第18話 三度詣!
1月3日
学問の神様で有名な、瑞樹と加藤が初詣に訪れた神社がある最寄り駅前でに佐竹が立っていた。
今日はゼミ仲間で作っていたグループラインで話し合い、皆で合格祈願のお参りする事になり待ち合わせ場所に一番乗りしたのが佐竹だった。
結局三が日全てが気持ちの良い天気が続いた。
だが、風は相変わらず冷たくて、佐竹は首に巻いていたマフラーを顎先まで持ち上げる。
去年の今頃には考えられない事態だ。
何せずっと憧れていた瑞樹と初詣に行く事になったのだから。
まぁ、2人きりではないのだけれど
「よっ!あけおめ!」
1人で待っている佐竹の肩をポンッと叩いて軽過ぎる新年の挨拶をする声が聞こえた。
その一言で誰が声をかけてきたのか、佐竹にはすぐに分かった。
佐竹は期待を込めて、声をかけられた方に振り向く。
そこには、赤いダウンコートからチェックのパンツが伸びて濃いブラウンのショートブーツがパンツを引き立てていて、頭には温かそうなニット帽を被り、これまた温かそうなマフラーが首元に巻かれている加藤が立っていた。
ボーイッシュな恰好だが、所々に可愛さを散りばめられた、いかにも加藤らしい服装ではあったのだが、佐竹の期待していた事とは大きく違っていた。
「ん?どしたん?」
ショックな気持ちを表に出さない努力をしたが、僅かに残念がっている表情が表に出てしまったらしく、その変化に気が付いた加藤がそう話しかけてきた。
「え?い、いや、別になんでもない」
「そう?元気ない感じに見えたけど、昨日も遅くまで勉強してた?」
「う、うん……まぁ、そんなところかな」
本当は今日の事が楽しみ過ぎて、勉強は早々に切り上げ早めに寝たのだ。
楽しみにしていたのは、瑞樹と加藤の着物姿が見れるかもしれないと期待しての事だったが、片方の期待は見事に砕かれた。
「あ!志乃も来たよ!お~い!志乃ー!」
加藤が駅の方に視線を向けた時、駅からこちらに向かっている瑞樹を見つけて元気に声をかけた。
加藤の呼びかけに気が付いた瑞樹は笑顔で加藤に手を振りながら、小走りで駆け寄ってくる。
「あけましておめでとう!」
「うん!あけおめ!ことよろです!」
瑞樹の新年の挨拶に対して、加藤がまた軽過ぎる挨拶を交わすと、「佐竹君」と今度は佐竹に声をかけた。
背中越しでその声を聞いた佐竹は最後の望みを込めて、ゆっくりと声をかけてきた瑞樹の方に体を向ける。
首元まですっぽりと立たせた白のネックファーコートから膝上までのモスグリーンのスカートが顔をだしている。
そのスカートの裾から僅かに細い足が見えるが、直ぐに膝上まで伸びているロングブーツがつま先まで包み込んだ服装で、頭には加藤と似たようなニット帽を被った姿の瑞樹だった。
正直どこのモデルさんかと間違えてしまう程、その姿は垢抜けていてどこか冴えない恰好をしている自分の姿が恥ずかしくなってしまった。
更に期待していた着物姿も加藤に引き続き見られなかった無念さも加わって、何とも言えない落胆を隠せずにいた。
「あれ?佐竹君どうしたの?元気ないけど遅くまで勉強してたの?」
「……うん、まぁね。あけましておめでとう瑞樹さん」
加藤と全く同じ質問をされてしまい苦笑いを浮かべる。
瑞樹が合流して一気に華やかさに加速がかかり、瑞樹と加藤の傍にいる佐竹に周りの殺気立った視線が集中するのを感じた。
瑞樹と加藤は慣れたように気にする事なく会話を楽しんでいたが、注目なんて殆どされた事がない佐竹はオロオロと落ち着きが無くなっていた。
そんな佐竹の耳にチリンと小さな鈴の音が聞こえた気がした。
「オロオロしないの!男でしょ!?」
そう自分に喝を入れるような台詞が佐竹の鼓膜に響く。
この台詞はよく聞き慣れた台詞だった。
それにこの声もすっかり自分の耳に馴染んだ声だ。
佐竹はそっと隣に感じた気配の方へ視線をを向けた。
「あ!!結衣、着物じゃん!超可愛い!!」
佐竹と同様に声に気が付いた加藤が、大きな声でそう叫ぶ。
突然佐竹の隣に現れたのは、黒を基調にした落ち着いた柄の着物に身を包み、元々、可愛いというより美人顔な彼女を一層引き立たせる恰好をした神山が立っていた。
「ほんとね!こんな雰囲気の着物を着こなせる人って羨ましいよ」
