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2.目覚めた場所は船の上

*2013年12月13日、誤字脱字訂正しました&修正しました*

 左右不規則に揺れる振動で目が覚めた。

 

 室内に充満している薬品の香りに鼻腔をくすぐられる。

 目を開けると、飛び込んできたのは白い天井。横を向けば、シングルベッドが4つ並んでいる。壁に備え付けられている棚には、ぎっしりとビンや薬草、救急箱に入っているような物達がキレイに収まっていた。


 ルビアンナはゆっくりと上体を起こす。左腕に鈍い痛みを感じて、思わず眉を寄せた。

 キレイに包帯がまかれた腕は、誰かが治療を施してくれたのだろう。記憶を蘇えらせるように辿っていくと、ウルセィ鳥の群れに襲われてそのまま海に落ちた所で終わっている。その後一体どうしたのか、ここがどこであれから何時間経過しているのか。時計はおろか、自分の所持品すら近くに見当たらない為、何も判断できずにいた。


 呆然と辺りを見回していたが、コート掛けにかけられている黒のケープに目を留めた。

 

 ベッドから抜け出ると、姿見の鏡が目に入った。

 写っているのは16歳位の少女。

 小柄で背が低く、手足はすらりと伸びている。腰まで伸びた直毛の髪は、漆黒よりも尚深い深淵の色。光さえ弾かず、吸い込んでしまう様な闇色に反し、肌は透き通るほどに白い。目の上で揃えた前髪から覗く瞳は気が強そうな意思の強い光を放ち、瞳の色は星空を思わせるラピスラズリの深い青に金の星が散っている。小さく形のいい唇に、バランスよく整えられた鼻。端整な作り物のような容姿も、今は髪がボサボサ、肌も長時間風にふかれて乾燥し、無数の切り傷が目立った。


 簡素な白の病人服を纏った姿を見て、ルビアンナは久方ぶりに見た自分の姿に驚きつつ、あの高さから落ちて怪我が腕の傷と擦り傷だけなのは奇跡だと鏡を見ながら頷いた。


 室内に他の人が居ない事を確認すると、裸足のままコート掛けまで近づく。触ると若干まだ湿り気を帯びていた。どうやら思ったほど落ちてから時間は経っていないようだ。

 

 コンコン、と遠慮がちなノックオンが響き、ゆっくりとドアが開かれた。


 入ってきたのは10代後半の少女だ。柔らかな金茶の髪を軽く一つに結び、白衣を着ている。グラスに入った水と新しい包帯などトレイに乗せ、慎重に室内を窺っている。エメラルドの瞳が部屋の隅に立っていたルビアンナを捕らえた。


 「よかった、気がついたのね!」


 可憐な容姿の少女は近くの台にトレイを置き、柔らかな笑みをルビアンナに向けた。ぱたぱたと、小走りで寄ってくる。思わず身構えたルビアンナだったが、美少女の笑顔に釘付けになり、状況の整理を一瞬放棄してしまった。


 「ねえ、どこか具合は悪くない?頭は痛む?あ、喉渇いたんじゃないかと思って、水を持ってきたわ!一応目につく怪我は腕だけだけど、他に違和感あったら遠慮なく言ってね?」


 ルビアンナより10cmほど背が高い少女は手にグラスを持ってきて、差し

出した。それを遠慮なく受け取ったルビアンナは、自分が思いのほか喉が渇いていた事に気づき内心苦笑する。どうやら随分手厚い看護を受けたようだ。彼女はきっと看護士か何かだろう。

 

 アルメリア大陸の共通言語で、先ほど訊かれた質問に答える。


 「お水と、怪我の治療ありがとうございました。大変助かったわ。とりあえず痛む所は腕だけみたい。ところで、私がここにいる経緯とこの場所、現在の時間と、あと私の服とかの在り処を教えてもらえるかしら」


 一気に質問しすぎたか、と思ったが既に口から出てしまった物は仕方がない。思った事はすぐ口に出してしまわないと忘れてしまいそうになる。それで後悔する事もあるのだが、口が出る癖はなかなか直らない。


 一瞬唖然とした少女は、じっとルビアンナの顔を見つめた。そう見つめられると少し居心地が悪いのだが、顔に何か付いているんだろうか?


 あの、と声をかけ掛けた時、少女の声が割って入った。


 「貴方の瞳、きれいね~。まるで夜空の星空みたい。群青色に金が散りばめられていて素敵!珍しいのね」


 いきなり褒められてしまって、反応が遅れる。随分とマイペース、いやおっとりした子のようだ。


 「あ、いけない。私自己紹介がまだだったわね。ここのドクターの助手をしています、ヴィクトリア・レイマンです。トーリって呼んでね。あ、助手って言っても、臨時で休暇が終わったら学校に戻るんだけど。で、ここはロゼリアのアイリス港行きの商船で、貴方を発見してから約半日後の12時過ぎよ。丁度お昼の時間ね」


 トーリはルビアンナから飲み終わったグラスを受け取った。

 「貴方の服は乾き終わったから後で持ってくるわね。あ、着替えさせたのは私だから心配しないで!所持品とかは今お兄様が持ってて、あ、詳しい事情がお兄様が話すと思うわ。そろそろ様子見に来る頃だと思うけど・・・」


 前言撤回。おっとりと思っていたが、存外ちゃんと質問に答えてくれてはきはきしている。ただ、醸し出す雰囲気がどこかお譲様風で、育ちの良さを感じた。


 「あの、いろいろご迷惑をかけてしまってごめんなさい。」


 濡れた服を着替えさせるのは大変だっただろう。この際見られて恥ずかしいなどと思ってはいけない。いけないと分かっているが、やはり同性でも恥ずかしい。顔をわずかに赤らめて、まだ済んでいない自分の名前を伝えようとした。

 が、またしても来訪者を告げるノック音でタイミングを逃してしまった。


 「入るぞ」

 中に入ってきたのは、これまた端正な、容姿の整った青年だった。落ち着いた茶色の髪にエメラルドの瞳、すらりと長身で均整のとれた体躯。歳は二十歳頃だろう。少しクールな印象を与える青年は、トーリに目を留めた後、ルビアンナに向き合う。


 「兄様!」


 嬉しそうに微笑むトーリはやはり可憐な美少女だ。見ているこっちまで和む。歳の近い女の子の友達が皆無だったルビアンナは、同性のかわいい子につい憧れてしまう。

 兄と呼ばれた青年は、トーリの頭に手を軽く乗せた後、ルビアンナの元まで寄ってきた。近くで見ると美貌が増す。美形に囲まれて育ったルビアンナだが、久しぶりに出会った美形兄妹に少したじたじだった。


 「怪我は大丈夫か。」

 少し低めの声が響く。この兄妹は見ず知らずの不審者の怪我をちゃんと気にしてくれるのか。何だかすこしくすぐったい。

 

 「ええ、おかげさまで。ありがとう。」

 初対面の人とのコミュニケーションで必要な笑顔を意識して造り微笑んだ。が、クールな兄上は相変わらず無表情だ。


 「なら話は早い。俺はザイラス・レイマン。ヴィクトリアの兄で、この船はレイマン家の商船だ。近くに巡視船はあいにくいない。この船で次の港に君を送り届けるが、素性のわからない不審者を乗せる訳にはいかない。名前と出身地、行き先と空から落ちてきた理由を包み隠さず話してもらう。ちなみに、素性は偽らない方が賢明だ」


 不自由な身になりたくないだろう?暗にそう言われた気がした。












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