第4話
遥と海。
なかなか個性の強い彼らも、要とは中学時代からの付き合い。
聖桜市から2つの街を越した先にある小さな片田舎・細波町に住む彼ら2人は、高校も要たちとは別の学校に通っている。
それでも仲は良好で、こうやって日曜の暇な時は、わざわざ海のバイクで2人乗りして、己嶋家を訪れていた。
「先週は確か、愛情の取り立てでしたね。あれも、なかなか面白かったですよ」
「あ、やっぱり?次は、どんなのしようかな~♪」
「皆守っ!! これ以上、この馬鹿タヌキを調子に乗せるなっ!」
先週の事を思い出した皆守が、遥の悪巧みを増幅させる事を言った為、要は慌てて制す。
頼むから、これ以上、この腹黒馬鹿タヌキを調子に乗せないでほしい。
彼らが遊びに来るようになって、だいぶ経つが、最近は何故か、こんなタチの悪い遊びを交えて来るようになり、いささか困りものだ。
いったい何処から、こんなネタを出して来るのだろうか。
「いやぁ~~。皆守くん提案の取り立て屋シリーズ、これはハマるねぇ」
「はははっ。いえいえ、僕は最初にネタを提供しただけで、毎回新ネタを考えてくる遥くんには、敵いませんよ~~」
「諸悪の権化は貴様か、皆守ぃぃぃーーっ!!」
胡散臭い笑顔を撒き散らして、なに食わぬ顔で会話する皆守と遥の言葉に、要がすかさずツッコミの声を上げるが、すぐに脱力してしまう。
がっくりと膝をついて項垂れた彼に、歓奈と透輪が乾いた笑みを向けた。
「な、なんかもう、出かける前から、要は疲れてるね」
「そっとしておこう……、歓奈」
腹黒で自由奔放な彼らに振り回される要には、取り敢えず生暖かい視線を送っておこう。
「そう言えば、何処か出掛ける所だったのか?」
今更ながら、玄関先に集まっていた要たちに気付き、海が訊ねたので、鳳音が誰よりも早く応えた。
「グリーンモールだよ。あそこのエロ可愛い制服のウェイトレスがいるレストランで、昼飯決定っ!!」
「決定じゃないっ!! て言うより、その店が目的じゃないだろ……ぐふっ?! 」
すかさず鳳音の発言にツッコミを入れる要だが、そんな彼を押し退けて、哀が遥と海を誘う。
「遥くんと海くんも一緒に行こうよ!ね、ねっ?! 」
「グリーンモールかぁ。確かテレビでやってたね……。どうする、海?」
「どうせ暇で此処まで来たんだ、別に良いんじゃないか」
話を振られた海が遥に応え、それを聞いた哀が、大喜びで両手を広げた。
「わーい!遥くんと海くんと一緒だ~~!! ほら、かなちゃんも、いつまで、しゃがんでんの? 早く行かないと、ご飯が逃げちゃうよ!」
そう足元にうずくまっていた要に声をかけるが、彼は若干、表情をひきつらせていた。
「あ、哀……ご飯は逃げないから、安心しろ……。それと、さっきのは、なかなか痛かったぞ……」
「まともに、わき腹に入ってたもんな、肘」
わき腹を押さえた要へ、苦笑を浮かべた剛が言った通り、先ほど、哀が彼を押し退けた際、実は彼女の右肘がわき腹に刺さったのである。
しかし、本人は全く気付いてなく、早く出発したくて、玄関前でウズウズしていた。
「と、取り敢えず、グリーンモールにはバスで行かないといけないから、そろそろ行こうか!」
「そ、そうだね!! 乗り遅れて待つのも難だし……」
ドタバタな状況を見かね、歓奈と透輪が場を取り持ち、礼乃も慌てて頷きまくる。
「礼乃ったら、この個性の強い人口密度じゃ、すっかり空気になってたわね……」
「解ってる事を、敢えて言わないでよ、円先輩!! 」
ほくそ笑んだ円の毒舌に、プルブルと身体を振るわせた礼乃が、思わず青筋を浮かべてしまう。
しかし、彼女には絶対に敵わないので、この怒りは、彼氏である剛にぶつける事にした。
「いでっ!! いきなり何すんだよ?! 」
「八つ当たり」
「真顔で即答すんな!! こえーよっ!! 」
突然、背中にストレートパンチをくらい、剛が思わず驚くが、礼乃は構わず、ボコボコと彼の背中を殴りまくる。
「あだだだだだっ!! 礼乃、お前のパンチ痛いんだから、止めろって、こら……」
「ふん、どーせ、アタシは影が薄いわよ。剛のバカーーっ!! 」
「いでででっ……たく、仕方ねぇなぁ~。解った、解った。気が済むまで、八つ当たりでもなんでもやれよ」
そう困ったように笑う剛だが、若干、涙目である。
しかし、八つ当たりしてくる彼女が可愛いので、良しとしようと、剛は肩を竦め、表情を緩ませた。
「あらあら、剛ったら。ずいぶん、大人になったわね……。さすが、私の下僕……いえ、友人だわ」
「今、あきらかに下僕って言ったよな……。てーか、あまり後輩をいじめんなよ?」
毒舌パワーフルスロットルな彼女に、思わず表情をひきつらせつつ、剛が諌める。
だが、この天下の毒舌女王・円には、まったく堪えてない。
「あら、やだ。後輩いじめるなんて悪趣味してないわよ。私はただ、いじって愛でてるだけ。良い先輩でしょう? 」
「「いい性格だよ、本当にっ!!」」
めちゃくちゃ笑顔で言ってのけた円に、剛と礼乃が声を合わせてつっこんだのだった。