四話
ふぅ。なんとか荷物は片付きました。どうも。私です。
片付けた時に出た汗が簡易ブラジャーに染み込んで少し透けてます。雨が降ったら終わりですね。
まぁそんな事よりもです。今気になっているのは、この荷物の持ち主の事です。私なりに推理をして見た所、あの散乱具合的に、誰かに襲われて逃げたか、何処かに落ちてしまったかという事です。
この森には意外と所々に穴が空いています。探索している時に見つけました。
どうやらこの森は地下に大きな空洞があるっぽいのです。
まるで鍾乳洞のようにそれは入り組んでいます。一度だけ樹に纏わり付いている丈夫なツタを水の手君で引きちぎって下に降りてみたので間違いないです。
中は薄らと水色の光で照らされていてとても神秘的でした。それ以外に言葉が思いつきません。
話を戻します。もし誰かに襲われたとするなら、荷物は盗まれている筈です。ですがその荷物は私が触るまでちゃんと縛られていました。命目的でその人を襲ったのであれば荷物は触らなくてもいいですが、態々(わざわざ)こんな森の中で殺す必要もないですので、これは無しです。
なので私の推測は、誰かがどこかの穴に落ちてしまったのではないでしょうか。
だとするとこれは相当面倒くさいです。なんせ穴の数は無限大で、しかも穴の中はもっと入り組んでいますから、まず私一人じゃ全部探せないですね。
運が良ければ緩やかな坂になっている洞窟から地上に這い出ることが出来るでしょう。
しかしどうしてこんなに穴が空いてるのでしょうか…。此処だけならまだしも、他の場所でも穴を見つけました。まるで此処まで来させないように出来ています。
あとさっき気づいたのですが、どうやら初めの洗面台のある場所がどうやらこの森の最奥区域のようです。
というのも、この荷物の中に地図が入っていました。
それを見ると、此処までの道のりが事細かく書かれています。字も綺麗で読みやすいです。
…私…字が読めたんですね。何の思いも無く普通に見た事もない文字を読んでしまいました。
見た事が無い文字なのに普通に読めます。どうしてだろう…。まぁ読めるに越したことはありません。
良い事を知りました。嬉しいです。
さてさて、その地図には森の全体図が描かれていたのですが、初めて知りました。この森がとんでもなく大きい事に。現時点の地点から、私の住んでいる場所まで逆算すると、ちょうど森の真ん中なのですよ。
どうりで外に出れない訳です。私が回っていた場所は全て中心から離れていませんでしたから。
今日は最後という事で結構進んでみたので此処に居ます。
やはり神様は私を見捨てなかったのですね。最後の日に人の痕跡を見つけさせてくれたんですから。
でも痕跡だけじゃなくて、どうせなら人を見つけさせてもいいですのに…。神様のケチ…。
どうしましょうか。見つかる確率が限りなく0%に近い人探しをすべきでしょうか。それともこの荷物を森の入口まで運んで行って人が穴に落ちたと知らせるべきでしょうか。
うーん…うーーーん。ここはひとつ運と言う物を試してみましょうか。この荷物は私の住処に持っていきましょう。盗まれないとは限りませんからね。…既に私が盗んでいますし。
限りなく0%に近い人探し。一丁やってみましょう。
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この森に入って10日が経ってしまった…。僕の考えが間違っていなければ10日目のはずだ。
なぜもっとちゃんと足元を見なかったのだろうか。それだけが悔やまれる。
穴に落ちてから3日…食料を食べていないので空腹が限界に近い。穴に落ちる前に少しでも食べておけば良かった。しかしこれは事故だ。誰も責めることはできない。自分の落ち度が招いてしまった出来事だ。
怖い。死にたくない。寂しい。空腹で辛い。生きたい。帰りたい。
気付けば僕は嗚咽を漏らしていた。今までだって何とかやってこれたのに。こんな所で僕の命は終わってしまうのか…。そう考えるだけで足の震えが止まらない。どうして…どうして…僕はこんな場所に来てしまったのだろうか。僕はただ知りたいだけなのに…。それすらも森は拒むのか。
もう諦めるしかない。
僕は力なくその場に倒れこんでしまった。わざと倒れこんだのではない。
もう立てないんだ。意識がおぼろげながらもあるのがなんとも言い難い苦しみを作り出す。
意識があるせいで空腹を感じてしまう。意識があるせいで絶望を感じる。意識があるせいで穴に落ちた時に出来た打撲の痛みが脳に伝達される。
あぁ…遂に視界が霞んで見える様になってきてしまった。この霞みは涙なのか。それとも意識が薄らいでいってのか。無念だ。本当に無念だ…。誰にも看取られず、このような場所で一人死んでいくのが、無念に他ならない。せめて…せめて誰か僕の今まで探求してきたその成果を継いでもらえれば、まだ悲しくは無かった。この先僕のやってきたことは全て忘れられるだろう。人々の記憶から僕と言う思い出だけが残るだろう。
母さん…父さん…俺…まだ…………死に…た……く…………。
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本当に奇跡と言うのはあるんですね。荷物を住処まで移動させた後、適当に穴々を見て行くと、見つけました。倒れている人を。その近くには、かけていたであろう眼鏡のレンズが所々ヒビが入っている状態で落ちています。もうこれは助けるしかないですね。その風貌からして、間違いなくこの人は男です。
まともな男であってほしいです。助けた後に襲われるなんてシャレになりません。
森の奥深くで男女がいるだけでも色々大変ですのに。さて。水の手君を使って運ぶとしますか。
あぁ眼鏡も忘れずにもっていかないと。
よいしょっと…あれ、この人生きてますよね?大丈夫ですよね?
