表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

インベントリ最強説

 インベントリの素晴らしさとゲーム内料理の美味さを伝えたかっただけの話。



 異世界生活、というか、ダンジョンマスター生活三日目。あの後直ぐに地下に作った拠点に籠り、この3日はひたすらダンジョン作りに励んでいた。

 ダンジョンとして作った地下拠点は、気温、湿度、明るさまでもが自在に調節出来る、とんでも快適空間だった。寝床は心配せずとも[カタログ]に[寝具]の項目があるし、食べ物は食材も調理済みのものも大量にあるのでこれまた全く心配ない。


 寝食共に安定感ばっちりな引き籠り生活、最高です。


「あ、そうだ」


 ダンジョン制作がひと段落したので、気分転換も兼ねて、思考認識でアイテムを出し入れする練習を始めた。うまくすれば、普通の鞄か[収納袋]から出したように見せつつ[インベントリ]から出すことが出来るだろう。あと出来たら格好良い。


 [収納袋]とは、なめし革等で作った袋に特殊な時空間魔法をかけ、数日にわたり魔力を注ぎ込んで作り上げた物である。時魔導士でも丸一日かかるらしい。

 その[収納袋]ですら、精々内部の時間経過を遅らせ、容量を2倍程に拡張するのが精いっぱいだという。平均して、3~4日で一日経過分くらいにはさせられるそうだ。少しは日持ちさせられるようだ。

 対して[インベントリ]は、物を亜空間に収納する機能の為それらしい容器が無い上に、その内部で時間が経過することは全く無い。大量の金が収納出来るのもそうだが、150種類のアイテムを各99個まで収納することが出来て、更に生物(なまもの)が腐ったり傷んだりしないなんて凄過ぎる。


 俺はどのスキルや魔法よりも、ダントツでこの[インベントリ]が一番のチートだと思うのだ。ジョブ全取得済とかステータスサーチとか、他のどのチートが無くともこの[インベントリ]と[言語翻訳]があれば、それだけで神(森田さん)に感謝しまくったことだろう。

 …うん、[言語翻訳]は大事だよな。言葉が通じなきゃハードモードどころかヘルモードだからな。チートさんありがとう。


 さて、練習を始めて2時間程経過しただろうか。大分自然にアイテムの出し入れが出来るようになったと思う。物体の大きさや重さで多少の誤差がありなかなか難しかったが、難易度を考えれば思ったよりも早く慣れることが出来たと言えるだろう。

 出来たらラッキー、くらいに思い試しにやってみただけだったが、わざわざチェストを取り出さずしてチェスト内の物まで瞬時に取り出せるのにはかなり驚いた。いやあ、インベントリ様様ですわ。


――― ぐぅぅぅぅ。


「…おっふ」


 気を抜いたからだろう、腹の虫が鳴った。確認をすると、時刻は13時を迎えようとしていた。


「うっし。飯にするか」


 せっかくだから外で食べよう。地下に籠ってばっかじゃ身体に悪いだろうしな。


「うーん、良い天気だ!」


 転送を使い外に出ると、清々しい晴天だった。爽やかな空気を胸いっぱいに吸い、草原のど真ん中に腰を下ろすと、今日の昼食を取り出した。

 ごく自然にインベントリから取り出したのは、木の器に入った[黄金出汁の親子丼]。温かい器からは湯気が出ており、出汁のいい匂いが俺の鼻と腹を刺激した。


「ふおぉぉぉ…!!! うまそう!!」


 この“黄金出汁”とは、普通ならば昆布やかつお節から取った出汁のことだろうが、こちらではスケルトン・ゴールドの骨から取った出汁のことだ。その名の通り透明感のある金色で、さっぱりしているのに濃厚な旨味があり、甘みや深みもある最高の出汁…らしい。

 らしいというのは、画面越しの情報としてしか知らないからだ。だから、食べたいんだ!! あああ美味そう!!!


「いただきます!!」


 器に添えられていた木のスプーンでそっとすくう。いい匂いのそれを少し冷まし、ゆっくりと口にした。


「ん! ん~~~!!」


 美味い! うまーい!! 甘みのあるプリプリの肉、とろりと蕩ける半熟の卵、濃いのにさっぱりとした出汁…米も甘みがあってふっくらしていて、高級料亭の上品な親子丼という感じの美味さだ。

 俺のインベントリには、こんな美味いものが大量に入っているのか…! うーん、異世界最高! インベントリ最高!!


