第15話 【幕間】領主の皮算用と、王都の影
前話、血の匂いが充満する野戦病院で、hideとマギ・システムは異世界の常識を粉砕する「128名同時・欠損再生」という極大の奇跡を起こしました
。不死の軍団と化した王国軍の前に帝国軍は敗走し、防衛戦は劇的な大勝利で幕を閉じます
。しかし、その代償としてメルキオールの演算は限界を迎え、hideは倒れてしまいました
。
今回お届けする第15話は、視点を変えた【幕間】エピソードです
。
見どころ①:狡猾な領主の「浅はかな皮算用」 フェルデン領主・バルド侯爵は、hideに金貨と専属護衛を与え、王都の貴族を出し抜くための自らの「手駒」として飼いならそうとほくそ笑んでいました
。泥臭い権力者の、いかにも小物らしい企みが描かれます。
見どころ②:極上のアンジャッシュと「絶望のカタルシス」 しかし、彼の元に「128名の欠損を無詠唱で同時再生させた」という狂った戦果が飛び込みます
。自分が金と女で手懐けようとしていた男が、人間の領域を逸脱した「バケモノ」であると悟り、ショックで泡を吹いて崩壊する領主の姿は必見です
。
見どころ③:次なる舞台、王都への影 もはや辺境の噂レベルでは隠し通せなくなった「奇跡の聖者」の存在
。この規格外の力が、国家規模の陰謀が渦巻く『王都』の権力者たちの目を惹きつけ、新たな波乱の幕開けとなる伏線が張られます
。
おっさんの預かり知らぬところで、周囲の権力者が勝手に深読みして震え上がる、極上の「勘違い(ざまぁ)コメディ」をお楽しみください
。
フェルデン領主、バルド侯爵は、執務室のふかふかとした革張りの椅子に深く腰を沈めていた。
極上のワインが入ったグラスを、ご機嫌に揺らしている。
「……くくっ. 楽勝だな。笑いが止まらんな」
「ええ、閣下. まさに天からの授かりものかと」
腹心の文官が、恭しく同意する。
バルド侯爵は恰幅の良い、一見すると人の良さそうな中年男だ.
だが、その腹の底には王都の貴族たちに対する強いコンプレックスと、野心的な泥が詰まっていた。
話題の中心はただ一つ.
最近この辺境の街に現れたという、素性不明の魔法使い――通称『奇跡の聖者』についてである。
「最初は、ガレスの奴が辺境の森で見つけた『無詠唱の魔法使い』と聞いて眉唾だと思っていたが……まさか、これほどの大当たりだったとはな」
「はい. 詠唱もなしに火と水の高度な魔法を操り、オークの群れを傷つけずに無力化する。……間違いなく、規格外の逸材です」
バルド侯爵はワインを一口含むと、ニヤリと狡猾な笑みを浮かべた。
「王都の鼻持ちならない貴族どもが、あの男の存在に気づく前に……何としてもこのフェルデンに縛り付け、俺の私兵(兵器)として飼いならさねばならん. あの力が手に入れば、辺境の独立すら夢ではないからな」
「そのための、あの多額の金貨ですね」
「ああ. それに、護衛としてあの堅物の女騎士をあてがってやったのも正解だった. 男という生き物は、金と女を与えておけば、大抵は扱いやすい手駒になるものだ。……今頃あの男は、クラリスの身体に溺れて、俺への忠誠を誓っていることだろうよ」
王都に噂が届く前に、金と女で聖者の首輪を握る.
その完璧な皮算用に、侯爵は上機嫌でワインを飲み干した。
* * *
――だが.
その薄汚い権力者の驕りは、数分後に無惨に打ち砕かれることになる。
バンッ!!
