第3話
玄関を開けた先で見たのは、毎週末になると訪れる、妖怪のような奴ら。
「か、要。い、今、ドアの向こうにいたのって……」
「見間違いだ、気のせいだ、何もいなかった!」
「えらい否定のしようだな、おい」
ドアノブを握ったまま、歓奈に応えた要の現実逃避の有り様に、思わず剛が突っ込む。
だが、そこへ不吉を届けるように、呼び鈴が鳴り響く。
しかし、彼は絶対にドアノブを回さない。
「開けないの?てか、なにやってんの?」
「此処で開けたら、駄目な気がしてならないっ」
呆れた鳳音に、そう返した要の表情は、とても深刻だった。
そして、そんな彼をからかうように、再び呼び鈴が鳴らされる。
「あ、また鳴らした」
「諦めて出れば?」
呑気な哀と、呆れ顔の鳳音にせつかれる。
しかし、それに応えるより先に、閉ざした扉の向こうから、物騒な言葉が飛んできた。
「己嶋さーん。居留守使わないでよー?」
「居るのは解ってんだ。大人しく出てこいや」
「借りたもの返さないと、駄目だよー?己嶋さーん!」
何処の取り立て屋だ?! と、扉の内側では、要が撃沈してしまうが、『彼ら』 は構わず続ける。
「友情返して下さいよー、己嶋さーん。踏み倒しちゃ、駄目だよー?」
「ぃやっかしいわぁっ!! て言うか、友情の取り立て屋って、どんなだよ!! 」
「あ、出てきた」
堪らず出てきた要が怒鳴るが、彼らは至って呑気である。
人様の家の玄関先で、ほぼ嫌がらせな事をしてくれたのは、決してタチの悪い取り立て屋ではない。
「海、遥。手前らは、毎週、毎週っ、普通に訊ねて来れんのかっ!? 」
「普通に訊ねて来ても、要くん入れてくれないんだもーん」
そうふてぶてしく応えたのは、女と見間違う、中性的で童顔な顔立ちに、V系の黒い服を着こなす池内 遥。
仔犬のような無垢な笑顔と瞳をしながら、その腹の中は真っ黒通り越して、純黒である。
「毎週ひっきりなしに、遊びに来られれば、居留守も使いたくなるわっ!だいたい、海。手前まで便乗するなよ……」
「うるせぇ、暇なんだよ。遊ばせろ」
「っだから、何で、そんな偉そうなんだよ!遊びに来てる分際でっ!! 」
遥同様にふてぶてしく応えたのは、190㎝越えの長身と、一本に束ねた背中までの髪は金髪で、すこぶる目付きが悪いヤクザではなく、普通の高校生・能登山 海。
「たくっ、2人揃って俺様なんて、タチ悪すぎだろ……」
「ノンノン、違うよ、要くん。僕は俺様じゃないよ~」
呆れる要に補足した遥が、ニヤリと笑い告げた。
「僕は俺様じゃなくて、お・う・さ・ま!」
「尚タチ悪いわぁぁぁっ!! てか、帰れ、この腹黒馬鹿タヌキー!」
全力で突っ込んだ要が、荒い息を漏らすが、腹を抱えて爆笑した遥は、更に飄々と言う。
「取り立て屋シリーズ、今回は友情で攻めてみましたー。なかなか面白かったでしょ?」
「面白い訳あるかぁぁぁぁっ!! 近所迷惑で、ついでに言えば、読者にいらん誤解をさせるだろうがぁぁっ!」
悪びれる事なく、かえって清々しいくらい、ふてぶてしい遥の言い分に、要はツッコミパワーフル活動である。
「そんなにツッコミばっかりしてると、疲れるぞ」
「お前らが、突っ込ませてるんだろうがあああっ!!」
ごもっともな事を言うわりに、その原因の1人である海に、要がすかさずツッコミまくる。
つくづく彼はツッコミ体質なようだ。
今回、登場する遥と海は、ムーンライトノベルズで連載中の、『未来へのツバサ』(羽鳥月桜花・原作)に登場するキャラです。
ゲストとして、登場してもらっています。