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異世界にスカウト

 



 ―――事の始まりは、一本の電話からだった。




 独り暮らしの部屋に、カタカタと愛用PCのキーボードを叩く音が響く。軽く数時間は座りっぱなしだろうか。


「あー、腰痛い。死ぬ」


 長時間同じ体勢で座っていたため腰に被害が出てしまった。最悪だ。



 俺、園田涼太(そのだりょうた)がネットで小説家として活動を始めて早8年。有り難いことに4作品が書籍化しており、現在連載作品を2本抱えている。今では作家生活にもすっかり慣れ、気分は一流小説家だ!


 …などと言ってみても、本の売り上げだけで食っていくなんて夢のまた夢。結局は趣味の域を出ないのだ。

 所詮は、最近よくいるラノベ作家の端くれ。普段は某有名飲食店のキッチンでバリバリ働いていて、その片手間に小説を書いているようなものだ。夢の印税生活はまだですか。


 ― Prrrr…Prrrr… ―


「おん? 電話か。はいはい、どちら様ですかー…と」


 慌てて資料に埋もれているスマホを発掘し、相手を確認し首を傾げた。


「え、森田さん?」


 電話の相手は、俺の担当編集者である森田さんだった。書籍化作業の締め切りはまだ先のはずだが、なんの用だろうか。


「もしもし?」

『あっもしもし、園田くーん? お疲れ~』

「あっはい、お疲れ様です」


 電話越しだというのに思わずへらりと笑った。相変わらずのゆるい喋り方に、ついこちらの力も抜けてしまう。


「どうしたんすか、締め切りまだっすよね?」

『あーうん、そだよー。今日は催促じゃなくて、お願いがあって電話したんだよねぇ』

「お願い?」


 何だろう、嫌な予感しかしないんだけど。


『園田くんさぁ、確かMTのヘビーユーザーだったよね?』

「MT…? もしかして<マグナ・テンプス>ですか?」

『そう、それ! 国王とか国創るとか面倒だからやめたーって言ってたやつ!』

「ああ! あの、10年間人気ネットゲームランキング1位だった!」

「そうそう~!」


 おー。懐かしいな、マグナ・テンプス。全ジョブ制覇すると新しく<国王>というジョブが出現して急に国家運営になるやつな。当時かなり流行ったし、俺もやりこんだなあ。



「MTがどうかしたんすか?」

『うん。あのねぇ園田くん、ちょっとMTで<ダンジョンマスター>してくんない?』

「え? <ダンジョンマスター>?」

『そー、ダンジョンを運営するジョブだよぉ』


 はて、と首を傾げた。そんなジョブ、MTにあっただろうか。少なくとも俺の記憶にはないが…。


『このところ全然面白いこと起こらなくなっちゃってねぇ。仕方ないから、この間新しく作ったんだ』

「へえー」


 って、ん? ん?? ちょっと待って。え、今この人作ったって言った? ジョブを?


『ほらぁ、ボク、元ゲームプログラマーじゃん?』


 ああ、そういえばそんなこと言ってたような。


『実はボクが作ったんだよねぇ、マグナ・テンプス』

「っ、作った!?」

『そーう! 元々趣味で作ってたんだけど、それを元に企業と協力して本格的に作ったのが今のマグナ・テンプスなんだよぉ。まああれだね、趣味が高じてってやつだね』


 あはは~、と朗らかに笑う森田さん。というか、趣味!? 趣味でゲーム作ってたの!? いや、しかし、確かこの人…。


「…あの、森田さんって確か多彩な趣味をお持ちでしたよね」

『ああ、うん。そうだねぇ』

「例えばどんなのがありましたっけ…?」

『えーと。ゲーム作りと、作詞作曲、音楽繋がりでMIXにボカロPでしょ、あと二次創作のBL小説と、同人漫画の原作シナリオとー…そんなとこかなぁ。あ、あとバスケと少林寺拳法!』


 おいぃぃぃ!! 色々とやりすぎだろ、ハイスペックすぎるだろ!! というか、趣味か…全部趣味なのか…。怖い、怖いわこの人!!


