ダンジョンでコカトリスを食べるのは間違っているだろうか?
流行に乗りたかっただけなんです
「あれ、ここは……みんなは? そうだ、コカトリスが!」
おや、起きたかな? 落ち着いて、まずは深呼吸だ。
キミ達はコカトリスに襲われていて、私が助けに入ったんだ。申し訳ないがキミ以外は助けられなかった。キミの仲間の遺体はダンジョンに吸収されたが、装備は残っているよ。あそこにまとめてある。
「あ、えっと、嘘でしょ?」
嘘ではないよ。辛いだろうね。泣くなら胸を貸そうか?
コカトリスとの戦闘は覚えているかい? 見た所キミはまだD~C級だろう。こんなところまで来てはいけないよ。
「それは、確かに軽率でした。ごめんなさい。」
実力を付けてから出直すと良い。仲間は死んでしまったが、キミは生きているのだから。
石化してたのが幸いしたみたいだね。多分だが戦闘が開始して直ぐに石化させられたんだろう。 他のみんなは石化されずに最後まで戦ったんだろう。助けられなかった。
コカトリスはキミを後で食べるつもりだったんじゃないかな? もしくはヒナのエサにしようとしたか、どっちかだろうね。石化させて保存しようとしていたみたいだ。
「そうなんですか。助けてくれてありがとうございます」
良いんだよ。こういう時は持ちつ持たれつだ。
今度はキミが誰かを助ければいい。
私の名前はゴックという。
職業は戦士で武器は斧だ。持ち物は鉄製防具一式とカンテラ、ナイフに水筒と雑多な生活道具、後はそれらを入れる道具袋が私の持ち物だ。
私は長い間ダンジョンに籠っていてね。ここ半年は上に戻っていないから、上での出来事とかを教えてもらえると嬉しいかな。
私に仲間はいないよ。私が長い間ダンジョンに籠っているからってのもあるが、一番の原因は私の趣味かな。
どんな趣味だって? そうだな、その前にこのダンジョンについて私の考えを話させてもらってもいいかい?
ダンジョンは【終末の魔法使いが星の一部を魔術で生物化した際に出来たモンスターの一部】だと私は考えている。この説は異端扱いされているが、私はこれこそが真実だと思っているんだ。
ダンジョンに出てくるモンスターは私たちでいう所の白血球や赤血球、抗体みたいなものなんだと思う。道が一定期間で変化する現象からも、このダンジョンが意思を持っている証明になるんじゃないだろうか。
それに私たちやモンスターはダンジョンで死んで一定時間が過ぎると消えてしまうだろう? あれはダンジョンが死体を消化、吸収しているんじゃないかと私は考えているんだ。
いや、これが想像や妄想の類ってのは分かってるし、確かにこれを証明することは私にはできないが、キミが私の説を正しくないと証明する事もできないだろう?
「何を言いたいんですか?」
せっかちだね、キミは。
せっかく長い時間を生きられるエルフでありながら、何故そんなに生き急ぐのか、私には分からないよ。
おいおい、眉間にシワが寄っているよ。美しい顔が台無しじゃないか。ところでその水色の長髪から見るに、キミは水神の加護を受けているように見えるね。
いや、そうだったら水を提供してほしいんだ。そう、そこの鍋によろしく。
綺麗な水ってダンジョンだと貴重なんだよね。助かったよ。
やはり加護持ちの魔法は違うね。透き通った水だ。さぞ美味しいだろう。
さて、私の趣味の話をしようか。
私の趣味はモンスターを調理して食べる事なんだ。
何だい、引かないでおくれよ。私はモンスターを食べるような男だが、パーティが全滅して死に掛けていたキミを救ったのも、私である事を忘れないでほしいな。
それにモンスターはこの星の抗体みたいなものだと言う話をしただろう? 私はモンスターを食べて星の抗体を手に入れようとしているんだよ。
なに? 嘘っぽい? 手厳しいねHAHAHA!