瑞樹も神山の傍に歩み寄り、着物姿の彼女を絶賛する。
「何言ってんの!志乃にそんな事言われても嫌味にしか聞こえないんだけど」
「そんな事ないって!ホントに綺麗だと思うし、羨ましいって思ってる!」
「そ、そっか!ありがとう」
真剣な眼差しでそう言うから、お世辞ではないと感じて照れながら素直に礼を言った。
「さぁ!皆揃ったし、合格祈願いってみよっか!」
「うん!そうだね!」
加藤がそう言いだして、瑞樹が同意して鳥居を目指して歩き出す。
「……ところで」
歩き出そうとした時、神山が気になっていた事があるのか、2人にしか聞こえない小声で2人に声をかけた。
「ん?なに?」
「どしたの?」
2人は流れを切ってきた神山を不思議そうに見る。
「志乃と愛菜って今日で何度詣なの?」
「え?え~と……三度詣かな?」
「う、うん。私もそうかな」
神山の質問を聞いた途端、2人の歯切れが悪くなった。
「ふ~ん、一回は家族とだよね?もう一回は?」
そう聞かれた2人はうぐっと声が漏れる。
「と、友達とかな……ははは」
「そう!私も友達とだよ」
そう返答が返ってくると、神山はニヤリと笑みを浮かべた。
「そうなんだ。因みに私は二度詣なんだけど、勿論、初詣は家族とだよ。そうか……友達とか~まぁ、友達っていっても色んな友達って形があるもんだしねぇ」
そう呟くように言う神山の両隣りに回り込んだ2人は、恐る恐る小声で神山の耳元で加藤が呟いた。
「……もしかして、怒ってるの?結衣」
何が言いたいのかようやく2人に伝わったと理解した神山は、口を尖らせて口を開く。
「べっつに~!2人にとって事件的な事が起こったのに、私だけハブられて拗ねてるわけじゃないもん!」
……めっちゃ拗ねてるじゃん
2人はそう口には出さないが、苦笑いして拗ねていない事を否定しなかった。
恐らく昨日夜遅くまで三人同時通話でお喋りしている時に、直接間宮達の事には触れなかったが、所々に不自然さが出てしまっていたのだろう。そんな事に敏感は神山は気が付いたと推理出来た。
確か、以前から何か合ったら必ず相談にのるからと言ってくれていたのに、今回の事は瑞樹と加藤だけで話し合った事に気付いて、面白くなかったのだろう。
瑞樹と加藤は知らない事だが、実は一番複雑な立場にいるのは、神山なのだ。
親友2人の恋を応援しつつ、その親友達に気持ちを向けている佐竹を応援している立場でもある。
だから神山は結果はともかく、この三人には後悔だけはして欲しくないと常々考えている事だった。
「……あの、どうしたの?」
中々、内緒話が終わらない三人を心配そうに佐竹が声をかける。
そう声をかけられた神山がくるりと振り返り、悪戯っぽく佐竹を見つめた。
「もう終わったよ。さて!今日はこの美女三人を護衛するのは佐竹君しかいないんだら頑張ってよ!」
そう言って神山はニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだよ!かなり頼りないけど頑張ってよね!」
仕方がないと言いたげな表情で、佐竹に喝を入れる加藤。
「佐竹君よろしくね。」
にっこりと微笑んでそう話す瑞樹。
「お、おう!」
三者三葉のお言葉が佐竹に告げられて、美少女三人に囲まれてデレデレモードだった気持ちを引き締めた。
確かにそうだ!今日は男は自分しかいない。
自分がしっかりしないと、ただでさえ声をかけられそうな加藤、神山に加えて立っているだけで男が寄ってくる絶世の美少女の瑞樹までいるのだ。
間宮さんも松崎さんもいない今、自分が体を張って護衛しないといけない。
「じゃ、じゃあ、まず本堂でお参りするから僕についてきて!」
そう三人に告げると、いつもは若干の猫背になっている佐竹が胸を張って歩き出した。
「りょうか~い!」
「うん!」
「おっ!カッコいいよ!佐竹君!」
またまたお姫様三人組は、佐竹を少し揶揄いながらも先頭を歩く佐竹の背中についていく。
4人共生まれも育ちも東京で、人混みを軽快に歩く術は身に着けている。
上手く人混みの間を縫いながらも、4人は談笑しながら目的地へ向かった。
あぁ……周りの特に男共の視線が凄い
僕の人生でこんなに注目を浴びた事なんてあっただろうか。
いや!ない!全くない!自分で言ってて悲しくなる程ない!
