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水の味  作者: 鉄の男
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三話

その男の名はトルド。冒険者の中ではまぁまぁベテランの立ち位置に居る男だ。

彼が操る魔法は風魔法。バランスタイプの風使いと言った所だ。

アンリの様になにか珍しい魔法が使えるわけでもない至って普通の青年である。

青年というまだ大人の一歩を踏んだばかりの男は質実剛健を地で行く人間だ。

幼い頃から魔法を使って大人を助けて来たその青年の仕事の評価は中の上というものだ。

とんでもない魔法を使えるわけでもない。しかし青年の仕事っぷりは全て無難に終わる。

身の丈を知っているので誰かに逆らうという事もなく、その温厚で物静かな性格は各方面から良い評判だった。とりあえず何かあれば彼に頼めば無難に済ましてくれるだろうという事だ。

勿論仕事を依頼する側も青年の事を知っているので、青年の能力を超えるような仕事は回さない。

そんな彼が今、夢中になっている物がある。伝説の森の話だ。

伝説自体は幼い頃に読んだ童話で知っているのだが、彼が注目しているのはその童話にも出てくる美女が使う水魔法の事だ。


水魔法にも色々な種類がある。毒と言う魔法を使える者は水魔法と掛け合わせて毒水どくみず魔法を作ったり、中には珍しく火と水を掛け合わせて熱水ねっすい魔法を使う者もいる。

だがそんな彼らがいるにも関わらず未だ伝説だけの水魔法があった。

心の浄化作用を持つ水魔法。これだけが伝説に出てくる美女しか使えなかった魔法だ。

童話の中には「水のベールに包まれし者、悪と言う感情を捨て去り情に深い者となる」という魔法もある。

これも伝説の美女だけしか使えない水魔法だった。

幼い頃こそトルドはそんな物語を知るだけであったが、青年となった彼には深い探求心が芽生えた。

未だ誰も踏破とうはできてない偉大な森。その森には魔物が住み着かない所か寄る気配もない。

一時はこの森を伐採して新たなその土地を奪おうとした者もいたが、神聖な森を守る人がそれを許す筈がなく、その者は生きたまま魔物に食わされた。

青年はその森が気になって仕方が無かった。いや、探求したかった。

伝説は間違いなく本当の事だろう。だがその美女を見た物は居ない。そもそも美女であるかも分からない。誰も見た事が無いのだから。500年前に生きていた人が残した資料に美女と言う記述があっただけ。

だれも見た事が無いその存在を青年は己の眼で確かめて見たかった。それが冒険者の本分であると自分自身思っている。探求心を捨てた冒険者など、ただの冒険者モドキだ。

誰も見た事が無い物。誰も知らない物。誰も行ったことが無い場所。

歴史に名を刻むために冒険をするのではない。己が欲望の為に冒険をするのではない。

ただ「それ」が知りたいが為に青年は冒険者となり冒険する。それが青年の持つ意思ウィル


遂に青年は決断を下した。伝説の森の奥深くまで行く事を。

そしてそれは多くの人々の反感を買った。反感と言うが皆青年の事が心配だったので引き留めようとした。

だが青年の心は揺るがない所か、そんな人々に対してこう告げた。


『僕はまだ見ぬ「それ」が知りたいだけだ。それが冒険者の務めである。』


そう言うと人々は青年の事を心配しつつも引き留めようとはしなかった。青年の事はその街に住んでいる皆がしっているのだ。馬鹿な考えを持っている訳がない。

引き留めようとしていた人々の中には青年に物資を渡す者も現れた。

皆が皆反感を買ったわけではなかった。青年の幼い頃から知っている人物もいる。

その人たちが青年に対して声をかけて行く。


『無事に帰ってきてくれ。それだけだ。』


青年はその言葉に力強く返事をすると皆からもらった物資を纏めて背負い街から出て行った。

青年の後ろ姿を人々は優しく見守っていた。





……………五日後





僕は今危機に陥っていると言っても過言ではないだろう。

注意深く進んでいたにもかかわらず森の各地にあるであろう陥没した穴に落ちてしまった。

穴の中にも洞窟が沢山ありその洞窟内は薄らと水色の光で満ちているのだ。

僕は念のために二週間分持って来ておいた非常食をその場で食べることにした。

……荷物が無い。穴に落ちた時別の場所に落ちてしまったのだろう。

これはいけない。凄まじくいけない事が今起きてしまっている。

この洞窟を辿ればいつかは地上に出られる筈。だが仮に洞窟を抜けたとしても、森の結構奥まで来ている。三日そこらで森からは抜けられないだろう。確実に来た時の倍は掛かる。

