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食堂―quartet―

また加筆する可能性大です。

が、まだ先になるかと。

 私立陸奥乃宮高校の食堂は、地上二階地下二階で設計されている巨大フードコートだと言える。収容人数およそ千四百人と、全校生徒が全員同時に食事に訪れたとしても、窮屈さを感じさせない造りとなっている。加えて、この高校の生徒の人種は多種多様である。信奉している思想、宗教なども人によって様々だ。そのことにも考慮してこの食堂では、多くの食材がその文化に基づく料理として調理される(基本的に地下の設備は調理用に設計されている。しかし、その内部構造や大量の食料の生産元等については、一切が生徒に公開されていない)。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「でさぁ、五月になったわけじゃん?」

 食堂二階の一角。探しに探して注文した得体の知れない飲料を、頬杖をついた状態で一気に飲み干した雲前 辰巳はそう呟くと、正面で学内用の携帯端末に視線を落としている笹川 涼平に対して悪態をつく。

「まぁさ、期待してたっちゃしてたよ? それは嘘じゃない。だってさ、入学式前に(ひびき)がさ、さも事情知った口調で「ゲームが始まるヨ」とかかんとか言うからさ。誰だって真に受けるでしょ?」

「そうだな」

「しかも『リーダー』やら『チーム』やらそれらしい言葉を並べて、終いには「五月になればわかる」? わかんねぇって! わかるわけねぇって! もう一週間経ったんだよ!? 何かしらあったっていいじゃん!」

「そうだな」

「なぁ、涼平? 俺の話聞いてる?」

「そうだな」

「好きな食べ物は?」

「そうだな」

 目に涙を浮かべフードで頭を覆い隠し、テーブルに大きく突っ伏した辰巳をよそに、涼平は眉間にしわを寄せ腕を組み、深く考え込んでいた。今日の昼食である卵サンドはきれいに切り揃えられた状態のまま、乾燥して固くなってしまっている。

「いつまでそんなことしてんだよぅ……」

 フードに隠れてしまい表情までは確認できないが、恐らく半泣きな状態なのだろう、声が少し震えていた。

「……り、涼平? と、た、辰巳?」

 騒がしい食堂内なのに、静まり返った二人だけの空間。そんな二人に声をかける人影があった。夜空 蒼だ。食事用のプレートの上には昼食のカレーライスをのせ、おずおずとした表情で涼平の顔を覗き込む(結局一ヶ月経った今でも、会話の始めにどもってしまう癖は治らなかった)。しかし、涼平からはこれといった反応はない。

「お、あおっちか……何? どうかした?」

 突っ伏した状態のまま辰巳は、口をもごもごと動かし蒼に話しかける。

「え、えと、その、お昼、一緒しちゃ、だめ、かな?」

「もち、いいよん。でも、そっちこそいいの?」

 不思議そうな顔で蒼は辰巳に問い返す。

「何を?」

「いつもいる人。カ、カリム? あと、ヴォイド? だっけ? そっちとは昼飯一緒にしなくていいの?」

「あ、うん」

 何が疑問点になっているのかをはっきりと理解した蒼は、納得した口ぶりと表情で辰巳に答える。実は今日は二人とは別行動なのだと。

「え? そうだったの? じゃあ、今日の授業はあおっち一人?」

 よほど驚いたのか、机にうずめていた顔を勢いよくあげると、辰巳は心配そうな眼差しで蒼を見つめる。

「え、あ、うん。一人で受けてた」

「寂しくなかった?」

「え? あ、うん、大丈夫、だよ?」

 そうかそうかとまるで幼い息子を扱うかのような口調で蒼と話すと、ブレザーの襟をきちんと整え、改めてしっかりとフードを自分の頭にかけた。大きく一回の深呼吸をし、そしてそのまま自分の両頬に乾いたビンタを入れる。

「しっかりしなくちゃな……」

「そうだな」

 その言葉に反応してか、辰巳はむすっとした目つきで涼平を睨む。

「何だ?」

「さっきまで俺の話聞いてなかったくせにさ、こういうときだけ耳敏いのな」

「聞いてたさ。頭に入ってこなかっただけで」

「それを聞いてないって言うんじゃ……」

 珍しく蒼からの積極的なツッコミがあったわけだが、涼平の耳には届いておらず、それに気づいた蒼はそのまま黙り込んでしまう。周囲の騒音に対する静けさがそこに生まれていた。