地味で学校でもゼミでも隅っこに追いやられるような僕だけど、
今日は僕が三人のナイトなんだ!
少しでも弱気な所は見せられない。
よし!頑張るぞ!
佐竹がそう気合い十分にエスコートをしていると、目的地の本堂へ到着して賽銭箱の前で、四人揃って手を合わせた。
何となくお参りをした時とは違い、今年は受験を控えている為、皆真剣な表情で時間をかけてお参りした。
参拝の列から外れて、次は定番のおみくじを引く事になったのだが、瑞樹は初詣の時に大吉を引き当てていて、今の運気を落としたくないからと、おみくじを引かずに皆を見守る事にした。
他の三人は一斉におみくじを開くと、微妙な結果だったらしくトボトボとおみくじを結びに向かう。
だが、その中で佐竹は大吉を引いたらしく、加藤と神山から野次が飛び苦笑いしながらも、おみくじを大事そうに財布に仕舞っていた。
次にお守りを買う話になったが、佐竹を除いた三人は初詣、二度詣の時に購入していて、同じ神社のお守りが二つあっても意味がないからと、佐竹だけお守りを買いに走った。
その後、折角揃ったんだからと四人で同じ事を絵馬に書いて奉納しようという流れになった。
並んだ列の事情でお姫様三人は佐竹より先に絵馬を購入出来て、マジックが設置されている台へ向かう。
ようやく絵馬を買えた佐竹も急いで三人の元へ向かった。
真剣な顔で絵馬を書いている三人を遠目で見た時、改めて三人の存在感に違いを感じた。
明らかに、周り人間とは違う輝きを放っている。
そんな光景を見て佐竹は思う。
加藤や神山は以前は、そんな雰囲気を感じさせる女の子ではなかったはずだ。
でも、瑞樹と知り合ってから変わった気がする。
瑞樹の傍にいる事で、彼女達は良い意味で影響を強く受けたのだろう。
それは自分も例外ではなくて、彼女を追いかけているうちに自分を変えたくなり、今では神山の道場に精神を鍛える為に通い詰めている。
彼女も受験で大変な時なのに、一度も嫌な顔をみせずにいつも励ますように稽古をつけてくれた。
受験が終わったら何か御礼をしないとな。
「お~い!佐竹君!こっちこっち!」
佐竹が三人を眺めながらそんな事を考えていると。佐竹に気が付いた神山が呼びかけて、その声に瑞樹と加藤も佐竹に笑顔を向けている。
多分、僕の気持ちは彼女達に届かないのかもしれない。
でも、この三人に関われた事を僕は一生忘れないだろう。
佐竹は買ってきた絵馬にペンを向ける。
「さっきから何ニヤけてるの?キモイんだけど」
加藤に顔を覗き込むように見つめられながら、そう毒づかれて初めて自分の表情に気が付いた。
確かに顔の筋肉が緩んでいたかもしれない。
慌てて表情を戻しながら、絵馬に何て書くのか尋ねると、加藤は溜息交じりに答える。
「だから!さっき言ったじゃん!『志望大学現役合格!by間宮student!』だよ!」
「そっか!そっか!ごめん。」
4人同じ事を書いて奉納する事になっていたから、佐竹も同じ事を絵馬に書き込んだ。
「アンタの字って小さくない?文字は書いた人を写すって言うけどほんとだね」
「うるさいな!」
加藤は悪戯っぽい笑みを浮かべて、佐竹の字を野次る。
もう自分を罵倒するのが趣味なんじゃないかと思える程、加藤は楽しそうに笑った。
最後の佐竹が絵馬を書き終えて、皆で絵馬を奉納する為に移動した。
皆、思い思いの場所に絵馬をかけていると、「あれ?これって」と瑞樹が何かに気が付いた様子だった。
「ん?どしたん?」
