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転校生 その2

「じゃあ、東八重さんの席は……。よし、藍谷(あいたに)。お前の隣の席にしよう」

 自己紹介の後、突然俺は名前を呼ばれ、また唐突にトラブルを押し付けられた。

 俺の席は惜しくも最後尾の窓側から2列目。空いている席は窓側1席のみ。当然指定された席はその席だ。

 つまり、東八重が一番話しかけやすく、色々なことに対応できるのは俺一人で、しかも俺は先のやり取りで知り合いであることがばれている。

 ということは?

「俺に世話役を押し付けるってことですか?先生」

「いやいや。そうじゃないぞ?ただ……そのー……あれだ……うん……がんばれよ」

「ちょっと!?先生??」

「っていうか!ひどくない?先生も!結希(ゆき)ちゃんも!」

「結希ちゃんって言うな!女みたいだろ!」

 実際今は女なんだけど!

「そんなこと言うなよ。結希ちゃん。」

 前の席から後ろを振り返り、友人の柏原(かしわら)が嫌みを言ってくる。いつものように張り付けている笑顔がとても腹立たしい。

「うるせーなー。いっつもお前はー」

「あっはっはっ」

 そんな他愛もない会話をしていると先生がまたまた割って入る。

「まぁ、そういうことなのでよろしくお願いしますね?」

「あ、いいですよー」

 俺が答える前に柏原が元気よく答えた。すると先生はにっこりと笑って言う。

「よかったです。では、よろしくお願いします」

「よろしくー結希ちゃーん」

 調子よく先生に便乗する柏原。

「よろしくー!結希ちゃーん!」

 そして柏原に元気よく便乗する東八重。

「あー!もうわかりましたよ」

 こう言うしかできない俺の性格が歯痒い。


 授業では教科書が届くまでの1週間を隣の人(俺)の教科書を使い、2人で受けるしかないらしく、まるで小学生のように机を隣同士合わせて受けた。

 その授業中も東八重は元気に俺にこそこそと話しかけてくる。

「ねーねー。あの先生って結婚してるのかな?あーでもあの薄幸そうな感じからしてしてない可能性大だね。結希ちゃんもいずれあんな感じになっちゃうのかなぁ?」

 とか。

「あ、ここ前の学校で習ったことあるー。いえーい私勝ち組ー。これでテストは結希ちゃんに負けないー。くくく。悔しかったら勉強してきな!でも私には勝てないだろうけどね」

 とか。

「そういえば私前の学校で3人に告白されたんだよ。すごくない?やっぱりみんな少なからず私の魅力に気づいてくれてるようでうれしい限りですなー」

 とかすごい。

 もう、とても俺一人では捌ききれないような量の会話を要求してくる。これでは授業に集中なんてできっこないが、こんな会話が昔はいつも通りのひとつだったと考えると少しそれをやめるのはなんとなく気後れした。

 その結果俺は授業半分会話半分で午前の授業を受けた。

 まったくやっかいなものではあるが、それでも俺はなんとなくこんな時間が心地よいと感じている節があるのだから不思議である。

 しかし、忘れてはいけない。俺はいま女なのだ。決してそれをばれるわけにはいかない。特に東八重には!


「ねー!弁当忘れたー!」

 昼休み。

 授業が終わり、皆それぞれに弁当を食べたり、部活の集まりに出席したり、購買でパンを奪い合ったりと休みとは名ばかりに多少の忙しさをみせる時間帯。

 俺はいつも通りに登校途中に寄ったコンビニで買ったパンを食していた。

 いつも買うなんちゃってハンバーガーにイチゴがサンドしてあるサンドウィッチ、その他諸諸合計4つのパンである。

 どれもが美味でどれもそれぞれのうま味がある。

 俺がそんなパンの中からからどれを先に食べるかじっくり悩んでいると隣からの声が強まった。

「わーすーれーちゃったなー!」

 このままでは東八重がただのうるさい痛い子になってしまう。

 そんな棒読み台詞を頭の中で呟きながら言った。

「おーい。うるさいぞー」

 俺は優しく注意してあげた。

 俺はなんて優しいんだろう。優しい検定5段ぐらい余裕で取れそうだ。

「結希ちゃんひどーい。そんなんじゃ優しい検定10級も受からないぞー!」

「え?優しい検定ってそんなふざけた名前の検定あるのか?」

 俺が適当に思い付いた検定の名前が出てきてついつい素で質問してしまった。

「うん!私がいま作った!」

「で?俺は今は何級なんですか?検定官」

「100級」

「多いよ」

 言うと東八重はどや顔を浮かべた。

「ムッかつく顔してんなぁ」

「はい。今ので103級になりましたー」

「めんどくさいなぁ。で?どうしたのさ」

 俺は本当に仕方なく尋ねた。

 すると東八重は姿勢を正してお辞儀をしてきた。

「お弁当を忘れたのでパンをください」

 あの東八重のこんな礼儀正しいお辞儀を俺は初めて見た。これが出来るのならなぜ今まで周りの大人たちに迷惑をかけてきたんだ。

 そう思わざるをえない。

 俺はそんな感情を言葉にすることを必死に抑えて、俺のテーブルにパンを広げる。

「この中から2こまで食べていいよ」

「おぉ!さすが結希ちゃん!やさしー!」

 言うと同時に東八重は迷うこともなくドーナツとロールパンを取った。おそらく既に決めていたんだろう。

「ふぁ、ほふひへはふぁ~?(あ、そう言えばさ~?)」

 何気なくという風に東八重はパンをかじりながらふぁふふぁふ言い始めた。

「なんて?」

 東八重はごくんと飲みこみ、ハッキリとした口調で答える。

「本当に結希ちゃん(・・・・・)になっちゃったの?」

次回→転校生 その3


秘密を守れ。

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