 あとはもう、夢中で食べた。そりゃあもう、気付くと米粒一つ残さず食べきっていたくらいに、夢中で。


「はー、美味かったぁ…。ごちそうさまでした!」


 調子に乗って2杯も食べてしまった。


 気になっていた食べ終えた後の器だが、器も料理の一部とみなされているらしく、食べ終えて数秒経つと自然に消えた。しかしインベントリにはしっかり[木の器]が追加されており、出してみると新品の状態に戻っていた。

 またすぐにでも料理に使える仕様なのはゲームの時と同様のようだ。いちいち洗ったり片付けたりする必要はなさそうで、衛生的にもだが、何より手間が省けて助かる。さすが、最強チートのインベントリさんです。


 俺氏、大満足である。


「んーっ!」


 腹も膨れ満足した俺は、大きく背伸びをして寝そべった。肉体的には大したことはしていないが、思考認識の練習などで精神的にかなり疲れた。

 吐き出した溜め息が、やけに重い気がした。


「…異世界、かぁ」


 視界一杯に広がる高い青空は少しも日本と変わらない、爽やかな晴天だ。いや、排気ガスなどの汚染物質が少ない分、日本―――地球よりも澄んだ空気と言えるだろう。

 不思議だ。この世界に来てまだ3日しか経っていないのに、この状況にも、この世界の空気にも、やけに馴染んでいる自分がいる。変な違和感は無い。まるで、生まれ育った世界のようだ…なんてな。


「さて、これからどうするかな…」


 人気のない開けた草原はスキルや魔法の練習にもってこいだが、このまま此処に居ても新しい情報は入らない。すぐ近くには村も街も国も無いから、じっとしていては人との繋がりが持てない。ぼっちが嫌だからとかではないが、ヘルプに無い情報や常識を知りたい。知らねばならない。

 となれば、街…いや国に行こう。地図によれば、ここから東にラウルス皇国がある。宿屋もギルドも騎士団もある一般的な国だし、そこなら一旦腰を落ち着けるには丁度いいだろう。

 西のロサでもいいが、あそこはこの世界では常識の奴隷制度すらない程に綺麗すぎる街だ。どうせ行くなら、適度に汚れた国がいい。綺麗な部分だけを見ていては俺は甘ったれ日本人のまんまだ。黒い部分も見て、知らなければ。ダンジョンの基準もわかりゃしない。


 ― ビーッ ―


「うをっ!?」


 気を抜いていたところに突然脳内で直接音が鳴り、驚いて飛び起きた。警報のようだが…侵入者か?


 ― ビーッ ビーッ ―


「ああ、もう! 煩い!」


 堪らず叫ぶと、俺の声に答えるように音が止んだ。音声認識か? しかし「煩い」とは言ったが「止まれ」とは言っていない。

 となれば、思考認識との併用か? 認識機能の性能優秀かよ…。


 それよりも先ずは確認だ。音は止んだが神経が昂ったままで落ち着かないし、危険が迫っている感覚が消えない。まるで無意識下に影響されているようだ。…少し怖いな。


 地図を確認すると、領域の端で敵反応である赤い点が4つ点滅していた。スワイプで拡大する。その過程で赤い点に触れたようで、現在開いているウィンドウの右に映像が出現した。

 映ったのは、冒険者風の装いの男女だった。先頭を歩くリーダーらしき碧髪長身の男と、その後ろを歩く赤髪のおそらく女、そして女の両隣を歩く茶髪でやや小柄な男が二人の、男3女1のパーティーだ。

 斜め上から彼らを見下ろすように映す映像は少々距離があり、画質は良い方だが瞳の色までは分からないくらいには遠くから映されていた。


 彼らと距離的にはまだ余裕があるが…どうしよう。彼らの進行方向には、まさに俺が行こうと思っていたラウルス皇国がある。多分、方角的にロサからラウルスへ向かう途中だろう。

 接触するか? それとも、このまま素通りさせるか…どうする―――?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