このような時の為に二週間分の食料と皆からもらった物資を持って来たというのに、この様とは。

冒険者として失格だな。だが悲観していては助かる物も助からない。奇跡を信じて洞窟を抜ける事にしよう。運が良ければこのまま森の外に出られるかもしれない。

この様な時こそ自暴自棄に陥ってしまえばお終いだ。心を落ち着かせろ。焦るな。自分の経験を信じろ。

僕は洞窟を歩く事にした。あぁ喉が渇いた…水が飲みたい。




____________________________




どうもこんにちは。私です。最終日の7日目です。

え?はやい?では貴方1週間も何もない所を彷徨ってみなさい。鉄の精神が無いと壊れますよ。

私は何故か慣れているので大丈夫です。まるで自然が体の一部みたいに感じるので。

あ、でも私も少しは変わりましたよ。この水の手君で少し大きな岩位なら持ち上げられるようになりました。それと水を使うと疲労感に襲われることが新たに判明しました。そりゃ代償はあるよね。

タダより高い物はないからね。便利な物の裏には意外とデカい犠牲が有ったりするもんです。

私の犠牲はこの疲労感かな。後初めに飲んだあの水、今飲んでも何の変哲もない冷たい水だったよ。

あの洗面台の水は何なのだろうか。私、気になります。

他にも自作だけど草のベッドを作りました。虫もいないから安心して寝られます。ふっかふかです。

青臭い匂いがするかもと思っていたけれど、そんな事は無かったです。

ただ不満があるとすれば、少し長い草が私のデリケートな部分を刺激するくらいです。

下ではありません。上なのです。草が髪で隠れている胸に当たって敏感に反応してしまいます。

あぁ猫じゃらしでプレイするとこんな感じなのでしょうね。確かにこそばゆい。

まぁそんな事は置いといて、遂に今日まで人と言うかなんらかの生物に会いませんでした。

やっぱりこの世界は私だけしかいないのかも…。

でももしかしたら今日会えるかもしれない。諦めてはいけない。昔何処かで聞いた事がある言葉です。

では今日も探索と行きましょう。



………………5時間後




うんそんな事は無かったよ。もう諦めちゃう。

この際誰でもいいから会いたい。もう山賊でも変態でもいい。むしろ動く生物なら何でもいい。

近くにある果実の樹も殆ど食い尽くしてしまった。そろそろお肉が食べたい。

お肉じゃなくてもいい。お米でもいい。パンでもいい。タンパク質が欲しい。

今まで食べて来た果実にはタンパク質が含まれていたせいか、別に痩せたりはしていないけど、それでも何か木の実以外の物が食べたいなぁ。でも私以外の生物を見てないからそもそも狩りとかできるのかな。

どうしてこんな所にいるんだろ、私…。

はぁ…永久に答えなんて無いんだろうなぁ…ん?


「私」が視線を向けた先には、何やらバッグの様な物が散乱していた。


こ、これはまさか!!クンクン…間違いない誰かの荷物だ!!!森だと絶対に無い匂いが荷物から出てるし。しかもまだ新しい。もしかして近くにいるのかな!でもなんでこんなに荷物が散乱しているのだろう。

お、この荷物からはみ出してる布ってまさか…。


ゴソゴソ。グイ。


こ、これは服だ!サイズは…男の服なのかな、大きいね。上の服だけで脛から上が隠れちゃった。

でも少し歩きにくいなぁ。これはパスで。

他にもあるかな…。


ごそごそ。ぐい。


あ、黄色で綺麗な長い布だ。…そうだこれを使えば簡易ブラジャーできるかも!


シュッシュッ。クルクル。シュッ。


おぉ!!ついに念願のブラジャーが出来た!下乳を支える様にして、乳首も隠れる様にしたから、これでもう恥ずかしくないね!。今まで恥ずかしいとは感じなかったけど。

次は下を隠さないと…。何かないかなぁ…。でってきておっくれ~♪


ゴソゴソ。ゴソゴソ。


なんだろうこれ。ふんどし?かな?でも若干違うし…。他には…あ、なんかこれ踊り子のスカートみたいだ!可愛い!間から見える足がなんか色っぽい!これにしよう!動きやすそうだし。


……できました!私の上下服!上は簡易ブラジャーで、下は踊り子スカートだよ!

これで人と会っても変態呼ばわりはされないはず。さてせめてもの恩返しにこのゴチャゴチャになった荷物達を片付けるとしましょう。よいしょっと…。


ポロッ。


うん?何か落ちた?…これは…これは…この瓶の中の物って…お肉じゃない?

ヤッタァァァァァァ!!!!食べ物だぁ!!!

でも流石に服を盗んでおいて食べ物も盗むのは人としてどうなんだろうか。

でも見てしまった以上、我慢はできない…。

ごめんなさい荷物の持ち主さん。この瓶詰だけ食べさせてもらいます。我慢できません。


なんと瓶詰の美味しい事でしょう。今までこんな食べ物食べた事がありません。

空腹と言う調味料がその美味しさに拍車をかけています。モグモグ。

ごちそうさまでした。持ち主さん有難う御座います。私はこれだけで満足です。

さて本格的に荷物の整理をしましょうか。


それにしても、荷物の持ち主さんは一体どこへ行ったのでしょうか…。



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