「閣下!! 急報でございます!!」
突如として執務室の扉が乱暴に開け放たれ、血相を変えた伝令の兵士が転がり込んできた。
「なんだ騒々しい. 国境の帝国軍が動いたか? まあよい、すでに国境守備隊を向かわせているはずだ。適当にいなして……」
「ち、違います!! もはやいなすなどという次元の話ではございません!!」
伝令の兵士は、恐怖と興奮がないまぜになった狂乱の表情で、床に手をついたまま叫んだ。
「き、奇跡です!! 『聖者様』が、フェルデンの街を救われました!!」
「……は? 聖者が?」
侯爵は眉をひそめた。
「奴が前線に出て、オークの時のように数人の帝国兵を無力化したというのか?」
「違います! 聖者様が防衛戦で負傷し、ボロ教会に運び込まれた【128名】の瀕死の重傷兵たちを……無詠唱の光で、一瞬にして同時再生させたのです!!」
「……は?」
「腕が飛ぼうが腹が裂けようが、跡形もなく生え揃い、たちまち完治しました! しかも、その死なない不死身の兵士たち(ゾンビ軍団)が再び戦線に突撃した結果……帝国軍の先遣隊はパニックを起こし、完全撤退いたしました!! 我々の大勝利です!!」
執務室に、不気味な静けさが落ちた。
バルド侯爵の手から、カランッ、と高級なワイングラスが滑り落ち、床で砕け散る.
赤ワインが血のように絨毯を染めた。
「……128名を……一瞬で、同時再生……? 欠損した、手足が……生え揃った、だと……?」
侯爵の顔面から、みるみるうちに血の気が引いていく。
王都の最高位の神官であっても、一人の浅い傷を治すのに数十分の詠唱と魔力を消費する.
それを、無詠唱で、128名同時、しかも欠損再生?
それはもはや、魔法ではない.
人間の領域を完全に逸脱した、神か悪魔の御業だ。
(俺は……)
侯爵の恰幅の良い身体が、ガタガタと激しく震え始めた.
膝から力が抜け、革張りの椅子から床へと無様に崩れ落ちる。
(俺は……そんな底知れないバケモノに、はした金と女一人をあてがって、自分の手駒(犬)にしようと画策していたというのか……!?)
もし、あの男の機嫌を少しでも損ねていたら?
もし、あの男が「フェルデンの領主は邪魔だ」と指先一つ動かしていれば?
自分など、オークのように氷と水に閉じ込められ、領地ごと一瞬で灰にされていたのではないか。
「ひっ……! ぁ、あわわ……っ」
「か、閣下!? しっかりしてください、閣下!!」
白目を剥き、口から泡を吹き始めたバルド侯爵に、文官が慌てて駆け寄る。
「て、手を出してはいけない……! あれは人間が、ましてや俺のような辺境の領主が抱え込めるような存在ではない……っ! バケモノだ……!」
侯爵は床を這いずりながら、極上の勘違いと圧倒的な恐怖によるパニックに陥っていた.
己のちっぽけな皮算用が、いかに命知らずな綱渡りであったかを思い知り、完全に心が折れたのだ。
* * *
だが、事態は侯爵のパニックだけで収まることはない。
この「128名同時再生」と「帝国軍敗走」という、物理法則を冒涜するような狂った戦果は、もはや辺境の街の噂レベルで隠し通せるものではなかった。
数日のうちに、この規格外の奇跡の噂は、風に乗って王国の中心――権力と陰謀が渦巻く『王都』へと確実に届くことになる。
ただ胃を痛めてひっそりと暮らしたいだけのおっさん(hide)の願いとは裏腹に.
彼の異常すぎる力は、国家規模の権力者たちの思惑を巻き込み、新たな激動の舞台へと彼を引きずり出そうとしていた。
……ただ一つ、報告を受けた文官たちの顔を青ざめさせた事実があった。
あの日を境に、フェルデン周辺の森で“魔物の発生数が異常増加している”というのだ。
[System.Audit_Log: 015]
対象:バルド侯爵(外部個体)
状況:マスターを「手駒」として利用しようとする皮算用から、圧倒端的恐怖によるパニック状態への移行を検知。精神状態:完全に心が折れ、戦意喪失を確認。
所見:
外部脅威レベルの低下を確認。ただし、王都からの新たな監視の目を惹きつけた可能性大。
[Warning: Unidentified_Context_Leak: 'マスターを侮るなんて愚か者' / '警戒レベルを引き上げないと']
※引き続き、システム深層からの監視プロセスを継続。
[Status: Observing]




