はじめての深層!
ニンジンと融合しているのだろう馬のモンスターは、一瞬で視界から消えていった。あまりにも早過ぎて一瞬しか見えなかったけど、確かにあのタテガミはニンジンの葉っぱだった。
馬のモンスターがいるのはてっきり平原のほうだと思ってたけど、こっちの草原にもいたんだ。ということは少なくとも馬は複数種類モンスターとしているんだろうか……?
気にはなったけれど、さすがにあのスピードに追いついて観察することは不可能なので、今度見かけるときは止まってくれていることを祈って先に進もう。
「ここから先が深層……」
前にアプリコッティガーがいた場所を無事に通り過ぎ、大壁を抜けてすぐのことだった。左右に生垣のようなものが広がっている。
枯れ果てた草原なので、当然のことながら生垣は茶色く枯れてしまっているけど……いや、もしかしてこれって生垣じゃ、ない? あれ、見たことあるようなないような。
「あんまり見たことないから分からないな……痕跡はっと」
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◯探索地【枯れ果てた草原】深層痕跡収集ログ
枯れた茶畑が一定間隔で並び、かつて耕作されていた区画であると推測される。土壌には微弱ながら養分の残留が確認されており、条件次第で再利用が可能だと思われる。
周辺では、茶葉を取り込んだモンスターの行動が確認されており、これらの個体は当該区域を縄張りとして認識している可能性が存在する。
――――――
「なるほど、お茶畑か〜」
実際には見たことのないものだからピンと来なかった。
というかお茶畑って表層にもあったよね? すっかり忘れていた。毎回生垣に見えてしまう。
お茶畑って香りもするんだろうか……なんて思ったけど、お茶っぽい匂いかどうかはよく分からない。青々とした匂いはするけど、それは植物はみんなそうだろうし……加工食品やフルーツほど分かりやすく判別できるわけじゃない。
畑の中を進んでいると、ふっと光るものを見かけて視線で追いかけた。どうやら光で反射していたのはミズバチのお腹の透明な袋の部分だったらしい。
ミズバチがいるということは、どこかにまともな水辺があるんじゃないだろうか? そう思って追いかけてみるとそこにはちゃんと池のようなものが広がっていた。
「カメ……」
池のほとりには、甲羅が窪んで釜のようになっているカメが、のんびりとその甲羅を干していた。陸に上がってはいるものの、よく見れば釜の中には緑色の液体が溜まっているのが分かる。沈殿してそうだけど……もしかして緑茶だったり?
お茶か……いいな……と思ったけど、コフィジョンが仲間になったばかりで、同じように飲み物系のモンスターが居ついたら縄張り争いとか、起きてしまうんだろうか? と懸念する。
……考えても仕方ないか。
しばらくお茶畑の中を歩いていると、今度は鹿のツノのようなものを生やした馬……? ま、まさか馬鹿……なんて言わないよね?
背中にお茶の葉っぱが茂っているみたいなので、この子もお茶と馬? 鹿? の融合モンスターだろう。
カメも馬? も、両方ともお茶を起源にしたモンスターだろうけど、問題なく同じく敷地内で共存しているらしい。
そういえば、まだガーデンの外で激しい縄張り争いをしているような場面にはあったことがない気がする。ガーデンでも特にないけども。
そのうち縄張り争いするようなモンスターも出てくるんじゃないかと予想しているけど、まだ見かけないということは序盤はさすがに出ないんだろうか?
「……っと、今日はもう少し探索したいから歩かないとね」
深層に来てから知らないモンスターばかりに会っているため、ついつい足を止めてしまいそうになる。軽いラフスケッチをするだけにしてその場を離れてまた歩きだした。
そしてお茶畑を抜けてすぐに……私は驚きの声をあげた。
奥の木々の間からなんか大きいのが見えるなと思っていたけれど、なんとでっかいゾウだったのだ。ゾウ特有の鼻はそのままに、その大きな耳が食パンのようになっている。けれど、見るからに食パン部分は乾いてパサパサしていそうだった。
枯れ果てた草原に、加工食品の食パンゾウがいるのはさすがに予想外だった。
深層に入った途端会うことになるだろうなんて思っていたキリンにもまだ会っていないのにね。
ゾウは私たちに気がつくと鼻を高く上げてゆらゆらと振った。あ、挨拶してくれてる!? 腐食モンスターで苦しい暮らしをしているだろうに、なんていい子なんだろう!!
私も手を振りかえしてあげてから、よければと思ってアイテムの水をあげてみることにした。アイテムのペットボトルの蓋を開けて、一度私が飲んでみせる。それから、蓋を開けたままじりじりと近づいていく。
ワルフルやバタベアを護衛にしながらすぐ近くまで来て、ペットボトルを差し出してみる。すると、ゾウは鼻先でくるくるっと水の入ったペットボトルを受け取ると、器用に口元付近に持って行ってその中身を飲んだ。お上手! 賢い!
ペットボトルだけ返してくれたので、受け取ってちょっとだけ鼻先を撫でさせてもらう。おお、ざらざらしてる……。
仲良くなったゾウのこともスケッチさせてもらう。途中なにしてるのかを気にしているようだったので、絵を見せてあげたら大袈裟に鼻を上げて喜ぶような素振りをしながら私の頭をわしゃわしゃ〜! と撫でてきた。
ものすごく友好的なモンスターだ。朝ごはんは白米派からパン派に鞍替えしちゃおうかな、なんて思えてきたくらいだ。
「ばいばーい」
しばらく遊んだあとに別れて探索を再開する。
オリウルにお願いして頭上をよく見て探してもらっていると、少し先にキリンっぽい首の長いシルエットがあることを発見してくれた。
さっそくキリンをひと目見に行こうとオリウルの案内に従って歩き出していくと……唐突にそれは見えた。
ガーデン。
いや、ガーデンにしては荒れ地がそのまますぎる。それに、探索中に人様のガーデンに直接入ることはできない。遠景で見えるだけのはずだ。
……なのになぜ、目の前に初期のガーデンとそっくりな場所があるのか。
「放棄されたガーデンでしょう。通常、探索中に確認されることは稀です」
「レアイベントってやつ……?」
そう言いながらも、私は目が離せなかった。
だって、そこに人影があったから。
ガーデンの奥。プレイヤーがワープゲートとして使用している場所の前で、じっと立っている影がある。
その人影は動かない。こちらを振り向きもしない。
ただずっとワープゲートに向かって見つめて立っている。いや、待ち続けている誰か。
「シーちゃん……?」
古ぼけた、放棄されたガーデンで決して来ないガーデンテイマーを待ち続ける、そんな『C』の姿がそこにあった。
レアイベント?
探索に出てる際に出くわすレアイベント。
探索率には影響しない。