えっと、何で聞かれてもいないのに、こんな話をしたのかと言うと、今から作る料理の材料がモンスターの肉だって事を知っておいてもらいたくてね。
いやいや、保存食があるわけないじゃないか。私は半年ほど上に戻ってないんだよ? さっきそう言ったじゃないか。
「お、俺はモンスターの肉なんていらない!」
何だい何だい、俺っ子ちゃんかい?
女性がそんな言葉使っちゃいけないよ。それに、キミの体は弱っているんだ。精の付くものを食べて元気にならないといけない。好き嫌いは良くないぞ?
幸いなことにさっき仕留めたのはコカトリスだ。
あれは結構おいしいし、量もあるからどれだけお代わりしても大丈夫だろう。
何より新鮮だから臭みもないぞ? やったね!
そうだ、キミはコカトリスの血は飲むかい?
いや鳥の部分じゃなくて、蛇の部分の血だよ。あれは滋養強壮に効果があってね。すぐ元気になれるよ。
「断固として遠慮します」
なんだい、好き嫌いが激しい子だね。
エルフは偏食家と聞くけれど、本当なんだね。まったく。
でも見た感じキミはハーフエルフだろう?なら肉だって喰えるはずだ、違うかい?
「肉は食べられない訳じゃなけど……」
血はダメか。まぁ、生臭いしね。仕方ないか。
これはこれで万能薬の材料になるんだが、知られてないのかな。
でも、肉の方は食べてもらうよ。はやく元気になってもらいたいからね。
今日は単純に塩コショウで味付けして焼くことにしよう。
内臓とかは食べられるかい? 無理か。
どうだい、見てごらんよ、凄い油だ。全部肉から出ているんだよ、信じられるかい? コカトリスは肉自体が美味しいから塩コショウだけでも美味しく食べられるんだよ。
こっちはコカトリスの尻尾の部分、つまりヘビだったところだね。
こっちは開きにして炙るんだ。素人は何かと味付けしたがるが、これは塩だけで食べるのが良い。ほら美味しいから食べてごらん。
「……おいしい」
だろう? 運が悪いと腹を下すこともあるけど、まぁ、ご愛敬だよね。
あぁ、コカトリスの肉は大丈夫。やばいヤツで言ったらスライムとヘルドッグは食べない方が良いよ。特にスライムはちゃんと処理しないで食べると胃に穴が開くからね。僧侶がいないと死ぬ可能性もあるから注意が必要だ。何せ胃に穴が開くからね、ポーションの効きも悪くなるんだ。あの時は死ぬかと思ったよ。
おや、完食かい? 嬉しいね。
今日は私が見張りをしてあげるから、ゆっくりと休むといい。
明日になったら低層まで送ろう。だから早くおやすみ。
・・・
「――ということがあったんだけど」
C級冒険者であるミリアは、ギルドの受付嬢に自分を助けてくれた冒険者の事を報告していた。
変な男だったが、助けられたことは事実だし、自分を除いたパーティメンバーが全滅した事を報告しないといけなかったから、ついでに報告しておこうと思ったのだ。
「あぁ、ミリアさんは狂食家さんに会ったんですね。あの人は元気でしたか?」
「あの人有名なの?」
「あんな人でもS級冒険者ですからね。モンスターを食べることに情熱を燃やしすぎてダンジョンから出てこないのは何とかしてほしいですけど」
受付嬢の話では、彼は数年前までは実力のある冒険者だったらしい。
しかし、長期遠征中に食料が尽きてしまい、仕方がなしにモンスターの肉を食べてから彼は変わってしまったそうだ。
「彼は、あの時食べたワンダーラビットの味が忘れられないそうなんです」
受付嬢はそういうと、どこか遠い目をしながら溜息を吐いた。
何でも彼がいなくなったせいでダンジョンでの素材や遺物の回収率がかなり落ちたらしい。
「おかげで私の給料もかなり減らされたんですよね」
受付嬢の愚痴を聞きながら、ミリアはコカトリスの味を思い出していた。
確かに、あんな美味しいものは食べたことがなかったな。
彼はまだ、ダンジョンで美味しいものを食べているんだろうか。
ヤンマガに載ってるヤクザがご飯作るのとか好き