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目が覚めて

 




「……っは!!!」


 頭痛がするような息苦しさに飛び起きた。身体が嫌な汗でびっしょり濡れていて気持ちが悪い。乱れた呼吸をゆっくりと整え、額の汗を手で拭った。

 どうやら悪夢を見ていたようだ。ということにしておこう。


「ふぅ、やれやれ。……え、あれ?」


 一息ついたところで、ようやく状況を把握することとなった。


「…おっふ。草原っすか」


 そう、俺が手をついているこの地面。ここら一帯、柔らかい緑の草に覆われていたのだ。ざっと辺りを見渡すと、右手後方の遠くには山が、左前方には森が見えた。他はちらほらと咲いている花以外は辺り一面草、草、草だ。

 これも夢か、と頬をつねる。…痛い。普通に痛い。


『ちょっとMTで<ダンジョンマスター>してくんない?』

『死に戻りもフォローも出来ないから、十分気を付けてね?』

『この世界での認識ではゲームでも、ボクやキミにとっては現実だよ』


 意識を飛ばす前に聞いた森田さんの声が頭をよぎった。


 あの時、確かに「MTで<ダンジョンマスター>をしろ」そして「異世界転移」と言った。彼の言葉が本当なら、ここはMT―――つまりマグナ・テンプスの何処か、ということになる。

 現実化しているとはいえ、ゲームであるならばメニュー画面が表示出来るはずだ。


(ええと、メニューは……っと、おお???)


 頭で「メニュー画面を開きたい」と考えた時、小さな起動音と共に、目の前にB4サイズ程の半透明の窓のようなものが表示された。


「…おう、マジかー」


 見覚えのあるメニューウィンドウ。うん、確かにMTで見た物だ。


 二次元に飛ばされる、なんて、そんなの夢物語と思っていたが…しかしこりゃあ、さっきのは夢じゃなかったということですかね。


 気持ちを切り替え、どれどれ、とメニューウィンドウに顔を近付けた。

 薄緑のウィンドウに黒文字で表示されている項目は左側に寄っており、上から順に「ステータス」「インベントリ」「装備確認」「マップ」「スキル」「アビリティ」「ダンジョンメニュー」「カスタマイズ」「ヘルプ」とあった。

 操作方法や情報を求め「ヘルプ」を開こうとするも、メニューのように脳内で考えても開かなかったので、タッチパネルの要領で触れてみる。


「お、開いた。つか触れた」


 ヘルプにはメニューよりも多くの項目があった。メニュー等の操作方法や戦闘方式、この世界の歴史、主要各国の特色や現状など、予想よりも詳しい情報が書いてあった。

 画面越しの時との違いも事細かに書いてあったが、そういったものは森田さんが特別に書き加えたものらしい。あの緩い喋り口調のまま書き記されており、おかげで最後まで読むのに少々苦労させられた。読み進めるごとに苛立ちが募るのを止められず、何度も舌打ちをしてしまった。


 順に調べたところ、声に出さずとも操作可能なのはメニューの開閉のみならず、アイテムの出し入れやスキル・魔法の発動まで出来るようだった。ほとんどが音声認識もしくは多少コツがいるようだが思考認識が可能らしい。思考認識だなんて、慣れればとんでもなく便利なチートだ。

 この「ヘルプ」と「ダンジョンメニュー」の項目に限り、さっきのように触れて操作する必要があるらしい。


 細かいことは必要に応じてその都度再確認していくとして、気になるのはヘルプの一番下に出現した最後の項目だ。各項目に付く「NEW!」を消すように片っ端からざっくりと読み進めていったところ、全てに目を通したら現れたのだ。

 タイトルは「園田くんへ」。十中八九、森田さんからのメッセージだろう。面倒事の予感がする。正直、ちょっと読みたくない。…が、読まないわけにはいかないよなあ。


「…しゃーない、読むか」


 よし、と気合いを入れてから開いた。すると今までとは違い、文字の代わりに「ヴゥン」という起動音と共に新たなウィンドウが出現した。


「うぉ、っと」


―― [やあ、園田くん。] ――


「へ!?」


 新たに開いたウィンドウから森田さんの声が聞こえた。見ると、このウィンドウはよくある音楽再生画面に似ていた。


―― [これを聞いてるってことは、ヘルプにある項目を全部読んだみたいだねぇ。偉い偉い。いやぁ、ちゃんと読んでくれたみたいで良かった。この音声データが無駄になるところだったよぉ。] ――


 やっぱり全部読まないと聞けない仕様だったんだな、これ。つーか、もし俺が隅から隅までヘルプ読まずに放置とかしたらどうするつもりだったんだ。後回しにしなくて良かった。


―― […さて。悪いけどあまり時間がないんでね、手短に話すとしよう。突然な事で酷く混乱していることだろうと思う。先ず、私の力が足らぬばかりに碌な説明も無しに転移させることになってしまったことを、謝罪させて欲しい。済まなかった。] ――


 …いやいやいや、ちょっと待て。誰だこのイケメン。知らない。俺こんな人知らないぞ。こんな、どこぞのお偉いさんみたいな良い声のお兄さん、俺は知りませんよ!!