「まただんまり決め込むつもりかよ。いい加減この展開は飽きるわ」

 そう呟く辰巳は空のコップを手に、どこかへとふらりと立ち去ってしまった。

 多くの人がごった返す館内。蒸し暑くむさ苦しかったりもする。そんな中で何か話しだそうとする気配のない二人が向き合って鎮座している。そんな空間に耐えられる者がいるのなら教えてほしいものだ。

 涼平の視線は端末に向けられたまま一向に動かない。いや、意識自体はもはや端末ではなく、さらにその向こう側へと持って行かれていた。誰の言葉も届くことのない向こう側へと。

 蒼はといえば、こちらはこちらで悩んでいた。無論、今のこの状況についてのことだ。この沈黙が重たいものということは、誰でもない、蒼本人が一番理解できていることだ。涼平が黙り込んでしまっている理由が想像できないわけではない。そのことについては、蒼も今週の頭のうちからしっかりと考えていたことだ。しかし、考えたからと言って早々に答えが出る問題でないこともわかりきっていた。だからこそ、今日は久しぶりに二人とは別行動をとって、食堂で一人になって気分転換をしようと考えていたのだ(そんな蒼の気持ちを見計らったのか、別にそんなこともなかったのか、ヴォイドとカリムは今日の昼は別にとろうと相談を持ちかけてきた)。そんな中、二人を見つけてしまったのだ。声をかけるかかけないか迷っていたが、しかし、ここで素通りするのも気分的に申し訳なかった。だからこそ、声をかける選択をしたのだが、どうやら完全に失敗であったらしい。むしろ、一人でいた方が楽だったに違いなかった。

「さぁさ、どうぞこちらへ」

 ふいに辰巳の声が聞こえた。さきほど人混みの中に消えていったのを視認しているわけだし、まさかこんなにも早く帰ってくるはずがないと思いつつも、蒼は声のした方向へと訝しげな表情を向ける。

「荷物重くない? 大丈夫? いいよいいよ、すぐそこだし」

 案の定辰巳であったことには違いなかったのだが、様子と状況がこの場をふらっと立ち去っていったときと大きく異なっていた。まず様子。見るからに浮かれている。

 初対面の者に、あの辰巳の表情を浮かれていると思わせることはとても難しい。表情としては至極全うな、至って勤勉そうな真面目な顔をしているからだ。しかし、一月(ひとつき)も同じ部屋で生活している蒼にはわかった。恐らく、意識を向けていれば涼平でも感づいただろう。明らかにナンパをしているようにしか見えない。そんな表情であることが、一目瞭然であったのだ。

 そして状況。言わずもがな、一人の女子生徒を連れてきていた。肌はミルクのような色、とまでは行かないものの、健康的で一般に白い肌といっても問題ない。長身とは程遠い背丈で辰巳よりは見た感じ低い。中学時代に成長期が終了した蒼といい勝負になるかもしれない。長く伸ばした黒髪は、一つ結びにして肩よりも下に垂らし、スラリとしたその姿勢は、おしとやかでかつ優雅。その様相は、時代物で出てくるような「女侍(おんなざむらい)」や「女騎士(おんなきし)」と称しても不自然でないほどのものだった。

 蒼は辰巳の連れてくるその少女の顔をくいいるように見つめていた。その顔に見惚れていた、というわけではない。その凛とした視線も、少し大人びた表情も、しっかりとした立ち居振る舞いも、すべてが蒼の中で引っかかっていた。

「はい、どうぞ」

 珍しく紳士的に辰巳は、涼平の左隣の空き椅子を引き彼女に座ることを促す。それに応じる形で、女子生徒は小さく頷き笑顔を見せると、昼食の乗ったプレートを机に置き静かに腰を下ろす。

「お前らが、あまりにも暗いから新しい感じにしようと思ってな! まずは自己紹介だな。俺は雲前 辰巳よろしく!」

 女子生徒が腰を掛けるのを確認すると、辰巳は元々自分が座っていた席に素早く座りなおした。この様子から考えてみても、どうやら二人は今日が初顔合わせらしい。これではまさしくナンパそのものではないか。そんなことを思ってみるものの、蒼にはそれを口に出すことはできなかった。その代わりに蒼が発したのは、

