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人外だらけのデンジャラス異世界に拉致られました  作者: 雪音鈴
プロローグ~異世界に拉致られた私の選択~
2/22

第2話 運命は巡る


「セツ様! 大変です、鴉と犬の連中が――」


「!?」


 慌ただしい声と共に部屋へと入ってきた大きな青鬼に驚き、私は声にならぬ声を上げてしまう。


「ああ、分かってるよ。すまないね、少し行ってくる。君はこの部屋から出てはいけないよ。外は危ないからね――」


 セツは、優しく私へとほほ笑みかけた後、クルリと青鬼の方へと向かう。


「ところで、あお


「はい」


「この部屋に誰の了承を得て入ったのかな?」


 私からはセツの背しか見えていないが、その場が凍るのが分かった。


「は、はい。その、緊急事態でしたので――」


「そう……」


「グハッ――」

 

 青鬼の声と共に、ゴキッと嫌な音がなった。


「次、勝手にこの部屋に入ったら……その命、ないものと思え」


 セツの冷たい一言に私の背筋までが凍る……純粋に怖いと思った。


(これが……さっきと同じ彼なの?)


 私は自身の震える体を両の手でギュッと抱きしめた。


「ああ、怖がらなくて良いよ。君を傷つけるモノは全部排除してあげる」


 ニコリと笑う彼に対し、私の中の何かが叫ぶ。




  早く――はやく――速く――逃げなくては――

     ――壊れてしまう前に――




 ◇ ◆ ◇




「クッ――開かない!?」


 セツが出ていった後、部屋からの脱出を試みようとしたが、障子が一切開かない。


(逃げなきゃ――一刻も早く!)


 妙な焦燥感が巡る。

 手直にあった椅子で障子を殴ってみるが、まったく壊れない。


(ワタシはもう、二度とあんな――)


 そこまで考え、私はピタリと動きを止めた。冷汗が背筋を伝う。


 私は、私自身が怖かった。


(あんなって、いったい……?)


 ワタシは、何を知っているの?

 ワタシは誰なの? 何なの?


 そもそも、私はここへ来てからおかしい。

 私を拉致した張本人であるセツを強く拒めず、されるがまま。


 私なのに私じゃないような感覚……

 異世界? なにそれ? 意味分かんない!!

 

 私にはここへ来てからの全ての事柄が、不安で、不安でしょうがなかった――


「ウッ――この、開いてよ!」


 どうしようもない想いを開かない障子へとぶつける。ギュッと握った右手で、ドンッと障子をたたいた瞬間――


 パキン――と、奇妙な感覚がした。


「?」


 もう一度障子に手をかけてみる。


「開いた?」


(なんで――)


 開いた理由は、まったく分からなかったが、開いたのならば好都合。こんなわけの分からない場所なんかにはいれるわけない。


 私は部屋を出る時、一瞬だけ――ほんの一瞬だけセツの優しげな顔が横切ったが、全てを振り払い駆けだしたのだった。




 ◇ ◆ ◇




(どこに……どこに向かえば――)


 屋敷の者達は皆出払っているのか、全く見当たらない。見つかったら連れ戻されるかもしれないから、こちらからしたら願ったり叶ったりなのだが……これからどうしたら良いのか見当もつかない。


「もう、どうしたら良いの……誰か、誰か教えてよ――」


 心が痛い――胸の奥が苦しい――


 何故か泣き出してしまいたくなるのを堪えながら、私はそんな事を呟いた。


「やあ、迷子の子猫ちゃん、そんなに急いでどこに行くんだい?」


「!?」


 私は突然耳元で聞こえてきた明るい男の声に驚き、立ち止まった。

 キョロキョロとあたりを見まわしてみたが、辺りには誰もいない。


「誰!?」


「ああ、そんなに警戒しなくて良いよ。僕は君の敵でも味方でもないんだから」


「それ、どう反応したら良いの?」


(敵でも味方でもないって――信用できるのかな?)


「まあ、好きなように捉えてくれて良いよ」


「はあ……」


「フフ、君は……輪廻転生って言葉、知ってるかい?」


「いきなり何? ようは、生まれ変わりって事でしょ」


「そうそう、そゆこと」


「それがどうかした?」


 私は男の質問の意図が分からず、暗闇を睨み付けた。


「その輪廻転生ってのは、何も君がいた地球だけの話じゃあないってこと」


「この世界でもその話があるって言うのは分かったけど……」


 それがどうしたと言うのだ。

 そんな異世界の事情よりも、私は早くここから出たいのだ。こんな要領を得ない言葉の応酬をしている暇なんて――


「ああ、ちょーと違うかな。地球でもこの世界でも、魂が帰るところは一つ。大きな循環系から、たくさんある世界のどれかに魂は移動されるってことだよ」


「それって、私の前世は他の世界――つまり、この世界にいた事もあるってこと?」


「フフ、のみ込みが早いね。そう、君がここへ来たのは必然」


「じゃあ、セツは――」


「ああ、そろそろアイツが来るみたいだね。一つ君に忠告しておくよ。たくさんの魂に触れ、君が何を欲し、何を求めるかを見つけなさい」


 言い聞かせるような男の声に、私は思わず顔をしかめた。


「それって…………忠告?」


「まあ、一応ね。それから、君はこの世界じゃ弱い。守ってくれる、信頼できる奴を見つけた方が良い」


「それって――あなたとか?」


 私は、自分の口から出た言葉に驚いた。もちろん、この言葉に驚いたのは私だけではなかったようだ。

 声の主は、今までの余裕ぶりとは打って変わって間抜けな声を出していた。


「……へ? 僕?」


 私は自分が言ってしまった手前、何とか理由を付けようともごもごと口を動かした。


「ええと……だって、色々教えてくれるし、忠告とやらも――」


「フ、フフ――さっきから姿すら見せないこの僕を信頼できるというの? 君は……ああ、もう本当に」


「な、何? 馬鹿だって言いたいの?」


 自分でもなんでこんな事を言ったのかなんて分からなかった。


 でも、それでも……




  ――彼は大丈夫――




 なぜか確信に近い想いが胸を占めていた。


「いや――良いんじゃない? 君の心を信じてみても」


(私の心……)


 男の言葉に、私は思わず胸に手を当てた。


「それに――損はさせないよ?」


「!?」


 突然、耳元で囁かれ、私は咄嗟に右耳を抑えながら左へと飛び退いた。男のクスクスという笑い声が辺りに響く。


「いやあ、良い反応だねぇ。ああ、そうそう……僕はコクウ、困ったら僕の名前を呼んでも良いよ。助けに行くかどうかは別だけど」


「いや、そこは助けに来てよ!?」


「フフ、じゃあ晴菜……また、近いうちに――」


「え? ちょ、ちょっと!? コクウ!?」


 いくら呼びかけても、辺りはシンと静かなままだった。


「い、いなくなっちゃった? もう、結局私にどうしろって言うの!? てか、あんな奴信じちゃっていいわけ、ワタシ!?」


 叫んでも何も解決しない――そう思い、私は行先も定まらぬまま、長い廊下を再び走り出したのだった。


(そう言えば、私――コクウに名乗ったっけ?)




 ✝ ✝ ✝




 晴菜が走り去った後姿を見ながら、一人たたずむ青年。


「今回は、今回こそは、絶対に幸せになって――」


 月明かりに照らされた廊下で、赤い髪の青年は祈るように銀色のクロスに口づけをした――




 ✝ ✝ ✝


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