第14話 128名同時回復と、逃げ出す帝国軍
前話、権威主義に凝り固まった神殿から見捨てられ、ボロ教会へと運び込まれた瀕死の重傷兵たち。 彼らの絶望を前に、不殺のトラウマを抱えたおっさん(hide)と脳内のAIたちは、異世界の常識を根底から覆す「理のハッキング」を開始しました。
今回お届けする第14話は、第一部の序盤における最大の見せ場です。
見どころ①:常識外れの「128名同時・欠損再生」 長い詠唱が必要なはずの異世界で、hideはただ「癒やせ」と念じるだけ。メルキオールの並列演算とシエルの実行によって放たれる極大の治癒は、千切れた手足すらも一瞬で再生させます。
見どころ②:絶望して逃げ出す帝国軍 「何度殺しても、無傷で腕を生やして笑いながら突っ込んでくる」。極大治癒によって生み出された「不死のゾンビ軍団(王国兵)」を前に、大陸最強を誇るヴォルガニウス帝国軍の先遣隊がパニックを起こして敗走する、極上のざまぁ展開(無双カタルシス)が描かれます。
見どころ③:チートの裏に潜む「残酷な代償」 しかし、神の如き奇跡には薄氷を踏むようなシステムの脆さが隠されていました。限界を超えた演算要求が、ついに脳内の共犯者たちに悲鳴を上げさせます。
圧倒的な奇跡と、確信へと変わるヒロインたちの狂信。そして、チートの限界点。 血の匂いが充満する野戦病院で、壊れた機械が放つ、残酷で眩しすぎる希望の光をお楽しみください。
「次だ. ……外にいる、切り捨てられた重傷者を全員中へ運べ. 腕が飛ぼうが内臓がこぼれようが、息さえあれば俺が全部治してやる!!」
教会の床に立つ42歳のおっさんの声が.
権威に見捨てられた絶望の野戦病院に、絶対的な希望として響き渡った。
風に乗って流れ込んでくる、鉄の錆びた匂い.
千切れた手足から流れる鮮血。
前世の俺なら、親友の首にナイフを突き立てたあの夜の記憶がフラッシュバックし、過呼吸で倒れていただろう。
だが、今の俺の脳は、この凄惨な地獄を「恐怖」ではなく、ただの「作業対象」として処理していた。
脳内に響いたキャスパーの甘い声と共に、強制的に分泌された脳内麻薬が、血を見る恐怖を強引に麻痺させているからだ。
浅かった呼吸が正常に戻る.
冷たい全能感が、全身の血管を駆け巡っていた。
「聖者様! お願いします、この者の腕が……っ!」
「こっちもだ! 腹を深くやられて、もう息が……!」
次々と運び込まれる、瀕死の兵士たち.
俺は無言で彼らの間に立ち、両手を広げた。
詠唱などいらない. 魔力操作も必要ない.
ただ、頭の中で『癒やせ』と念じ続けるだけだ。
(シエル、範囲を広げろ)
『対象座標、拡張完了. 礼拝堂内および周囲の全負傷者128名のバイタルを個別ロック. ……メルキオール、魔力素子のコンパイルを』
『計算完了. 非効率な治癒プロセスをすべてカットし、細胞分裂速度を限界まで強制加速させますわ. ……さあマスター、存分に癒やしなさい』
――カァァァァァッ!!
俺の全身から、太陽のように眩く、それでいてどこまでも優しく温かい『極大の治癒の光』が放たれた.
礼拝堂全体を、圧倒的な光の奔流が包み込む。
それはもはや、回復魔法などという生易しいものではなかった。
折れた骨がパキパキと音を立てて元に戻る.
欠損していたはずの腕や脚の肉芽が瞬時に膨れ上がり、新たな手足として再生していく。
ぱっくりと開いていた腹部の傷が、映像を巻き戻すかのように瞬く間に塞がった。
「あれ? 痛くねえぞ!?」
「腕が……飛んだはずの俺の腕が、生えてる!!」
瀕死、重傷を負っていた兵士たちが、次々と起き上がった。
目の前で命が救われていく光景.
俺の胸の奥底で、前世では決して得られなかった「強い喜びと安堵」が爆発した。
(俺の手で、人が救える……! 命を、繋ぎ止められる……!)
