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人外だらけのデンジャラス異世界に拉致られました  作者: 雪音鈴
雪鬼は甘く冷たい 第1章
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第12話 ユキの印と約束


「君が楽しめたなら良かった。それじゃあ、あいつにもお礼をしなくちゃね」


 キーホルダーを大事にしまいこんだ私に、セツがニコリと笑った。


(……どうしよう――お礼って言ってたのに、なんか怖い。てか、別の意味に聞こえたのは私だけでしょうか?)


「えっと……お礼というのは具体的にどういうものでしょうか?」


 思わず、お客さん達のおひねりを白い箱の中に集めているバンダナ男の人懐っこい笑顔をちらちらと見てしまう。


(なんていうか――うん、セツによる犠牲者は出したくないよ? 特にあの妖怪ひとは――いい妖怪ひとそうだし)


「もちろん、これだよ。ほら、君も行ってきたいんだろう?」


「え?」


 セツは、私の右の手のひらに大量の金ピカコインを置いた。それはもう、右手から取りこぼしそうになるほどのを……。


「え? ちょっと、これって……こっちの世界のお金じゃん! こんなに!?」


「うん、君を楽しませてくれたんだから、このぐらいはしないとね」


(額は分からないけど、たぶん大金……だよね?)


「えっと……でも、これセツのだよね? 私――」


「いいよ。俺が好きでやってるだけだから」


「でも、さすがにこんなには――」


「いいから。行っておいで。君の笑顔にはそれだけの価値があるんだから」


「……」


(なんていうか、愛されてたんだね。前世むかしワタシ――)


 セツの無償の愛に複雑な思いを抱きながらも、私は彼の好意をありがたく受け取った。


(だって、最初から最後まで見てたうえに、こんなにかわいいキーホルダーもらっちゃったんだよ? おひねりゼロはさすがに……ね? まあ、若干多すぎる気は――しなくもないけど)


 他の客はもういなくなり、バンダナ男は先ほど使用していた道具を片付け始めていた。先ほどまで大きな箱だった物が薄く光をまとったかと思った瞬間、手のひらサイズになったことには驚いたが、私はバンダナ男に話しかけた。


「あの!」


「あれ? さっきの可愛いお嬢さん? いかがされました?」


(う……さっきはマジックショーの一環ってことで聞き流してたけど、可愛いお嬢さんなんて言われると、なんというか……うん、むず痒い……)


「えっと……これ、どうぞ。すごく楽しかったです!」


 私は照れ隠しもあって、セツからもらったお金を勢いよくバンダナ男へと差し出した。

 手の中にある金ピカのコインがその勢いで飛び跳ねる。


「ああ、ご丁寧にありがとうございます。って――いやいやいや! さすがにこんなには受け取れませんよ!?」


 今度は、男のバンダナが勢いよく飛び跳ねた。

 その漫画みたいな驚きっぷりに、私は笑いそうになるのをグッとこらえた。


(てか、どうしてトレードマークの赤いバンダナが飛び跳ねるの!? 完全にウケ狙いだよね!!)


 誰に言うでもなく、私は心の中でそうつぶやく。


(それにしても……やっぱりこれ、相当な額なんだね)


 手元にあるお金に、思わず口元が引きつる。


(こんな額をポーンと出せちゃうセツって……ひょっとしなくても玉の輿――)


「いや、もう、びっくりしたよ」


 私の考えをかき消すように言葉を発した男が、バンダナを元の位置に直しながらもそっと私の手を押し返してきた。 


「確かにお金があるにこしたことはないけど、俺は楽しかったっていう気持ちだけあれば充分ですから」


「あ、その……じゃあ、せめてこれだけでも――キーホルダーとっても気に入ったので!」


 私は三枚ほどコインを掴み男に渡そうとしたが、男は苦笑しながらそのうちの一枚だけ受け取った。


「じゃあ、これだけ受け取ります。さすがに可愛いお嬢さんの気持ちを無下にはできないですからね……後の分は、彼氏さんとのデートに使ってください」


「か、彼氏!?」


 バンダナ男の言葉に、私は思わず反応してしまう。


「? はい、そこにいる銀髪の彼が――」


「いやいやいや、誤解ですから!」


 ついつい必死に否定しまう。


(だって、彼氏いない歴――以下略)


「え? デートでしょ?」


「違います!」


 バンダナ男のデートという言葉に、再び顔が真っ赤になってしまう。


「え? あれ? おっかしいなあ……俺の見立てでは――」


(?)