瑞樹の隣で絵馬をかけていた神山が声をかけたが、瑞樹は顔を小さく左右に振って「ううん!なんでもないよ」とだけ返した。
参拝が終わったところで、早速出店の通りに4人は繰り出した。
3日連続で同じ神社に来ている瑞樹と加藤だったが、一緒に来てるメンバーが変わると、来たばかりの場所なのに新鮮に感じる。
特に、この仲間達は2人にとっても、また神山と佐竹にとっても特別で、そんな仲間が集まったのだから楽しくないわけがない。
色々な出店を周り、沢山食べて沢山笑った。
ここにいる4人は今年のお正月は受験を控えている為、この3日で終わりすると決めている。
最後の日にこのメンバーで思いっきり笑って過ごせたのが嬉しかったし、楽しかった。
「ねぇ!やっぱり皆も学校の友達と卒業旅行に行ったりするの?」
そんな雰囲気の中、そろそろ帰ろうかという時にベンチで休んでいた4人の中の加藤が、急にそんな事を言い出した。
「うん!一年の時から仲のいい子達と北海道に行くんだ」
そう瑞樹が答えると、次々に他のメンバーも行き先を告げだした。
「そっか!私も友達と長崎に行く事になってるんだけどさ」
加藤が腕を組んで何やら難しそうな顔をして、瑞樹達はそんな加藤に黙って注目していると、少し考えてから加藤が話を続けだした。
「折角だし、このメンバーでも卒業旅行に行きたいなって思ったんだけどさ!」
「それいいじゃん!!」
加藤の突然の提案に、神山が間髪入れずに賛成の声を上げた。
確かに、何でこの提案が今まで浮かばなかったのだろう。
学校の友達も勿論大切で、色んな思い出を共有した関係だから、頑張ったご褒美に皆で大きな思い出を作ろうと、旅行に出かけるのは必然だとは思う。
でも、このメンバーはもっと身近な心許せる仲間達だ。
その仲間達とも思い出を作りたいなんて考えるのは当然のはずなのに
「僕も賛成だよ!絶対いい思い出になるよね!」
瑞樹がそんな事を思案していると、佐竹も加藤の提案に賛成の意を唱えた。
「志乃はどう?ゼミ仲間の卒業旅行!!」
加藤が残る1人の瑞樹の意見を求めると、考え込んでいた瑞樹の口から考えていた事の結論がこぼれる。
「……そっか!存在が近過ぎて思いつかなかったんだ」
「え?なに?どうしたの?」
求めていた意見とは全然違う言葉が聞こえて、加藤達は少し困惑した顔で瑞樹を見つめた。
「ううん!なんでもないよ!皆で卒業旅行いいね!私も行きたい!」
そうこなくっちゃ!と加藤の声が弾けて早速、皆でどこへ行こうかという話で盛り上がった。
そんな話し合いの中、またまた今回の卒業旅行の発起人である加藤が、とんでもない提案をしてきたのである。
「でさ!これは実現できるか微妙ってか、当人次第ってとこが大きいんだけどさ!」
そこまで話して、瑞樹達の顔を見回してから話を続けた。
「このコミュニティーってゼミなわけじゃん?でさ!私達のモチベショーンと未来予想図と描かせてくれた重要人物がいるよね?」
加藤がそう言うと、神山と佐竹はキョトンとした顔をしていたが、瑞樹だけはピクっと反応して加藤が言いたい事に気が付いた。
「愛菜……もしかして」
瑞樹は目を見開きながら、恐る恐る加藤に確認をとろうとすると、ニヤリと笑みを浮かべた加藤は、一気に最後まで考えていた提案を話しだす。
「そう!この旅行に間宮さんも誘えないかなって思ってるんだ!」
「えええぇぇぇぇーーーーーー!?!?!?!?!?!」
神山と佐竹は唐突な加藤の提案に、驚きの声を上げて、いち早く気が付いた瑞樹は、何を言い出すんだと額に指を当てて困ったような顔をした。
