授業の後
遅くなりました。
どこで切ろうか迷っていたら、長くなりました。
では、どうぞ
「2人とも、あれだけのことに時間かかりすぎ」
「緋水が頭いいだけだ。それぐらい自覚しろ」
軽く頭を小突かれ3人でくすくすと笑う。
外に出ると、暑すぎず寒すぎず、春らしい気候だった。
別館にはまだ誰も来ておらず、司書の先生が1人カウンターに座っていた。先生は一瞬驚いたように目を開いたが、すぐに興味なさそうに手元のコンピューターをいじり始めた。
私たちは、軽く頭を下げ何も言わず奥へ進んだ。
今日の目的の資料は、学園外持ち出し禁止の貴重な資料や、内部機密がたくさん書いてある資料、そして、今現在進めているプロジェクトの内容が書いてあるデータ。この3つを3人で手分けして探し、覚え、帰ってからデータにして保存する。今日の目標は1人100ページ分の資料。
それをほぼ毎日繰り返し、ここにある資料全てをデータとして保存し、こちらの力にする。いわゆる「スパイ活動」「諜報活動」のようなものだ。
「闇」の人たちは幼いころから諜報活動に役立つスキルを一通り習う。もちろん全員が一流とまではいかないが、そこそこの実力はつく。
幸い、杏と梓は闇の中でも20番以内に入る実力を持っており、これぐらいのことならできるのだ。
本のページをめくる音が、別館に響く。3人しかいないここは、世界から隔離された場所のように感じられた。
「終わった~!」
伸びをしながらあくびをする杏は、嬉しそうに笑っていた。杏にとってこの作業は一番苦になるものだったので、よく頑張ったと言えた。
「こっちも終わったよ」
梓も本を片手に小さく伸びをしている。
「2人ともお疲れ」
手元にある本をパラパラとめくりながら、予定以上の情報を暗記する。最後のページまで読み終わると、「パン」と本を閉じ、2人に目を向けた。2人とも少々あきれた様子で私を見ているような気がするが、気のせいということにしとこう。
それからしばらくすると、チャイムが鳴り、2時間目の始まりを告げた。
「あ、始まっちゃったね。どうする?緋水」
「どうするって、今日の課題は全部終わらしたから、でなくてもいいだろ」
「そうだよぉ。今からまた戻るなんてめんどくさいよぉ」
普通科目は、授業と説明したが全てが課題制だ。1日の課題を一時間で終わらせることも可能であり、許可もされている。そして、1日の課題が終われば、そのあとは好きにしていいのだ。私たちはその制度を大いに活用して、こういうことをしているのだ。
「じゃぁ、ちょっと寮に戻って、データ化しようか」
「そうだね。忘れても困るし」
魔獣を通しての会話。普通にこんなことを言っていると、証拠隠滅にはならない。ここの様子はすべて、録画されている。監視カメラがいたるところにあり、会話だってしっかりと聞き取れるのだ。
私たちは別館を出ると、それぞれの寮に向かった。
「ねぇひぃ」
「なに?」
しばらくの沈黙の後、言いにくそうに口を開いた。
「桐原先輩は、緋水にとっての、何………?」
茶色がかった瞳が不安を背負い、怯えを混じらせ、なにかを心配するように私を見上げた。
一言一言、言葉を選ぶように、区切りながら。
いきなりの質問に、「何?」と言う問いに瞬時にこたえられなかった。桐原先輩は、先輩だ、と言ってしまえば早いのだが、あの出来事の後では信じてはくれないだろう。眠かったけど、鮮明に覚えている。2人の表情の、一つ一つを……。
「あぁ、ごめんね!やっぱり何でもない。なんか親しそうだったから、ひぃを取られたらやだなぁって思って……」
かわいらしく、眉を下げ、少し頬を赤らめて笑った。「ホントだよ?」とさっきの質問の本当に聞きたかったことを隠すように、私の瞳を覗き込みながら笑った。
そうすれば、私が困らないってわかっているから。そうすれば、もう何事もなかったかのようにしてくれると、わかっているから。だから杏は、寂しそうに、悲しそうに、悔しそうに、そして少しの嫌悪を滲ませながら私に笑いかけるのだ。
「大丈夫。杏からは離れないよ。何もない限りね………」
最後の言葉は本当に小さくて、吹いてきた強い風に揉み消された。「え?」と尋ねてくる杏に「何でもない」と返しながら、杏の頭を一撫でした。くすぐったそうに首をすくませ、恥ずかしそうに笑った杏の顔をすかさず、BBC(携帯端末)のカメラに収める。
「あ~、ひどいぃ。恥ずかしいでしょ~!」
「杏に送っておいてあげるよ」
冗談交じりに言い合いながら歩いていたら、部屋についた。
「ねぇ、緋水。自分で入力しなきゃダメ?」
「魔獣使ってて、これが後でばれたらすぐに特定されるから……さ?」
「はぁい」
渋々と言った様子で、パソコン型の端末を取り出し、一つ深呼吸する。そして閉じていた眼を開けた杏はいつもとは別人で、ものすごいスピードで入力し始めた。
まぁ、仕事の時はスイッチが切り替わるっていうことだけど、切り替わりようが半端ないのでいつみても少し笑ってしまう。
私も負けていられないと思い、伸びをする。杏よりも少し大きめのパソコン型の端末を手元に寄せ「さて」とつぶやくと、データを入力し始めた。
今回もあまり話の進まない回でしたね……
進めようと思っていたんですが、次回になります。
誤字・脱字や感想・アドバイス等がありましたら感想ください。
(切実なる願いです)




