飲み終えた瑞樹の目がトロンとしているのに、誰もが気付いて大丈夫かと声をかけようとした時、瑞樹が真剣な眼差しを間宮に向けた。


「神楽優希さんとは、どんな関係なの?」

「え?」


 誰も想像していなかった質問が飛び出した。


 この場にいる全員の思考が止まる。


「な、なんだよ。その質問は」

 間宮が適当に誤魔化そうと、口を開くと瑞樹は間宮の意図を壊す様に、質問を繰り返す。


「答えてよ!」


 膝の上に乗せている握りしめた瑞樹の両手が震えている。

 酒の勢いを使うのは不本意だったのだが、瑞樹はどうしても間宮の口からこの答えを聞きたかったのだ。


「……パスだ」


 答えるのを拒否した間宮から、視線を外して瑞樹は少し力が入りにくくなっている足に力を込めて、立ち上がり部屋の出口の方を見た。


「……そう。私にはまだ隠すんだね。もういいよ」


 静かにそう言うと、瑞樹はそのまま部屋を出て行ってしまった。


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