 私はバンダナ男の言葉にふと違和感――いや、デジャブを感じた。


(そう、この感じどこかで…………)


 そこで一つの考えにいたる。


(あ、もしかして、このバンダナ男とも前世――?)


「あ――」


 その考えを確かめるため、私がバンダナ男に声を掛けようとした瞬間――横から誰かに左手首を捕まれ、強く引かれる。


「え? セ――ユキ?」


「そろそろ行くよ?」


 それだけ言い、セツは私の手首を掴んだままどんどん歩いていく。歩幅が違うから私は少し早足で必死にセツについていった。もちろん、もらったお金は全部ポケットの中になんとかねじ込んだ。

 ……だって、落としたらまずいじゃん? 決してネコババじゃないよ? これ、本当は全部あげるつもりだったんだし……うん、とりあえず――


(『あなたと私、前世むかし会いませんでしたか?』なんて一風変わったナンパじみたことを私が口走っちゃう前に止めてくれたことには感謝してます……けど、この状況は何!?)


 私がそうやってあわあわとしていると、後ろから明るい声が飛んできた。


「お出かけの邪魔しちゃってごめんね! それから――またの機会にお会いしましょう」


 後ろを振り返ると、バンダナ男が芝居がかったお辞儀をしていた。


「あ、うん――って、痛――」


 私が返事を返そうとすると、私の手首を掴むセツの左手に力がこもった。


「ちょ、ちょっと、ユキ、痛い、痛いってば!」


 私の声が届いていないのか、セツは黙々と歩き続ける。私はその背中を小走りで追いかけながら、一生懸命に声をあげた。


「ちょっと、ユキ! ねぇ、ユキってば!」


 手も一生懸命引いてみるが、セツの力が強すぎてびくともしない。セツの顔は見えないが、雰囲気がピリピリしているのが肌で感じられる。


(明らかに怒ってる……よね? でも、何に――?)


「ちょ、マジで痛いから、ユキ!」


 先程よりもセツの手に力がこもり、骨が軋む。


「もう、セツってば!!!」


 悲鳴に近い声を上げた瞬間、セツが急に歩みを止めた。


「わっぷ――」


 当然、早足――いや、もうほとんど走っていた私は止まることができず、その背中に衝突した。


「セツ?」


 硬直して動かないセツに、私はそっとその名を呼んだ。いつの間にか裏路地のような所に来ていたらしく、私の声だけが静かに響いた。


「……」


 セツは無言で私から手を離すと、体ごとこちらを振り返った。


(え――?)


 セツは何故か、迷子の子供のような顔をしていた。不安で寂しそうな――今にも泣き出しそうな……そんな顔。


「ごめん……君を守るって――そう、約束したのに……俺は君を傷つけてばかりだね」


 セツは私の左腕を優しく引き、手首にできてしまった痣にそっとキスを落とした。その切なげに歪められた顔を見た瞬間、胸がキュッと締め付けられた。同時に、左手の甲に付けられた印が熱く脈打った。


「セツ――」


 私はそっとセツの手から逃れ、ニッコリと笑った。


「こんなの傷ついたうちに入らないよ? すぐに治るし……」


「でも……」


 セツの金色の瞳が戸惑うように揺れる。


「悪いと思ってるんなら……さ、いつか私のこと名前で呼んでよ。晴菜って」


 今度は逆に私の方からセツの手を握る。もう、そんな顔はしてほしくなかった。


「それじゃあ、行こう。まだまだ今日は長いんだからね!」


 私の行動に、セツは驚いた顔をした後、泣きそうに笑った。


(そう、いつかでいい。いつか……現在いまの私の名を呼んでほしい――)




 ❅ ❅ ❅




 店が立ち並ぶ大通りへと足を進めながら、私は先程気になったことを聞くことにした。


「ところでさ、セツ――前世むかし、一緒にマジック見たことってあった?」


「…………今日見たのが初めてだよ」


 セツは寂しげに笑いながらそう答えた。


(うーん、セツはまだ本調子じゃなさそうだな……)


 さっきのセツの行動はなんだったのか、何に怒っていたのか……正直、すごく気になった。でも、多分聞いても教えてはくれないだろう。まあ、とりあえずは――


(あのバンダナ男と前世の関わりがあるっていうのは考え過ぎだっていうことかな?)




 ✵ ✵ ✵




 セツと晴菜の二人が見えなくなった頃、バンダナ男はニヤリと笑い、つぶやいた。


「……そう、また会おうよ。近いうちに必ず――ね」




 ✵ ✵ ✵


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