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水の味  作者: 鉄の男
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五話

こんばんわ。私です。今森の入口に居ます。

初めて森の外に出ました。感激です。こんなに嬉しい事はありません。少しウルッとしました。

そして遠くの方角から明るい何かが見えます。恐らく街か村じゃないでしょうか。

いいですね。人の作るあかりほど安心するものは無いと思います。

今すぐにでも行きたい所ですが、まだ心の準備と言う物が整っていません。それにこの人をどうにかして

別の人に見つけて貰わなくては。見た所盗賊のようなやからはいません。まぁいたら間違いなく隠れてるんでしょうけど。夜ですし、少し暗い所に隠れられればまず見つかりません。

さぁどうしたもんでしょうかねぇ。夜中にこんな場所の前を通る人なんているのでしょうか?

いないと困ります。誰でもいいので来てください。お願いします。


……お?。だれか歩いてきてますね。やったぁ!私の願いは届きましたよ!ありがとう神様!

ただ…どうしましょうか。いきなり男女でいて「助けてほしい」とか言われても盗賊の罠とか思われたりしそうです。少なくとも私は疑います。


仕方ありません…この地図だけ拝借して後はあの人に任せましょう。

風貌から盗賊とかではなさそうなので大丈夫でしょう…多分。

ではさらばです。見つからない内にトンズラ致しましょう。



__________________________




僕は夢を見た。女神様の夢だ。死んだ後でも夢は見る物なのだろうか。

でも素晴らしい夢だった。僕の夢が叶えられた感じがする。

その夢は女神様が僕を介抱してくれてる夢だ。こんな僕の為に自分の膝に頭を乗せてくれて、しかも女神様の水を飲ませてくれたんだ。それに水だけじゃない。美味しい食べ物を口に運んでくれるんだ。体を動かせない僕の事を優しく介抱してくれたんだ。これ程嬉しい事は無いと思う。

そして僕はその女神様の顔を見た。体を動かせなかったので全体像は分からなかったけど、その顔はとても美しかった。ダークブラウンのウェーブがかった髪の毛は自身の視界には収まらないほど長く、その整った綺麗な顔の中にある大きな目の中に納まっている薄いブラウンの瞳は僕の瞳をはっきりと見つめていた。

それを見るだけで僕の心は満たされていった。まるで聖母のようだ。だが僕が知っている聖母の様に歳は取っていなかった。正しく女神と言うに相応ふさわしかった。

少し時間が経ってから僕は無意識に何かを呟いてしまった。その時言った言葉は僕でも分からない。

でも、その後に女神様は僕の頭を優しく抱擁した後にこう言ってくれたんだ。


「大丈夫です。貴方は死にません。無事に生きて帰れますよ。」


その言葉を聞いた途端、僕は涙を流してしまった。

絶対に助からない僕の事を女神様は励ましてくれたんだ。その声は聴いていて嫌にならないし、寧ろ僕の耳を癒してくれるかのようだった。いや耳だけでじゃない。心も体も癒してくれた。