息は…小さくしています。これはちょっと急がなくてはいけません。早く住処まで連れて行きましょう。
さて着きました。けど草のベットに寝かせるのはちょっと嫌ですね…。仮にも女性のベッドですし…。
仕方ありません膝枕をしてあげましょうか。そっちの方が男性も喜ぶでしょうし。
運んできている時に気付きましたけど、この人少し軽すぎます。相当お腹が減ってるのではないでしょうか。それに体に潤いがありません。間違いなく水分不足です。ですがその事実は膝枕をした後に気付いてしまいました。この人の物であろう食料はちゃんと隣に持って来たのに…。
するとなにかこの人が呟いています。なんて言っているのでしょう…。
「水……みず…」
やっぱり喉が渇いているんですね。ですが今は動けませんし。どうしましょうか水の手君…。
あ、この水で代用はできるのでしょうか。もしできるのであればこれでもいいですよね。
自然の水ほど冷たくはないですけど、別にぬるい訳でもありませんし。物は試しです。
私は小さく水の塊をその人の口元まで持っていきました。するとどうでしょう。
その人は無我夢中でその水を吸うではありませんか。人間死の淵まで来ると色々凄いです。
ですがその人はちゃんと意識が戻った訳ではなさそうです。眼を閉じてただひたすらに私の水をゴクゴク飲んでいます。なんか言葉が危ないですが、命に係わる事ですので無視しましょう。
ある程度水を飲むとその人は水の口から離しました。とりあえず命の危機は去ったはずです。
次に私は隣に置いてある瓶詰を空けて、付属していたスプーンでそれを掬ってその人の口まで運んでいきます。そのスプーンから漂う何とも良い香り…私も食べたいですが、その欲望を抑えてその人の口に入れて行きます。口はどうやら無意識のモグモグと動いて飲み込んでいきます。これは楽しい。
私は次々とスプーンをその人の口元へ運んでいきます。終わる事をしらない程食べて行きます。
するとどうやら途中から薄らと意識が戻ってきたみたいで、その瞳は私の顔を見ています。
「死に……たく…ない……」
どうやら恐慌状態に陥っているようです。冷静な判断が出来ず、思ったことを口に出しているのでしょう。
私はその人を落ち着かせるために頭を抱えて耳元で呟きます。
「大丈夫です。貴方は死にません。無事に生きて帰れますよ。」
これだけでも相当違うはずです。おびえている時や怖い時、人肌の暖かさを感じるだけでその思いは変わります。人ってすごいですね。
私の言葉を聞くと静かに涙を流しながらその人は言いました。
「…女神……様………」
そう呟くと再び深い眠りについてしまいました。女神様といわれました。とても嬉しいです。
さてさて、あとはこの地図を頼りに森の入口まで運んでいく事にしましょう。この地図によれば、近くに村へ通じる道が有るそうです。つまり人が通るかもしれないという事です。
ならばいずれ誰かが見つけてくれるはずです。後はその人に任せましょう。
そして私からもお礼を言わせてください。
私以外の人がいると教えてもらったのです。感謝感謝です。物は何もないので渡せませんがこれくらいならできます。
チュッ。
あ、おでこにキスをしました。口は愛し合う人と人がするものです。
べつに私はこの人と付き合っている訳ではありません。そこはちゃんと弁えていますよ?
さて、今度こそ連れて行きましょう。順調に進めば一日もかけずに入口にまで行けるはずです。
少しの間でしたが、人に会えて嬉しかったです。次はちゃんとお話をしましょうね。