加藤が言うように、確かに間宮は皆にとってあの合宿での出会いで、それぞれに目標が持てた原因になった存在だろう。
だから、ゼミ仲間で旅行に行くのなら間宮もという考えは理解出来ないわけではない。
ただ、間宮と瑞樹の微妙な関係の事は、このメンバーは周知のとおりだ。
そんな間宮をこの旅行に加えたら、皆変な気遣いが必要となり楽しめるわけがないと考えて当然だと思う。
あくまで瑞樹個人としては嬉しい提案ではあるが、ここは他の参加者の気持ちを考えると現実的ではない。
瑞樹はそう結論付けて、加藤の提案に反対しようとした時、瑞樹が口を開く前に神山が先に話し出した。
「うん!それは流石に考えなかったけど、間宮さんと旅行なんて想像つかないね!想像出来ないから逆に楽しみな気がするよ」
「え!?」
瑞樹は神山の口から意外過ぎる言葉が発せられて、驚いて開こうとした口を閉じてしまった。
「そうか、間宮さんか……確かに僕達にとって恩人みたいな人だし、もし一緒に行けたら凄く楽しいかもしれないな」
「え!?え!?」
佐竹までも賛成の意見を話し出して、益々、瑞樹は困惑の色を隠せないでいた。
「でしょ!同い年同士での旅行も勿論楽しいんだけど、それはそれぞれ学校の友達と行くんだし、私達の旅行は変わった事した方が楽しいと思うんだよね!」
加藤はそう言って、片目を閉じて得意げに人差し指を立てた。
何だか状況が呑み込めないまま、勝手に話しが決まってしまいそうになり、瑞樹は慌てて口を開く。
「ちょ、ちょっと待ってよ!このメンバーの中に間宮さんを入れたら、皆、変な気をつかうでしょ?そんな気を使って行く旅行なんて楽しいとは思えないんだけど」
きっと既に皆は自分に気を使ってそう言っているのだと思った。
気持ちは嬉しいのだが、やはりこれは皆に甘えるわけにはいかない。
だからここはハッキリと断わろう。
皆が楽しめる旅行にするた為に
「気を遣う?ん~……確かに瑞樹と間宮さんの仲が進展しないかなって考えはあるといえばあるけど、それ以上にこの旅行は単純に間宮さんに感謝の気持ちを伝えたいって事の方が圧倒的に大きいかな!」
「そう!私もそうだよ!シンプルにお礼がしたいんだよ!きっと!」
「うん……個人的には間宮さんの存在は良くも悪くも大きくて、複雑な気持ちは正直ないって言ったら嘘になるけど。加藤達と同じで僕も間宮さんにお礼がしたいんだよ。だから気なんて遣うつもりもないし、楽しい旅行に出来ると思ってるよ」
加藤がそう述べると、神山達の続いて自分達の考えを瑞樹に話して聞かせた。
「ほら!これなら問題なんてないでしょ?それとも志乃が間宮さんと行きたくないってのならやめとくけど?」
「そ、そんなわけないじゃん!!」
加藤は揶揄うようにそう言うと、瑞樹は顔を赤らめてそう否定した。
その後行き先を話し合ったが、間宮が参加するかもしれないという事で、間宮の参加、不参加を確認をとった後に、参加するのなら間宮も含めて話し合おうという事になった。
勿論、旅行に間宮を誘うのはすぐに瑞樹から誘う事になったのは言うまでもない。
話し合いが終わった4人は帰宅する為に、神社から最寄り駅を目指して歩き出した。
道中、瑞樹と加藤が並んで歩いていると、瑞樹は飲みかけていた紅茶を美味しそうに飲んでいる加藤をチラリと見てから、視線を空に向けて呟いた。
「この人の隣にいられますように! M,k」
ブフォ!!
