第16話 【幕間】崩れる教義と、司祭の焦燥
前話では、フェルデン領主バルド侯爵がhideを自らの手駒として飼いならそうと企むも、規格外の「128名同時再生」の報告を受けてパニックに陥り、ショックで心が折れる極上の勘違い(ざまぁ)コメディが描かれました。
今回お届けする第16話は、引き続き視点を変えた【幕間】エピソード。舞台は権威主義に凝り固まった「聖法教フェルデン支部」です。
見どころ①:崩れ去る「魔法の常識」と権威の焦燥 何十年も修行してようやく一人の傷を癒やす神官たちの常識を、野良の魔法使い(hide)が無詠唱で、しかも128名同時に行ってみせたという事実。異世界の古い常識に囚われたモルガン司祭の、長年の信仰と権威の塔が音を立てて崩れ去る焦燥感が描かれます。
見どころ②:宗教ビジネスを脅かす「バグ」への殺意 「治癒は教団の専売特許であり、無料で安売りするなど大罪」。人々を管理する装置として宗教を利用するモルガン司祭は、hideを救世主ではなく自分たちのシステムを破壊する「バグ」と認定します。弱みを握り、従わなければ闇に葬ろうとする冷酷な暗躍が始まります。
見どころ③:迫り来る「王都」の悪意 辺境の領主に続き、巨大な宗教権力までもがhideに狙いを定めます。ただ静かに暮らしたいおっさんの思惑とは裏腹に、彼を巡る国家・宗教規模の陰謀が本格的に動き出し、次なる「王都編」への重厚な導線となっていきます。
権力者たちが自分たちの常識を破壊されていく恐怖と焦燥感。マギ・システムのオーバーテクノロジーが異世界に与える「絶望的なまでの脅威」を、敵対者の視点からたっぷりとお楽しみください。
辺境の街フェルデン、聖法教大教会。
天を突くような白亜の塔が立ち並ぶその場所は、この辺境地域において最も「神聖」であり、同時に最も「権力的」な場所であった。
その最深部にある豪華な執務室で、モルガン司祭は届いたばかりの書簡を手に、不機嫌そうに眉根を寄せていた。
「……馬鹿げている。あり得ん。こんな報告、断じて認められるはずがない」
モルガンは、教団内でも政治的な立ち回りに長けた、権威の信奉者である。
彼にとって信仰とは、人々を管理し、莫大な寄進を巻き上げるための最も効率的な「装置」に他ならなかった。
書簡には、辺境の街フェルデンで起きた「奇跡」の全貌が、生々しく記されている。
――無詠唱による、広域治癒。
――欠損した手足が、瞬時に再生。
――その数、百二十八名。
「無詠唱だと? 神官たちが数十年の修行を経て、ようやく一人の傷を癒やすための祝詞を紡ぐというのに……それを、名もなき野良の魔法使いが、詠唱もなしに、しかも同時再生だと……っ!」
モルガンは、震える手で書簡を机に叩きつけた。
彼が恐れているのは、その魔法使いの「実力」ではない。
その「在り方」だ。
教団の権威は、「神の奇跡」が希少であり、教団を通さなければ得られないという独占によって保たれている。
もし、誰にでも、どこでも、無詠唱でそんなデタラメな奇跡を振りまく者が現れれば、教団が積み上げてきた権力の塔は、音を立てて崩れ去るだろう。
「治癒は、教団の専売特許だ。無料で、しかもこれほどの規模で奇跡を安売りするなど、世界の理を壊す大罪に等しい」
モルガンの瞳に、冷酷な光が宿った。
彼にとって、hideという存在は「救世主」などではなく、自分たちのシステムをハックしようとする「バグ」に過ぎないのだ。
(フェルデン領主のバルドは、恐れをなして手を引いたようだが……。そのまま野放しにはできん。本国(王都)の騎士団や、教団の異端審問官が動く前に、私が奴の『首輪』を握らねば)
モルガンは鐘を鳴らし、影に潜んでいた密偵を呼び出した。
「フェルデンへ向かえ。その『聖者』を名乗る不届き者のすべてを洗え。弱味、過去、人間関係。……もし、教団に従わぬのであれば、その奇跡ごと闇に葬る手配をせよ」
「御心のままに」
影が消える。
独り残された執務室で、モルガンは冷え切ったワインを口にした。
「……無料の奇跡など、この世にあってはならんのだ。……さあ、偽りの聖者よ。お前がどれほどの絶望を味わうことになるか、楽しみにしているぞ」
古い権威の具現者である司祭の低い笑い声が、ステンドグラスに遮られた冷たい部屋に、不気味に響き渡った。
[System.Audit_Log: 016]
対象:モルガン司祭(外部個体)
状況:既存の権益(教義)を脅かす「バグ」としてのマスターに対する敵意を検知。精神状態:傲慢と焦燥。
所見:
外部脅威として教団勢力をリストに追加。事象の推移分析を優先。
[Warning: Unidentified_Context_Leak: 'そんな矮小な論理で勝てると思っているのかしら']
※引き続き、システム深層からの監視プロセスを継続。
[Status: Observing]




