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腐食世界のガーデンテイマー  作者: 時雨オオカミ
『草原の王蛇は微睡みの中で希望を抱くか?』

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エコスフィア


 機械は近未来的な格好良さがある。

 モニターがたくさんある部屋の一部みたいになっていて、円筒形で、再起動後はゲーミングカラーに光って移り変わっていく。あんまり機械については詳しくないので、はえ〜かっこいい〜くらいの感想しか抱けないんだけどね。

 この地下だけやたらと未来的な作りになっているので、いよいよSF感が強くなってきたように思う。

 各地にこれがあるのだとすると……えっと、探索地につき二つ? なのかな。表層探索率100%で一つ目の発見ということは、深層のほうにも多分あるんだろう。なんか一段階目のキーとか言ってたし。


 うーん、し、調べたい。すごく調べたい。


「シーちゃん、触っても大丈夫かな? 壊さない?」

「その程度で壊れることはありませんよ」

「そっか、それなら……」


 その表面を撫でてみる。

 機械の横になにか書かれていないか? とか、どんな機構になっているんだろう? という好奇心のままに。

 シーちゃんがこれの扱いかたを知っている……という事実はかなり気になるけれど、尋ねても教えてくれないだろうしなあ。


 機械に触れながら、少しずつ表面の良く分からない機構を舐めるように視線で追う。そうしている間に、なんとはなしに彼女に質問を投げかけた。答えが返ってくることはないと知りつつ。


「シーちゃんはどうしてパスキー? を知っていたのか教えてもらえたりするの?」

「これを動かすことが、『C(シー)』の役割のひとつですので」

「……そっか、それじゃあ仕方な…………うん?」


 あれ、今普通に教えてくれた? 


「この機械ってどんなものなの? 機密事項で教えてくれないとかではないんだ」

「不要な情報でなければ質問にはお答えしますよ。この機械は、基準通りに自然環境や生態圏を保持するための装置です。かつての人類は環境汚染を恐れ、こうして全てを自らの手で管理することにしたのですよ。現在は故障して、各地でスリープモードとなっています」

「でも結局それも上手くいかなかったと……」


 しかも、故障もしている。

 結局のところ、自ら管理下においたところで環境汚染が深刻で滅びかけ、人類はお空の上に逃亡して残された生き物たちは汚染された環境で適応できるように進化していった……とか、そんな感じだろうか。

 いや、でも図鑑情報に『設計された』とかなんとかそういう言葉もあったんだよなあ。なんなら動物と食べ物の融合も人類設計の可能性すらあるのか。

 うわ……私たち……罪深くね……? 

 よくシーちゃんは許してくれてるな。ずっとガーデンテイマーが現れるのを待っていたって言っていたし、それでも帰ってきてくれるのを健気に待っていたとも取れるわけで……あれ、でもそれだとシーちゃんって、本当になんなんだ? 


 AI秘書……のようなもののはずだし、ガーデンテイマーという職についたプレイヤーたちにイチから仕事を教えてくれる存在だ。チュートリアルとかをやってくれるってことは、職を持った私たちのために派遣されてきたと考えるのが普通のはずだけど、でもそれだとおかしい。

 だってまるでずっと地上で待っていたような言動をして……いや、どうなんだろう。パスキーを知っているのだって、かつて地上にいたときの管理者側の偉い人が代々受け継いでて、設計したAIに搭載して現場に行くプレイヤーに投げているだけの可能性もあるし。


 上の空になりかけながらも機械を観察していると、下のほうになにか書かれているのが見えて指でなぞる。

 埃を払って、掠れて読みにくい文字を目で追っていく。



 S――

 Ecosphere



 下の言葉はかろうじて判別できるけど、上のSからはじまるほうは掠れて読めなくなっている。Sから始まる言葉……シーちゃんの話を聞く限り、セーブ……SAVEとかかな。

 掠れている以上、完全な意味とかは読み取れないけれど、下の言葉を調べれば多少は意味が分かるかもしれない。


 えこ……エコスフィア? 

 あんまり聞き慣れない言葉だ。手元のメニューからwebに繋いで軽く検索してみると、餌やりや水換えが不要な、ガラス容器の中の小さな生態圏。数年持つ小さな地球……みたいなもののことらしい。

 生態学的には生物圏とほぼ同義語。天文学的には『生物居住可能領域』のこと。

 なるほどね? つまりその生態圏を保持するための装置ですよ〜って説明か、もしくはそのまま機械の名称として書いてあったのかな? シーちゃんの説明とも矛盾しないし、本当にこれはそういう機械なんだろう。


 他には特に気になるところは見つからなかった。


「エコスフィア……」

「はい」


 口の中で名称を転がして覚えてから彼女の隣に戻る。


「これ以上は調べられなさそうだし、上に戻るね。これ以上地下の深層ってまだ行けない、かな?」

「はい、第二段階のキーをもう片方の機械に入力しない限り、地下には侵入できないでしょう」

「分かった」


 つまりはまあ、ボス戦は避けては通れないということだよね。

 ということで、私は飽きて寝ちゃっているワルフルたちを起こしてまわって地下をあとにした。


 これから、いよいよ大壁のほうへ行く。

 きっとワルフルの群れならなんとかなる……と思いたいけど、用心はしていかないと。


 以前見て、追いかけられて、恐怖を覚えたあの杏のトラに自ら会いに行くのだ。まだちょっと怖いけど、私はこの子たちを信じる! 回避はきっとバタベアがなんとかしてくれる! だから大丈夫!! 


 自己暗示しながら屋敷の外に出ると、ずっと暗い場所にいたからか視界が眩しくなる。一瞬目を瞑って、頭上を見上げると草原は夕方になりつつあるようだった。

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