6.捜索隊出動
西に位置するアルメリア大陸、東に位置する帝国。
帝国より更に南東に位置するのが、地図上には存在しない、セレナディア王国だ。
六芒星のような形のその島は、建国から三千年、他国との交流はおろか存在すら明るみにせず、ひっそりと独自の文明を発展させてきた。
不規則な潮の流れを生む荒波が島を囲い、船はその海域に近づく事すらできない。島全体を特殊な結界で覆い、魔力を持たない人間には島を目視する事も叶わない。
建国の魔女セレナの血を色濃く受け継ぐ王族は、高い魔力を保持している。王侯貴族らが国の責務を背負うように強い魔力を持っているが、一般的な国民は微力な魔力を持ち合わせている位で、自由気ままに暮らす者が大半だ。
そして魔力の強さは髪の色を見れば明白で、色素が濃いほど魔力が強い。
王族には黒や黒に近い髪色を持つ者が多く存在し、貴族は濃い焦げ茶や赤、緑がかった茶色。そして一般的な市民は、金や薄茶色が多い。色素の薄い者は魔力を持たないわけではないが、日常のちょっとした補佐程度にしか使う事が出来ない。だが国民の大半はその位で丁度いいと思っている。
この国の王太子は生まれ順などでなはく、王族の中でもより強い魔力を持つ者が次代の王に選ばれる。
故に、ヴィルハルトは第三王子でありながら先祖返りのような黒髪を持つ為、兄王子二人と姉姫を差し置いて、幼い頃から王になるべく育てられた。
年々強い魔力を持つ者が減少しているセレナディアでは、黒髪の王族が生まれたのはヴィルハルトで実に350年ぶり。王室や国民は彼に多大なる期待を寄せている。
そんな中、数年後に二人目の黒髪保持者が現れた。
現在黒の魔女と呼ばれる最高位の魔女は、王族でもなければ貴族ですらない。
ごく一般的な家庭に生まれ育った彼女が、とあるきっかけでその存在を王族や大衆の場で明るみに出た事が、全ての始まりだった。
★ ★ ★
セレナディア王国の王城では、王国騎士団所属の騎士達に加え、数名の隊長がヴィルハルト王太子殿下の捜索任務に抜擢されていた。
城を去った報告を受けてから約一時間後。召集を受けて辿り着いた王の執務室で事のあらましの説明を受けた後、直ちに国外捜査の準備に取り掛かっている。
白を基調とした軍服には騎士団所属の証である剣と、国花の桜が金の意匠で施されている。丈の長いジャケットに白い手袋。唯一王城内で剣の所持が許されている彼らは、一目で騎士団所属とわかる装いだ。
慣れた手つきで必需品のみを揃え、捜索機とお役立ち便利セットを許容量無限に改造してある特殊のウエストポーチに収め、腰に装着する。
上司を連れ戻す部下が総勢三十人も出動するとは。陛下直々の勅命ならば仕方がないが、本来なら直属の上司はヴィルハルトだ。捜し当てた後が少々怖い。
「ったく、うちの団長にも困ったものだよ。何を勝手な事をされているんだか……」
ヴィルハルト付きの副官は、ぶつくさと文句を垂れながらてきぱきと身支度を整えていた。その間的確に指示を出すのも忘れてはいない。
若干二十歳の彼はその有能さで王立学院を飛び級で卒業した後、異例の速さでヴィルハルト付きの副官に任命された。実年齢は二十歳だが、外見年齢は十五歳程度に見える。
肩口で揃えられた緑がかった焦げ茶の髪とアンバーの瞳が印象的で、まだ身長は成長途中だが将来が楽しみな美少年だ。時に女の子にも間違われる彼は俺様で自由人な上司のおかげで、精神的には逞しくなったが、苦労が絶えない。
最後の一人に指示を出し終えた副官ことイーゴル・ミカノフは、携帯用通信機とポーチを手にし、陸・空兼用のスケートボードに足を乗せ、空高く飛び上がった。