抱擁された時にふわりと僕の鼻に入ってきた匂いは脳を溶かしてしまうのではないだろうかと思わせる程とても良い匂いだった。

死んでいく僕の事を女神様は見送ってくれるんだ。誰にも看取られず死んでしまう僕を、女神様は看取ってくれるんだ。

僕はそれだけで胸が救われる気持ちだ。現に今がそうだから。


女神様。伝説の森に住まう美しい女神様。僕は最後に貴女あなたに巡り逢えて嬉しかったです。

もし願いが叶うのであれば、もう一度逢いたい。ちゃんと面と向き合って話がしたい。

そう思ってから僕は少し悲しくなった。叶う訳がない事を願っている自分の事に。

そして僕から女神様が離れて行く光景を見ながら、そこで僕の夢は終わった。




__________________________




「……!!…………!」


誰かが僕の近くで叫んでいる。死後の世界だろうか。

何度も何度も何かを叫んでいる。


「…ド……ド……きて!」


ん。僕の名前の様な言葉が聞こえる。誰か僕の事を呼んでいるのだろうか。


「トルド!起きてよトルド!親より先に死ぬなんて子を育てた覚えはないよ!起きてトルド!」

「うぅ…。あ…れ……母…さん?」

「トルド!?目を覚ましたのかい!?せんせぇ!早く来て頂戴!トルドが、トルドが目を覚ましたよー!」


ドタドタと床を歩る音が近づいてくる。それよりもどういうことだ。ここは死後の世界ではないのだろうか。ここは自分の家で叫んでいた声の主は母さんだ。訳が分からない。


「トルド君目が覚めたのかね!?これが何と書いているか、読めるかい!?」

「風…の…魔……法に…関…する…書………です……か?」

「おぉ!意識もはっきりしておるな。もう大丈夫だろう。お母さん、もう安心ですよ。時間が経てば徐々に回復していくでしょう。峠は越えたでしょうな。」

「おぉトルドや!無事で何よりだよ!全くこんなにあたしを心配させるなんて…当分冒険は禁止にするからね!」

「母さん…。僕は…死んだんだろう?どうして此処に僕が_____」

「何言ってるんだい!アンリちゃんがお前の事を見つけてくれたんだよ!森の入口の前でね!アンリちゃんが見つけてくれなかったら死んでたかもしれないんだよ!後でちゃんとお礼言っとくんだよ!」


なんということか。僕は生きている。僕は間違いなくあの穴で死んだ筈なのに。どうして…。奇跡でも起きたというのだろうか。でも足は穴に落ちた時に打撲して満足に歩けなかった。こうしている今も足は…痛くない!?。そんな馬鹿な!打撲と言えども一日そこらで治る筈が無い!

僕は体の上に掛けられていた布団をガバッとどかして自らの足を確認した。

医者の先生と母さんが驚いている。そりゃそうだ。今まで気を失って寝ていたのだから。

だがそれよりも僕はもっと驚いてしまった。足の打撲が治っていた。まるで打撲したこと自体が無いと言うほどに。それに身体中の関節もちゃんと動く。僕は信じられなくて医者の先生に質問した。


「先生。僕の体には傷一つないんですか?」

「あぁ。アンリ君が言うには、見つけた時は服は所々汚れていたが別に大きな傷は無かったと言っていた。他には君の荷物の中に入っている食料が減っていたぐらいだろうか。私の物ではないので何がなくなったかは知らんが、少なくとも荒らされたという形跡は無かったらしい。だが後で荷物を確認した方が良いだろう。もしかしたら何か盗まれているかもしれん。意外と小さな物が盗まれていたりするものだからな。だが今は取りあえず寝ていた方が良いだろう。そろそろ王国兵がトルド君の聞き取り調査に来るだろうが、寝たまま質問に答えるだけで良い。別に捕まえるつもりなど無いからは。ハッハッハッ!」

「そうなんですか。じゃあ聞き取りに来た時に先生にも母さんにも事情を詳しく話しますね。」

「そうしたまえ。私も少し気になっておるからな。どうして無傷で森の入口に倒れておったかを。」

「あたしはいいさ。今から食材を買ってきてお前にご飯を食べさせなくちゃいけないからね。兵士さんが来たらちゃんと質問に答えるんだよ。それじゃあね。」


そう言うと母さんが部屋から出て行ってしまった。先生は暇つぶしに僕の書いた研究論文を読みたいと言ってきたので、僕は了承した。

先生が僕の研究論文を読んでいると、扉からコンコンと音が聞こえた。

それに気づいた先生が廊下を歩いていき扉を開けた。


「こんばんはガルフ先生。城からの命令で聞き取り調査に来ました。えぇと…トルド君に会っても?」

「あぁ構わんよ。ちょうどつい先ほど彼が目を覚ました所だ。ベッドに寝ている状態でも構わんかね?」

「大丈夫ですよ。簡単な聞き取りですので直ぐに終わりますから。」

「分かった。私の家ではないが、入りたまえ。」

「では、お邪魔しますね。」


そう言って王国兵士である人が僕の部屋に歩いて入ってきた。優しい表情をしている。

犯罪者でもなければ脱走者でもないんだから、当たり前と言えば当たり前か。

その人はベッドの隣に置いてあった椅子に座ると、左手に持っていたかばんから小さい板と紙と白い羽ペンを取り出した。羽ペンは僕の持っている物と同じ物のようだ。

兵士は紙を小さな板の上に置いて僕に質問をしてきた。


「簡単な質問なので大丈夫ですよ。直ぐに終わりますから。」

「答えられればいいですけど…。」

「大丈夫ですって!別に答えられないからと言って捕まえたりしませんよ。ハッハッハッハッ。」


そうして僕は兵士さん…名前はローレンと言う人に聞き取り調査を受けた。

別に難しい事は言われなかった。何をしに行ったのか。どうして倒れてしまったのか。身体は大丈夫なのか。盗賊には会わなかったのか。そんなことだった。ただ、一つだけ僕にも分からないことがあった。