 うおおお…、あまりの変わりっぷりに鳥肌が…。


―― [改めて自己紹介をさせてくれ。私はクロード・マクシウェル。そちらの…マグナ・テンプスの、コンコルディア帝国出身だ。] ――


「い、異世界人…!?」


 いやいや…ちょっと待ってくれ…。もう、何が何だか…というか、どこから突っ込んだらいいのやら…。


 落ち着け、俺。落ち着いて最初から再生しなおそう。そうだ、そうしよう。

 ちゃんと一時停止や巻き戻しの表示があるんだ、何度でも聴けるはずだ。今度は取り敢えず最後まで一気に聞いてしまおう。






―――  やあ、園田くん。

 これを聞いてるってことは、ヘルプにある項目を全部読んだみたいだねぇ。偉い偉い。いやぁ、ちゃんと読んでくれたみたいで良かった。この音声データが無駄になるところだったよぉ。


 …さて。悪いけどあまり時間がないんでね、手短に話すとしよう。

 突然な事で酷く混乱していることだろうと思う。先ず、私の力が足らぬばかりに碌な説明も無しに転移させることになってしまったことを、謝罪させて欲しい。済まなかった。

 改めて自己紹介をさせてくれ。私はクロード・マクシウェル。そちらの…マグナ・テンプスの、コンコルディア帝国出身だ。現在特殊な任を受けこうして日本に拠点を移しており、訳あって君をそちらに招待させてもらった。


 色々と細かな理由はあるのだが、簡単に言ってしまえば、世界のバランスの為にこちらからそちらへ人を寄越す必要があってね。

 君は以前から二次元や異世界といったものに強い興味や関心があり、加えてそういう世界に行くことを望んでいる節があっただろう? 身体能力的に冒険者としては少々(あや)うくても、生産系の職や施設の運営といった裏方仕事なら、君は十分に異世界ライフを送れるだろうと思ったんだ。

 だから、ダンジョンの運営・管理なんてどうかと思ってね。ゲームっぽくていいだろう?


 しかしまあ、正直に言ってしまえば世界レベルの厄介払いかな。地球の人口は多すぎるからねぇ、ははは。


 …そして、すまないが私はこれ以上の手出しは出来ない。メニューの扱い含め詳しいことは全て「ヘルプ」に書いてあるし、…まあ君なら大丈夫だろう。

 勿論私を恨んでくれて構わないが、しかし折角の異世界生活だ。念願の二次元行きだろう? 出来れば、大いに楽しんでくれ。


 君らしく、好きなように生きてくれ。…それが、君のそちらでの役割だ。


 ああ、それから。いつか、いつかまた会えたら…美味い酒でも、奢らせてくれ。

 …じゃあ。元気でね、園田くん。 ―――






 再生が終わり、停止した画面があるだけとなった。


「……はぁ」


 森田さん、いや、クロードさんの話を聞いてようやくじわじわと実感してきた。最後の最後に彼の寂しそうな声を聞かされたからだろうか。


 手短に、とか言いながら随分と長々と喋ってくれたもんだ。

 クロード・マクシウェル、か。コンコルディア帝国出身って、コンコルディアは冒険者ギルド発祥の地にしてこの世界の中心じゃないか。エリートか、ちくしょう。なんだかんだと色々言っていたが、要は「俺なら異世界生活に耐えうると思い選んだ」ということだろう。

 つーか「ははは」じゃねーんだよ!! 爽やかにとんでもない爆弾を投下しやがって…厄介払いってなんだよ! しかも世界レベルとか! なんて規模のデカいイジメだ、ちくしょう!! 酷い!!


「……はあ」


 しかし、と頭を掻く。


「恨む、か…。まあおかげで夢の異世界転移が出来た訳だし、俺なら大丈夫…なんだろう? ありがとうと言っておくよ、クロードさん」


 視界に浮かぶメニューを見ながら呟いた。

 パソコンの画面で見ていたそれは、厭に俺の視界に馴染んでいる。それも今や触れることが出来る現実だ。


 またクロードさんの音声データを再生した。声を聴きながら、本当にマグナ・テンプスに来てしまったんだなと、ほんの少し視界が滲んだ。


 …でもな、森田さん。俺知ってるよ、俺がダンジョンマスターになった本当の理由。



[ダンジョンマスターが足りなくて、丁度良く園田くんが地球からあぶれたので、キミには特別に現地でリアルにガチでダンジョン創りしてもらいまーす。ふぁいとー]



 ―――って、テメェがヘルプに書いたんじゃねーかこの野郎!



 



[ダンジョン]

 ダンジョンとは、異常に魔素濃度が高まる現象“魔力溜まり”から自然に生まれるものである。


[ダンジョンマスター]

 本来自然現象であるダンジョンを意思を持って作成出来る者のことを“ダンジョンマスター”という。

 ダンジョンマスターは“魔力溜まり”を利用し、人を育て、生かし、豊かにするためにダンジョンを創る。しかし、ダンジョンには残酷さも必要となる。故にダンジョンマスターは主に他世界の者が務め、フィクションとしてダンジョンが創られるのである。

(ダンジョンマスターが足りなくて、丁度良く園田くんが地球からあぶれたので、キミには特別に現地でリアルにガチでダンジョン創りしてもらいまーす。ふぁいとー)



  ―――― [ヘルプ ダンジョンについて] より




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