もえるゴミの日
生きる意味を聞かれたら、こう答える。
「ただ、奇跡の延長線を歩いているだけ」
って。
中二っぽいって言われるかもしれないけど、実際どうしようもない事実じゃないか？
…別に逃げてるわけじゃない。
とまあ、そんなつまらない事しか考えられない日常は突如終わりを迎えるわけで。
まあ定番です。はい。
「きせきのえんちょうせん」始まります。
ありのまま今起こっていることを話すぜ！
ゴミを捨てに行ったら既に少女が捨てられていた！
何を言っているかわからないと思うが俺自身何を言ってるのかわからない。
蚊の羽音と痒みで起こされ、午前3時に戦闘開始。
10箇所ぐらい刺されたうえに結局倒せず、2度寝しようにも目が冷めてしまい、燃えるゴミの日だから溜まっていたゴミでも出すかーと思ったら、ゴミ捨て場には既に少女が捨てられていた。
どうしたらいいんだこれは。
助けを呼ぼうにも周りには誰もいないようなので、自分の判断でなんとかするしかない。
こういう時は119が先なのか110が先なのか。
あれ？011？101？
ひゃくとう番だから、110で合ってるのか。
いや待て落ち着け俺。
落ち着くんだ。
素数を数えろ。
いや違う、深呼吸だ、深呼吸。
スゥーーー…ハァーーー…
よし落ち着いた。
落ち着いた事にする。
こんな時に大事なのは観察力だ。
最近読んだ本に書いてあったじゃないか。
ピンチな時こそ頭はクールにって。
状況を見てよく考えろ。
とりあえず目の前に仰向けに捨てられて？いる少女は、
・下はジーパン、上は黒のタートルネック
・所々が破けて血が滲んでいる
・黒髪はボサボサ
・靴は履いていない
・見た目の年齢は15歳くらい
・目と口は半開き
…観察の結果だが、これは生きてはいないだろう。
変死体だ。
事件だ。
ということは警察だ。
110番。
大抵の人がそうだろうが、俺は遺体なんて葬式以外では見た事がない。
実際、目の前にしたらかなり怖い。
サスペンスではよく、第一発見者が叫ぶシーンがあるが今はあの気持ちがよく分かる。
こんなものを見ても平然としていられる奴がいたら、そいつは異常者だろう。
まさか、こんな近所で凶悪事件が起こるとは思わなかった。
目の前で起こっている事の衝撃が大きすぎて、スマホをタップする指が震える。
普段、絶対に掛けたりするところじゃないから違和感がすごい。
早く、呼ばないと…
「う…ぅぅあ」
！？
おもわずスマホを落としそうになる。
今、呻いた？
というか、さっきは気付かなかったが胸が上下している。
呼吸をしているということだ。
この少女はまだ生きている！
ってことは消防の方がよかったのか？
いや、警察に言えば消防も呼んでくれるはずだ。
この傷で生きてるってすごいな。
見た目より軽い傷なのか？
電話が繋がった。
間髪入れずに状況を伝える。
「あ、あの！少、女が、ゴミ捨て場、に、血が出てて！あとちょっと臭って」
やばい。
最近話す機会が無かったから言葉がしっかり出てこない。
「と、とにかく！早く、来てk」
『午前、5時、37分、ちょうどを、お知らせします』
ピッ、ピッ、ピッ、ポーン
『午前、5時、37分、10秒を、お知らせします』
ピッ、ピッ、ピッ、ポーン
『午前、5時、37分、20秒を、お知らせs』
はいポチッと。
もういいよ。
スゥーーー…ハァーーー…
…時報だよ！
予期せず正確な時刻が分かったよ！
時報ってなんだよ！何番だよ！
あ、いや、スマホの画面117番ってなってるな…。
焦って間違えたのか…。
…違うそうじゃない。
茶番をやってる場合じゃないはずだ。
焦るな俺！
お前はやればできるやつだ！
とりあえず応急手当か？
応急手当の方法なんて保健体育で習っただけだ。
それだって何年前だ？
俺にできるのか？いや、やるしかない。
とりあえず外傷の確認だ。
と、目があった。
さっきよりしっかり目が開いている。
綺麗な瞳だな。
吸い込まれそうなブルー。
外国の子なのかもしれない。
なんだか、目が離せない。
「警察は…呼ぶな」
ボロボロなその体から発せられてるとは思えない凛とハッキリした声だ。
少女は確かにそう言った。
日本語ペラペラだ。
そして1発目がそれかよ。
死体じゃなかったにしてもこれは事件だと思うんだけど。
それでなくてもその傷は早く見てもらった方がいい。
「きゅ、救急、は？」
「ダメ。拾って…早く、人が来る」
えー…この子は何を言っているんだ？