話を聞いていた先生もローレンさんもそれを興味津々で聞いていた。

穴に落ちてしまい、そこで倒れてしまった僕が、どうして森の入口に居たのかが分からなかったんだ。


「不思議ですね。話の内容からトルド君が嘘をついている様には見えませんし、何より穴に落ちたとするならばいくら浅くても少し位身体のどこかに傷があるはずです。」

「そうだな。他にも言えば、見つけられた時の服の汚れはそこら辺の土じゃ絶対に付かない汚れだとアンリ君も言っておった。なら穴に落ちたという話は本当だろう。何とも不可思議な話だな。」

「はい。僕にもそれだけが分かりません。まだ意識がある内に分かっていたのは、足の打撲と打ち身で体の関節が痛かったことです。医者でもない僕からしても、そんな傷は一日では治らないと分かります。でも…」

「身体の何処にも傷はついてなかった。そうですね?」

「はい。その通りです。」

「わからんのう。そんなの有り得ない筈なのだが、現に起きておる。信じるしかないのう。トルド君、他にはないのかね?」


そう先生に聞かれたので僕は夢の事を言った。現実に影響がない夢の話をした所で何があるのかは分からないけど、一応話すに越したことはないと思ったからだ。


「他には………変な夢を見た事ですかね。まぁ夢なのであまり気にしていませんが。」

「夢?それはどんな夢だったのかね?」


そう言われた後、僕は夢の内容を先生とローレンさんに話した。

女神様が僕を介抱してくれたこと。そして僕が夢の中で女神様の水を飲んだ事。

覚えている限りの事を二人に伝えた。

すると話を聞いていた先生が妙な事を僕に言った。


「そういえば、私が気を失っている君の体を診察していた時、君のひたいに妙な魔力を感じた。先程までは気にも留めておらんかったが…もしや夢と関係あるのではないのかね?」

「僕のおでこにですか?おでこ…おでこですか…。」


僕は改めて夢の内容を思い出した。もしかしたら気付いていない事があるかもしれない。

二人には少し待ってほしい事を伝えた。二人とも頷いた。ローレンさんはその間羽ペンを使って、何か紙に書いている。聞き取り調査を纏めているのだろう。


さぁ思い出せ僕の頭。夢の内容を全て思い出すんだ。

女神様が僕に何をしてくれたのか。

……そういえば夢の後半の方に聞こえたあの音は何だったのだろうか。なんか僕の頭らへんで聞こえた音があった。

確か…『チュッ』って音がした。まるでキスをした様に………いや待てよ。もしかしてあの時に聞こえたのは、女神様が僕のおでこにキスをしたのでは!?それなら音と先生が言っていた謎の魔力も合点がいく!


「思い出しました…。僕は夢の中で……おでこにキスをされました…女神様に…。」

「……それは本当かね?間違いはないのかね?」

「えぇ。間違いありません。女神様は夢の中でおでこにキスをしてくれました。」

「…ローレン君。今すぐ私の家から道具を取ってきてはくれんかね?いつもの机の上に置いてある大きな鞄の中に道具がある。直ぐに分かるはずだ。頼まれてはくれんかね?」

「構いませんよ。先生にはいつもご迷惑をおかけしていますので、それくらいの事であればいつでも頼んでください。家の鍵を貸して頂けますか?」

「あぁこれだ。なるべく早く頼む。」

「了解いたしました。早急に持ってきます。」


そう言うとローレンさんは部屋から走って僕の家から出て行った。

どうしたというのだろうか。理由を先生に聞く事にした。


「先生。一体どうしたのですか?訳を聞かせてください。」

「トルド君。もしかしたら君の見た夢は、夢ではないかもしれんぞ。」








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