「あ、あの、えと、どこかで、会ったこと、ある?」

「え?」

 疑問符が投じられた。それが無理もない反応だということは、その発言の当事者である蒼の表情から見ても歴然であった。明らかに蒼は自分の言葉に後悔している、そんな顔をした。

「あ、い、いや、そ、その……」

 次に続く言葉が見当たらない。突発的に発してしまったものなのだから、仕方のないものといえばそうなのだが、それでもしかし、蒼はそのまま俯いてしまう。

「あ、あおっち?」

「大丈夫、か?」

 心配する辰巳の声とともに、女子生徒の方も心配そうに声をかける。見た目に違うことのない、優しく、それでいてとても凛とした、年齢相応な少女のものだ。しかし、

「え、あ、あの、え?」

 自ら訊ねておきながら出てきたのは疑問の声。

 少女と出会ったことがあると思ったことは明白だ。間違えようのない事実だ。しかし、その声は記憶になかった。薄まっている過去の記憶だとはいえ、その声に該当するものは全く身に覚えがない。

「あ、いや、その、ひ、人違いだったみたい。あ、あは、あははは」

 作り笑いとこわばった顔で、どうにかしてこの状況からの打破を試みる。どうやらうまくいったらしい。変な表情でしきりに蒼の方をチラチラと目線を配ったりしてはいたが、結局いつまでもそんなことをしていられないと気づいたのか、しぶしぶ涼平、蒼の順に紹介し少女に自身のことを紹介するように促す。

「え、え? た、辰巳? 何も知らせずに連れて来たの?」

 呆れた表情と声のトーンの問いに対して辰巳はきょとんとした顔で、

「ん? そうだけど? なんかおかしい?」

「あ、あの、えと、ううん、おかしくは、ないよ?」

 あっけらかんとした表情のまま辰巳は、質問をした蒼を追い返し(と言うよりは、蒼が早々に根負けしたわけだが)、隣に座らせた女子に笑顔を見せる。

武蔵(むさし) (あかね)だ。よろしく」

 堅苦しい男言葉とともに、武蔵 茜は自身の名前を口にした。

「あかね……ね。じゃあ、あかねちゃんだな。どうぞ、よろしく!」

 やけにテンションが高い辰巳はそのまま、自身たちのことを饒舌に語っていく。身の上話やら、好きなテレビ番組のことやら、学校での生活についてまで。そして、それに対応する茜は、その話に必要最低限の相槌を打っていった。そして、

「あかねちゃんはさ、五月から始まる予定だったものについてどう思う?」

 今までのニヤついた、軽薄そうな表情は形を潜めさせ、辰巳はとても真面目な表情でそれを問う。

「どうとは?」

 ここに来ての辰巳の変化に茜も気づいたのであろう、ここまで相槌に徹してきた茜は静かに声を発する。

「イベントの遅れについてか?」

「そう! それについて! それってさぁ、どうゆうことだと思う?」

 軽薄そうな笑顔とそれに違うことのないテンションの高さを取り戻すと、辰巳は落ち着いて昼食をとり始める茜に話しかける(因みに彼女が持ってきたトレイの上には既に、食べかけのラーメンのどんぶりが一食乗っていた)。

「単なるミスかな? それとも」

「ミスなわけじゃないと思うぞ?」

 辰巳の声の返事は茜から発せられたものではない。堅苦しい男言葉ではあるものの、その言葉には一切の堅苦しさというものは付き纏ってはいなかった。発したのが女ではないからである。声の主のいる方向に辰巳は嫌そうな顔を向ける。

