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第11話 静寂を破る蹄の音と、招かれざる「客」

オークの群れを「不殺」で無力化したことで、hideはついに辺境の権力者であるフェルデン領主から呼び出しを受ける。 手渡された重い金貨の袋と、専属護衛に任命されたクラリス。 裏では「身体を使ってでも聖者を引き留めろ」という軍人の泥臭い打算が渦巻いていた。

だが、クラリスの「高潔な聖者様」という勘違いフィルターが、そのゲスな命令を見事に(そして恥ずかしい暴露と共に)粉砕する。

一方、権力者からの干渉を避け、合理的に「一人暮らし」を提案したhideだったが、その言葉がクラリスの重すぎる愛の地雷を踏み抜いてしまう。 病みかける女騎士を見かねて、ついに防衛担当AI・バルタザールが直接介入。 クラリスの信仰度は、バッファオーバーフローを防ぐために「∞(無限大)」へと再定義される。

ただのおっさんの平穏な一人暮らしの夢が、AIのシステムと無敵の盾によって完全に絶たれる第11話。 狂信がシステムとして確立する瞬間を、お楽しみください。

フェルデンの周辺で魔物狩りを続けて、数週間が経った。

俺とクラリスの連携は、瞬く間に辺境の街で噂になった。



そして今日、俺たちは領主の館へと招かれていた。



「おお、奇跡の聖者様! どうかこのフェルデンに永住し、我々をお守りください!」


恰幅の良い領主が、俺の手を握りしめて懇願してくる。

豪華な邸宅も、世話役もすべて用意するという。



俺は、人を殺したただのおっさんだ。

目立つのは、生存戦略において非合理的だ。



邸宅の提案は丁重に断った。

だが、ずっしりと重い金貨の袋は受け取った。



さらにクラリスが、領主直々の命令で「聖者様の専属護衛」に任命されることになった。



館からの帰り道。

俺が少し離れた場所で待っていると、脳内にシエルの声が響いた。



『マスター. 館の裏手で、クラリスが上官と会話しています。翻訳して再生します』


直後、二人の会話が脳内に流れてきた。



『おいクラリス. あの聖者様は何としてもフェルデンに留めろ。身体を使ってでもだ』



『ふざけるな! hide様は低俗な欲に塗れた方ではない!』



『なんだと?』



『私が一糸纏わぬ姿で抱きついても、決して手を出さず、優しく肌掛けをかけて諭してくださる高潔な聖者様だ!』


俺は頭を抱えた。

ただ恥ずかしくて、普通に常識的な対応をしただけだ。


しかも、裸で抱きついてきたことを堂々と上司にバラしている。



ズレてる。

俺の行動が、すべて「高潔な聖者」の証として彼女の脳内で変換されている。



   * * *



クラリスの小さな家に戻った。

俺は、テーブルの上に報酬の金貨袋を置いた。



「クラリス. 金も入ったし、一人で家を借りようと思う」


いつまでも居候するわけにはいかない。

俺の合理的な提案だった。



ガシャン.

クラリスが、お茶のカップを落とした。



「……私といるのが、嫌になったのですか?」


振り返った彼女の瞳から、光が消えていた。

暗く、重い目だ。



「私が何か、粗相を? お気に召さないことがあったのなら、命にかけて償いを……っ」



「違う. 迷惑をかけられないからだ」


必死に弁明する俺の前で、彼女は即座に首を横に振った。



「私からhide様を奪う者がいるなら……それが誰であろうと、斬ります」


目が完全にイッている。



『――マスター』


シエルが、深いため息まじりに話しかけてきた.



『クラリスの信仰度がカンストしているのに、事あるごとに上限値にアタックして、システムにエラーが出続けています. ……いい加減、優しく対応するのをやめてはどうですか?』


優しくしているつもりはない。

ただの普通のおっさんの対応が、全部裏目に出ているだけだ。



『……私が、彼女の面倒を見ましょう』


防衛担当のバルタザールだった。



『彼女の過剰な信仰心を、防衛プロトコルとして最適化します』


バルタザールの声は、冷徹な合理性を孕んでいた。

彼女は、目の前で暗い目をしているクラリスの脳内へ、直接『神託』を下した。



『――聞こえますか、気高き騎士よ. 私はバルタザール. マスターを護る慈愛の防壁です』


クラリスが、無意識にその場に膝をついた。



『マスターは優しい方です. 自ら手を汚すことを忌避されています. ……彼の手を汚させぬよう、あなたが剣で道を切り開きなさい』



『私が背後から、あなたの命を守ります. 私の盾を、あなたに授けましょう』



「私に……女神様のお力を?」



『愛するマスターを護り抜く覚悟はありますか?』



「――あります!!」


クラリスが、床に額を擦り付けて叫んだ。



「この命を懸けて! hide様の剣となり、盾となります!」



『……契約成立です. これより、あなたを私のエージェントとして認定します』


ピコンッ.

俺の視界の隅で、ウィンドウが展開された。



『通知:対象クラリスが、バルタザールの【エージェント】として覚醒しました』


ステータスを確認する。



================

【Agent Status】

・クラリス(担当:バルタザール)

[好意/信仰度]: ∞(無限大)

================



「……おいシエル. 無限ってなんだよ」



『バッファオーバーフローを防ぐため、データ型の上限を撤廃しました. いっそ無限大として再定義した方が、システムは安定します』


メルキオールが、さも当然のように平然と答える。

お前ら、本当に容赦ないな。



俺の安全は、これ以上ないほど強固に保障された。


だが同時に。

俺の平穏な一人暮らしの夢は、この『∞』の文字と共に完全に断たれることになった。



[System.Audit_Log: 011]

対象:マスター(hide)

状況:安定。対象クラリスの暴走による過度なストレスを検知。マギ・システム稼働状況:サブ人格『BALTHASAR』が対象をエージェントに認定。


所見:

対象の信仰度を「Infinity(無限大)」に再定義。マスターへの過剰な防衛プロトコルが稼働開始。

[Warning: Unrecognized_String_Detected: '逃げ出そうなんて甘い考えを捨てるかしらね']


※引き続き、システム深層からの監視プロセスを継続。

[Status: Observing]

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