瑞樹の呟きを聞いて、加藤は飲みかけの紅茶を勢いよく吹き出した。
「な!ちょ、何で!?い、いや、違うから!ね!ち、ちが」
加藤は今まで見た事ない程、慌てて混乱してしていた。
そんな加藤を瑞樹は可愛いなと、クスクスと笑みを向ける。
「え?私は絵馬を奉納した時、他の人の絵馬が目に入ってそれに書いてあった事を言っただけで、何も愛菜が書いたなんて言ってないよ?」
真っ赤になった加藤を少し揶揄いたくなった瑞樹は、白々しくそう言ってみた。
「な!?し、志乃って時々性格悪い事言うよね!?」
「性格悪いなんて失礼だなぁ!私は照れてる愛菜が可愛くて揶揄ってるだけじゃん」
「それを性格悪いってのよ!」
そう言い切った加藤は、反撃とばかりに瑞樹の脇腹を擽り始めた。
「ちょ、愛菜!止めてって!きゃははは!」
「ほれほれ!私を誰だと思ってるんだい?志乃の胸を揉んだ初めての女なんだぞ?そんな意地悪い事言うなら、志乃の胸の大きさとか柔らかさを間宮さんに話しちゃうぞ!」
「それ!ほんとに止めて!ご、ごめん!もう言わないから許して!きゃははは!」
瑞樹と加藤から少し離れた後方で、じゃれ合う2人を神山と佐竹は苦笑いしながら眺めていた。
少し離れていたせいで、2人の会話は聞こえなかったが凄く楽しそうなのは分かる。
「ホント、あの2人は元気だねぇ」
神山は少し呆れた様子でそう呟いた。
「あはは、ほんとだよな。男の僕より体力あるんじゃないか?」
あははは!
元気な2人を眺めて、まるで年寄りみたいな会話をした2人は、顔を見合わせて笑った。
「残念だったね」
笑いが治まったところで神山が不意にそう佐竹に話しかけた。
「え?何が?」
「志乃と愛菜の着物姿見れなくてさ」
極力顔に出さないようにしたつもりだったが、神山には見事に見抜かれていた事に佐竹はハッとした。
「え?あ、いや、そんな事は」
何とか誤魔化そうと試みたが、次に神山の言葉でそんな思考回路は瞬時に崩壊する。
「まぁ!今日は私の着物で我慢しなよ」
神山は佐竹のそう告げて、すぐにじゃれ合っている瑞樹と加藤の元に小走りで駆けだしていった。
「ねぇ!なんの話してるの?」
「聞いてよ!結衣!愛菜がね」
「うわ~!!志乃!言ったらどうなるか分かってるよね!ホントに間宮さんに話しちゃうからね!!」
2人の元へ駆け寄った神山達の話声を聞きながら、佐竹は気になった事を考えていた。
神山は今日2人が着物を着て来ない事を事前に知っていて、僕に気を使ってわざわざ着物を着てくれたのだろうかと。
もし、そうなら……
「全く、師匠には敵わないな」
精神力を鍛える為に、神山の道場に通いだした時から、神山と佐竹は師弟関係のような関係になっている。
師匠には弟子の事は何でもお見通しなのかと、完敗の白旗を心の仲で振り回して苦笑いを浮かべた。
瑞樹は顔を真っ赤にしながら、神山の鋭い口撃にタジタジなっている加藤を見つめて思う。
恋をする女の子は可愛くなると、昔からよく聞くフレーズだ。
今の加藤は、知り合った当初と比べて別人のように可愛く見える。
そんな加藤を見せられると、あのフレーズは本当なのだと実感した。
私も周りから可愛く見られてるかな。
私も、愛菜に負けない位、間宮さんに恋をしている。
いつも何をしている時でも、心の真ん中には彼がいて、彼の事を考えるとドキドキと温かさが体中を支配してしまう。
傍にいれない時は凄く寂しく感じて、傍にいれる時は本気で時間が止まればいいなんて思ってしまう。
子供は子供なりに一丁前に恋だってするのだ。
好きな人の力になりたい。好きな人を支えたい。
いつまでも妹じゃ嫌だ。
だから、そんな風に彼を想える資格を手に入れる為に、間宮さんに私の気持ちを伝える為にも、今は目の前に迫ったセンター試験を無事に乗り切る事!
明日からその事だけに集中して頑張ろう!
ここにいる皆と頑張ろう!
絶対に皆で楽しい卒業旅行にするんだ!
さぁ!行くぞ!センター試験!!




