転校生 その3
「……………え?」
「だーかーらー。結希ちゃんになっちゃったの?って聞いてるの」
はい?なにを言っているんだろう。まさか気づかれた?
俺が女の子になっていると野生の勘で察したのか。いや。まだ大丈夫だ。適当に誤魔化せばやっていける。
「あ、あぁ。確かに日和のせいで俺の渾名は結希ちゃんになっちゃったかもな。あーあ。もうやってけねーよ。せっかくいい感じに高校生活を送っていたのになー。日和のせいでぐちゃぐちゃだよ」
「えっへん。何て言ったって私は天才ですからな~」
「あー。わかるわかる。天の災害と書いて天災だよな?」
「ちょっと!?結希ちゃんひどくない!?私泣いちゃうかもー」
「わざとらしいんだよ」
「フッ。さすがでしょ?」
「いやいや。なにも褒めてないから。どっちかと言えば貶してるから」
よし。これで誤魔化せただろ。
そう安心していると日和は特大の爆弾を投下した。
「うっそ!結希ちゃんってそんなにひどい娘だったの!?私はそんな娘に育てた覚えはありません!」
「おい。さりげなく『子』を『娘』って言っただろ。あと俺はお前に育てられた覚えはねーよ!」
「だって結希ちゃんって女の子でしょ?」
その言葉に前に座っていた柏原が反応した。体を横にし、振り向いて口を開く。
「え?そうなの結希ちゃーん」
口はにやにやとしているため、柏原はほんとだとは思っていないらしい。ただその顔は殴りたくなるには十分であったが、殴りはしない。
「そんなわけねーだろ!俺がいきなり女の子になるとかどこのアニメだよ!」
「えっとー……〇〇〇〇〇〇とか?」
「出すな!名前を出すな!」
再び横から声がした。
「ふっふっふっ。私に隠せると思ったかー」
「別に認めてねーだろ!」
「だったら胸を揉ませろー」
はぁ?さすがにそれはばれちまう!
いくらさらしでぎゅうぎゅうに締め付けているとは言うものの、ちょっと苦しくて若干甘えをしてしまったさらしでは多少の膨らみを感じざるをえない。
日和はこれまで冗談めかして言っているがその言葉には少なからずの確信を含んでいるのは言うまでもない。
そんな日和に胸を揉まれるということは俺が女の子になっていることを確信させることそのもの。
そんなことがばれたら俺はこれまでの生活を全く変えないといけない。それはだめだ。下手したら研究機関に連れていかれるなんてことも………。
そんな考えが頭を巡る中、日和は手を俺の胸へと伸ばしていた。手を気持ち悪く動かし、不敵な笑みを浮かべ、口でにやにやと声を出している。
それだけを見ればただのバカのように見えるが、しかし、実際はそれとは異なる。
日和は普段の口調や仕草、態度はバカっぽいのだが、中学からずっとテストでは俺より点をとる。そのくせして家ではごろごろしているだけと言うのだから驚きである。
それは日和の持つなにかしらの天才性からなるものなのだろう。
日和が先ほど自身で天才と名乗ったのも納得できる。
だが、日和が自覚しているはずはない。
俺はさっと日和の手を自信の手で避けた。
「お前に揉ませる胸なんかねーよ!」
「ぶーぶー」
頬を膨らまし、分かりやすく怒るその姿はどう見ても滑稽である。
「お前になんと思われよーと俺には関係ないからねー」
「最低だ!このいけずー」
「お前それなにキャラだよ。ブレブレじゃん」
そんな会話をしていると柏原が話しかけてきた。
「おーい。夫婦漫才もいい加減にした方がいいぞー」
「ん?どうしたんだ?ってか夫婦じゃねーだろ」
「ほら、時計見ろよ」
ふと時計を見ると時間は5時間目が始まる時間に迫っていた。
俺は焦って一気にパンを頬張る。
あ~うめぇ。
「ん?どうしたの?結希ちゃーん?」
「ほふほふぉほふぉひゅひょーははひはふ(もうそろそろ授業が始まる)」
口にものを入れて喋るなと親に言われたことはあるが、仕方なく言うと日和はあわわとし始めた。
「なんと!?急がねば!急がねば!」
伝わったようだ。よかったよかった。
口をもふもふさせながら俺が頷くその前方で柏原は静かに
「なんで伝わるんだよ」
と呟いた。
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