「涼平。あのさ、今更俺の話に介入してくるの止めてくれない? 今、俺と彼女とで楽しく談笑してたわけなんだからさ」

「ん? 彼女?」

 そう呟くと、今まで目を通していた携帯端末の電源を落とし、正面を見る。

「辰巳と……誰だ? ……蒼もいつからいた?」

 自己紹介を改めてする茜と、暗いオーラを身に着けることに成功した辰巳と蒼。しかし、辰巳は少しの時間をかけたのみでそのオーラからの脱出を果たす。

「で、ミスじゃないってどゆこと?」

「あれだ」

 立てた親指を自分の後方に向かって突き立てる。そこには、

「何、あのテレビ?」

 巨大なテレビ画面がそこにはぶら下がっていた。正確には巨大な超薄型テレビである。昨日の夕方まではそこになかったことを、辰巳は知っていた。昨日はみんなと共に飯をとらず、一人この食堂内でさみしい夕食をとっていたからだ。一晩にして釣り下がったそのテレビ画面は、食堂内を見渡す形でそこに鎮座されている。どんな大豪邸であっても、あそこまで巨大なものを所有している者は、世界広しと言えどどこにも存在しないことだろう(仮に所有している者がいるとするなら、余程金に余裕のあるものか、もしくは世界最大のテレビ画面を購入したと言う理由でギネスブックに載りたい者だけだと考えられる、そこまでの大きさなのだ)。画面の両脇には巨大なスピーカー。テレビにはまだ電源が入っていないらしい。画面は黒一色に染められていた。

「…………ちょっと待て」

 ここまでの考えを整理した上で、誰に同意を求めるわけでもない制止を求める。

「俺、ここに来たとき、あんなものに一切気づかなかったんだけど?」

「俺も今さっき気が付いたところだ」

 さらりとした表情で突拍子もないことを言っていることに、涼平自身気がついてはいない。

「おいおいおいおいおい、ちょ、ちょっと待て。じゃ何だよ? あれ、いつからあそこにあったの?」

「さぁな」

 変わらずぶっきらぼうに言い放つ涼平をよそに、辰巳は興味の視線を茜に移す。

「あかねちゃんはどう思う?」

 アスカがこの場にいれば鉄拳制裁が加えられるであろう、女子に対してだけ見せる辰巳の優しげな笑顔に、茜の方と言えば、全く意に介することもなく個人の考えを話す。

「教師陣の能力者、『M』と言ったか? 奴の能力なら可能なはずだ」

 その言葉を聞き蒼もようやく会話に(むしろ現実からの逃避からと言っていいかもしれない)復帰した。

「時間が止まるっていうやつ、のこと、かな?」

「確かに、そんな能力がありゃ、別に難しいことでもないか。あおっち、経験した身としてはどう? 可能性はあり得る?」

 この返答に蒼は少しの迷いを感じた。確かに自分は一度その能力を体感した。少しの時間とはいえ、『時を止める』と言われたあの能力の体験者となったのだ。だからこそ、確かにその通りだ、茜の言っていることは正しい、ということもできた。しかし、

「あり得るとは、思う、けど……」

「けど?」

 あれは、あの『能力』と呼ばれるものは、まだ蒼の脳内で対応しきれていない。無論、認めてしまうことができないわけではない。目の前にいる友人たちの言葉を完全に信じ込み、自身の体験した事象に照らし合わせることによって、そのありえなさを払拭することはとても容易だ。しかし、蒼の中ではまだ整理がつかない。みんなが持つ、自分さえも知らないうちに使ってしまっている『能力』と言うもの。まだ、自分がその『能力』を扱うことのできる『超人類』であるということが、この学校にいる者全てがその『超人類』であるということがいまだに信じられないのだ。だからこそ、簡単に能力の存在を肯定するような発言を蒼にはすることができなかった。

「けど、その、一概には、その、言えない、かな、って……」

「まぁな、確かにその線が濃いわけではあるけど、それ以外の可能性がないわけでもないし……」

 そんな蒼の気持ちを察したのか、辰巳がすかさず蒼の発言に対してフォローを入れる。

「そういや、涼平がさっき言ってたミスじゃないってどゆこと?」

「あの画面が今更取り付けられた。……つまり」

「つまり」

 涼平の言葉を茜が受け継ぎ、そして言う。

「これから始まる」


『れでーーーーーーーーーーーーす、あーーーーーーーーんどじゃんとるまーーーーんず!!!』

 唐突にしかし、誰もが驚愕することなく『J』の声と思しき音声が大音量で流れ出す巨大なテレビ画面へと目を向ける。

『げーーーーーーーーむの、始まりだ』


 波乱の日々はここから始まった。

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