『園田くーん、聞いてる?』

「ああはい、すみません。聞いてます」


 森田さん、何で編集の仕事してるんだろう…。もっといい仕事あるだろうに。


『それで、向こうでの状態だけどねぇ。ステータスとジョブのレベル、あとスキルとアビリティも、キミの使用キャラそのままに出来るよう努力するよ。アイテムは種類別にそれぞれチェストに放り込んでから、そのチェストごとインベントリに入れておくねぇ。あ、向こうで使えるものは全部入れておくから、安心していいよー』

「え…あの…えっと……?」

『あとはそうだなぁ、カタログに学習・成長機能付ける? ああ、この世界の料理出せるようにするとか…うん、いいねぇ、そうしよう! 特別サービスだよぉ?』

「カタログって何? ねぇカタログって何!?」

『うふふ…ひみつぅー』


 何やら楽しそうに捲し立てる森田さんについていけず、俺の脳内を文章というより大量の単語がぐるぐると駆け巡る。


 あー待て待て待て、そんなに一気に言われても頭が追い付かないって! 俺の頭はあんた程ハイスペックじゃないんだから!


「あ、あの森田さ…」

『ねえ園田くん。キミ、二次元に行きたいって言ってたよねぇ?』

「えっ…ああ、はい。そうですけど…」

『―――それ、ボクが叶えてあげる』


 くすりと笑った森田さんは、それはそれは良い声で言い放った。


 まったく、相変わらず仕事以外では人の話聞かないんだから。しかし、まあ。


「…本当に行けるんですか?」

『ふふっ。ああ、勿論だよ』


 言いたいことは山ほどあるけど、その「二次元に行きたいか」という問いに対する俺の答えは、ただ一つだ。


「じゃあ、よろしくお願いします」

『はぁい、お願いされましたー』


 こちとら二次元に行きたくても行けないから自称小説家やってんだ、ここで断ったら嘘だろ!


『というわけで、早速行ってもらうねぇ』


 電話越しにカタカタ音とがする。恐らくパソコンのキーボードを叩く音だ。


「エッ今ですか?」

『うん、今ぁ』

「え、ちょっ」

『はぁい、じゃあ転送しますよー』


 早いよ!! ちょっとくらい待ってくれても良くないか!? というかこの人ほんっと人の話聞かないなあ、もう!!!


『あっ言い忘れてたけど、一度向こうに行ったらもうこっち戻れないし、ゲームとはいえ現実だからね。死に戻りもフォローも出来ないから、十分気を付けてね?』

「へぁ!?」

『まぁ、死なないよう頑張って異世界ライフ満喫してねぇ』


 不吉ううううう!!! 死ぬとか、不吉なこと言わないでええええ!!!


「って、え、現実!? ゲームじゃなくて!?」

『うん? ゲームだよ?』

「えっ!? でも今…」

『この世界での認識ではゲームでも、ボクやキミにとっては現実だよ。異世界転移ってやつだねぇ』


 おいおい、マジかよ…!! ガチで二次元行きじゃねえか!!


 何が何だか分からず、無意識に混乱する頭をガシガシと掻いた。


『だぁいじょーぶ!! スキルも身体能力もスペックは完全にチートだから! しっかり使いこなせば、死ぬなんてほぼ有り得ないよ!』

「ほ、本当ですか?」

『…うん、使いこなせばね。ちゃんと使いこなせば、ちゃんとチートだから。うん、大丈夫大丈夫』


 ちょ、不安!! その言い方すっごく不安なんだけど!!


「信じますよ!? 俺、信じますからね!?」

『うむ、ボクを信じなさぁい! …まぁ、ハーレムは叶わないだろうけどねぇ』

「ちょっ…森田さあああん!?!?」


 大事!! それ結構大事ですよ森田さん!!!


『じゃあ園田くん、いってらっしゃーい』

「ちょ、待っ…森田さああああああああん!!!!!」


 人の話を聞けええええええい!!!!!!



 

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