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プロローグ

 とある島国の王城にて。


 草木も眠る深夜0時。城の最奥に位置する広間では、六大貴族に大臣、宰相と国王による定例会議が秘密裏に行われていた。

 収容人数20名あまりの比較的小ぢんまりした室内は、蝋燭の代わりに星型に光る輝石をシャンデリアにはめている。そして外に明かりや音を漏らさぬよう幾重にも魔法の結界が施されていた。


 つい先ほどまでの外の賑やかな喧騒が嘘のように、室内には重苦しい空気が充満する。開始早々沈黙が流れた。定例会議とは名ばかりで、毎回ただ集まるだけ。何せ報告できる情報を、誰も入手できていないのだ。


 息苦しい沈黙に耐えかねたかのように、静かな声が室内に響く。


 「まだあのお方は見つからないのですか」

 

 上座に座る国王の隣に佇む美貌の宰相は、眉を軽くひそめて会議の議題を問いかけた。

 楕円のテーブルに席をついた6名の貴族、それと数名の古参の重臣達はそろって重いため息をつき、視線のみで会話する。誰一人新たな情報を得ていない事実を知り、それが自分だけではない事に安堵しつつ、だが微塵と外にもらさないよう気を引き締めていた。

 

 「彼の者が行方をくらましてから早8年。未だに手がかり一つもつかめぬとは、なんと不甲斐ない」


 宰相の言葉を引き継いだのは、紅のビロードの椅子にどっしりと腰掛けるこの国の王。歳は40をいくつか過ぎた頃。黒に近いダークブラウンの髪を後ろになでつけ、無精ひげを生やした精悍な顔立ちの美丈夫だ。

 感情豊かで子供のように遊び心のわかる国王は、引き締まった体躯の持ち主でもある。だが今は、王族特有のサファイアブルーの瞳を険しく細め、発する空気は氷の様に凍てついていた。


 「決して無能ではない騎士団及び魔軍を秘密裏に派遣し、魔力探知機を各地域にばら撒き、国外ですら感知できる最新設備を投じてから既に8年。これらの技術を駆使しても何一つ手がかりが掴めぬとは、嘆かわしいとは思わぬか」


 彼はカップに自ら紅茶を注ぎ、喉を潤す。


 「事は国の存続に関わる。信じがたいが、彼女は国外のどこかにいるとしか考えられぬ。外に派遣している者達からも一切同族の気配を感知できぬそうだ。建国の魔女と匹敵する魔力をキレイに隠し、ただ人として溶け込むなど並大抵ではない。これほどの人材を失ったのは、実に惜しいと思わぬか」


 国王は席に着く重臣達を見渡し、ため息をつく臣下達を眺めた。


 「些細な噂でもこの際構わぬ。国外であの者に似た特徴の目撃情報などはないのか?」

 「お言葉ですが、陛下。黒髪はこの国では希少で珍しくとも、外海に出ればさほど珍しくもありません。私の手の者を外に出させていますが、黒髪を所持する者は多く、外見的特徴で捜すのはひどく困難かと」

 

 控えめに答えたのは、緑がかった髪をした温和な男だ。目の下の隈が激務を物語っていた。


 捜し人は、希少な黒い髪の保持者。髪の色素が黒ければ黒いほど魔力も高く、建国の魔女に匹敵する最高位の魔女。

 8年前に忽然と城から消えた彼女の手がかりを、ありとあらゆる手段を使い血眼になって捜しているが、一向に噂どころか気配すら掴めていない。


 「やはり完ぺきに気配を消して魔力も封じておられますね。こう10年近くも逃げ続けるとは、流石としかいいようがありません」


 柔和なもの言いをする宰相は、淡々と意見を述べた。

 ふいに訪問を告げるノック音が響く。


 「どなたですか?」


 宰相が尋ねると、やや上ずった若い男の声が室内に届く。


 「王国騎士団第三部隊所属のポール・ランカーであります! 夜分遅くに恐れ入りますが、緊急事態です!」


 声に聞き覚えのある宰相は、身元をすばやく手元にある携帯用の特殊な機器に入力し、浮かび上がるホログラムを確認する。その映像から、結界を緩めたドアの前に立つ青年の顔を見比べた。ちなみに向こう側からは一切室内を窺えない。

 国王が視線で頷き、室内の結界を人一人分だけ解除する。促されるように入ってきた騎士団所属の青年は、緊張で汗を流しながらも震える声で懸命に現状を説明し始めた。


 「恐れながら申し上げます。先ほど東塔の星の間にて、強い魔力の波動を感知したとの報告を受けました。場所はアルメリア大陸とビアンカ島の中間にある海上。魔力の色は真紅の輝きでしたが、ほんの数秒で消えてしまって……。何かの間違いかと思われたのですが、星の間の室長から陛下に伝えるようにと言付かり、お忙しいのを承知で急ぎご報告に参りました」

 「それは、真か!?」


 一気にざわめき始めた室内に、若き騎士は少し慄いた。


 「今詳しい詳細を調べておりますが、ここでもう一つご報告申し上げるべきことがございまして……」


 おろおろと視線をさまよい始めた青年は、国王、宰相に加え大貴族や重臣達の強い視線におびえる心を叱咤し、背筋をピンと伸ばす。

 

 「申してみよ」

 

 国王が正面から視線をぶつけ、青年は意を決したように覚悟を決めた。


 「恐れながら申し上げます。その紅い魔力の光を感知した星の間に居合わせたのは、室長と自分を含む5名。うち一人は、騎士団団長であり王太子殿下であらせられる、ヴィルハルト・クロード・ザリアン殿下」


 最後の王太子の名を聞き、重臣達はみるみる顔を青ざめさせる。中には飲みかけの紅茶を噴出す者、そのままティーカップを落とす者までいた。


 「光の確認後、止め行く部下達を瞬時になぎ倒し、嬉々として一人で先ほど、旅立たれてしまいました……」


 青年の声は後半小さくしぼんでいった。が、しっかりと伝わったようだ。 今にも緊張で倒れそうな青年騎士と反し、国王は徐々に顔を強張らせ怒りに拳を震わせた。


 「あんの大バカ息子がー!! すぐに止めて連れ戻せー!!!」


 悲痛な叫びが広間に木霊した。











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