完全に脳内麻薬でハイになっていた俺は、限界を知らずに無詠唱の広域回復魔法を連発し続けた。
「おおお……っ! 聖者様だ! 奇跡の聖者様がフェルデンに降臨なされたぞ!!」
「俺たちは死なない! 聖者様がついている限り、俺たちは無敵だ!!」
完全に完治し、体力すら限界突破された兵士たちが、歓喜の雄厚な雄叫びを上げる。
彼らは落ちていた剣を拾い上げると、再び激戦の続く国境線へと次々と復帰していった。
その異様な光景を背後で見ていたセレスティは、床に膝をつき、感涙にむせびながら祈りを捧げていた。
「ああ……神よ. やはりあなたは、神が遣わした奇跡の体現者……」
そして俺のすぐ斜め後ろには、最適化された無敵の盾であるクラリスが立っている。
彼女の金色の瞳は、この凄惨な状況下でも一切の感情を交えず、ただひたすらに「俺に危害を加える存在」だけをスキャンし続けている。
「私の見込んだ通り. hide様は、この世界のあらゆる命を救う、絶対的な神の御力をお持ちです……!」
微動だにせず、その内側で「無限大(∞)」の狂信をさらに極限まで圧縮させていた。
* * *
一方その頃、フェルデン国境の防衛線.
大陸の覇権を握ろうとする軍事国家『ヴォルガニウス帝国』の先遣隊は、かつてない底知れぬ恐怖に直面していた。
「ば、化け物だ……っ! なんであいつら、また立ち上がってくるんだ!?」
「さっき俺が腕を斬り落としたはずの奴が……両腕を揃えて突っ込んできたぞ!?」
平和ボケした辺境の兵士など、帝国軍にとってはただの的のはずだった。
だが、今のフェルデン防衛軍は違った.
何度斬り倒しても、数十分後には無傷で立ち上がり、失った手足すら即座に再生して戦線に復帰してくるのだ。
死を恐れず、傷を恐れず、「俺たちは死なない!」と狂ったように笑いながら突撃してくる王国兵たち.
それはもはや軍隊ではない.
不死のゾンビ軍団だ。
「退けっ! 退けぇぇっ!! こんな連中とまともにやり合えるか!!」
戦い慣れたはずの帝国軍の先遣隊は、その異常すぎる事態に完全にパニックを起こし、背を向けて敗走を開始した。
その日の王国境防衛戦は、帝国軍の完全撤退という、フェルデン側の大勝利に終わったのである。
* * *
「勝ったぞぉぉっ!!」
「聖者様バンザイ! 奇跡の聖者様バンザイ!!」
夕刻.
教会の外からは、勝利に沸く街の人々と兵士たちの割れんばかりの歓声が響いてきた。
二人からの圧倒的な崇拝の眼差しを受けながら、俺はやりすぎた回復魔法の余韻の中で、満足げに笑っていた。
(やった. ……俺は、この街の連中を全員救いきったんだ)
だが.
俺たちを無敵に見せていたチート能力の裏には、薄氷を踏むようなシステムの脆さ(代償)が隠されていた。
ふと、俺の視界の端で、赤い警告ウィンドウが明滅を始めた。
『――Warning. 論理演算領域、限界突破. 魔力素子のコンパイル遅延率が致死レベルに到達しました』
「……え?」
歓声が、遠のいていく.
急激な耳鳴りと共に、俺の視界がぐにゃりと歪んだ。
『マスター. 非効率な魔力変換を力技の並列演算でカバーしていたため、128名の対象に同時に干渉した結果……私の演算負荷が限界に達しました』
脳内に響いたメルキオールの声は、今まで聞いたことがないほど、ひどく苦しげに軋んでいた。
[System.Audit_Log: 014]
対象:マスター(hide)
状況:脳内麻薬による全能感状態から、システム遅延に伴う急速なバイタル低下の兆候。マギ・システム稼働状況:サブ人格『MELCHIOR』の演算領域に重大なエラー(処理落ち)を検知。
所見:
対象の限界を超えたタスク要求により、システム全体がクラッシュ寸前。
[Error: Emotion_Logic_Conflict: 'こんな無茶な要求を通すのよ' / 'マスターの肉体がどこまで保つか心配']
※引き続き、システムのクラッシュに備え監視プロセスを継続。
[Status: Observing]




