食べられる平原
気を取り直して、平原の探索である。
地面が文字通りにウエハースだったところで、踏んで歩く場所に変わりはない。食べられるものだから罪悪感はちょっとあるけど、ここは探索地。歩き回らないと始まらない。ワルフルはパリパリ当たり前のように地面を食べているけど、随分と慣れているな?
私が歩き出すと、さすがに気が付いたらしい。歩きづらいよ~っていうくらい足元にまとわりついてきながら尻尾を振っている。ブンブンだ。なんだかいつもより足取りすら軽快な気がする。
「ご機嫌だね?」
「わふ~!」
不思議に思いつつ探索を開始してすぐ、その理由が判明した。
なんと野生のワルフルの群れが! いるではないですか!
うちの子は群れを見ても堂々として通り過ぎた。むこうのワルフルたちも、警戒はしているみたいだったけどあまり近づかなければ襲ってきたりはしないみたいだ。近づくと容赦はなさそうだけど。それはうちの子たちもそうだからね。防衛モンスターだからだろう。
野生のワルフルがいる、ということは……!
図鑑を確認すると、ずっと謎になっていたワルフルの生息地が開いて『バキベキウエハースの平原』になっている。こんな感じで探索地が解放されると、生息地不明だった子たちの図鑑も完成していくんだろう。
ワルフルの群れの近くにある岩を眺めてみると、ワルフルたちが順番にかじって背比べかマーキングのような行為をしているのが見えた。なんか、柔らかそうにも見えるからクッキー? それともマフィンみたいな感じ? ともかく、あの岩も食べられるものでできているんだろう。
そっと離れて他のモンスターを観察する。
平原の中にもパキパキに枯れた樹木があるのだが、その上にハトらしき姿がある。普通のハトと違うのは、その体色が黒いところだろうか? 尾羽の辺りに茶色っぽい房のようなものが揺れているが、近くで見てみないとなんとも言えない。麦? いや、違う気がする。
私が悩んでいると、ハトが突然こちらに向かって飛んできた。
「わっ!?」
そして目の前を通り過ぎて、また別の樹木に着地する。
目の前を通ったときにふわっと香ったのは確かにコーヒーの香りだった気がする。
「わ、わざわざアピールしにきた……?」
いや、そんなまさかね。
他にも、すでに住民になっているミルックマが野生でのっしのっしと歩いていたり、ローラビットがころころと転がっていたりした。地面を掘って隠れたりしているみたいだけれど、捕食者たちに対しては無力だ。尻尾の先がトウモロコシになったコヨーテみたいなモンスターに鼻で突き転がされて、あえなく捕食される場面を見てしまった。ウサギがロールケーキに化ける瞬間は『死』を感じさせにくいけど、それでもなんとも言えない気持ちになる。
ローラビットは、安全な柵のあるガーデンを安住の地としてくれているのだろうか? そう考えると、捕食者を誘引してくる特性も、生まれつきのどうしようもないものを抱えているように思えて……なら、うちで静かに安全に暮らしてね、という気持ちになった。野生で生きるローラビットたちはあまりにも生きづらそうだ。
それから平原をゆっくり歩いていると、大型の草食動物の姿もチラホラ見られるようになってきた。私はそれに思わずテンションをあげてしまう。さっきまでちょっとしんみりしていたのに、我ながらチョロすぎる。
「あ、シマウマ!」
シマウマの群れに、すごく大きなウマとポニーらしきモンスター。
シマウマのほうはタテガミや尻尾に緑色の植物らしきものが揺れているけれど、なんの植物なのかが分からない。さすがに私も植物を見てすぐさま特定できるほどの知識はないからなあ。
ただ、体の大きなウマのほうはタテガミと尻尾に稲穂が生えていて、ポニーのほうはタテガミ部分が輪っかの形をしたプレッツェルになっていて可愛いらしい。タテガミを編み込みしているようにも見えて、尻尾にも連なっているものだからエクステでもつけているみたいでオシャレさんだ。
それから、探索しているとものすごい勢いでドッドッドッド! と地面をバキバキに割りながらダチョウが走り去っていくのが見えたりする。彼らが通り過ぎた道はめちゃめちゃ荒れているので分かりやすい。この平原のひび割れの原因の大半は乾燥よりもこれじゃない? と思ってしまうような地響きの鳴らしっぷりだった。
「この平原での主食は、もしかして大地そのものだったりする?」
ダチョウが通り過ぎた跡地に移動したモンスターたちが、仲良く割れて浮き上がった地面のカケラを分け合って食べている。その様子に種族の差は恐らくない。
「はい、枯れ果てた草原においてミルクが飲料として利用されていたように、この平原では大地そのものがモンスターたちにとっての食料資源となっているようです」
シーちゃんは自分の頬に手を添えて考えるようにしてから、そう答える。
「消費されても大地の底がつくことはなく、再生しているものと考えられます。この地のように、元の生態圏とは異なる変化をしている土地が多く存在します。環境の変化は不可逆ですが、浄化によって星の再生を進めることは可能ですので、ガーデンテイマーの皆様がたにはそのご協力をお願いしております」
「砂糖菓子とケーキの……みたいな場所とか、ソーダの海……とか、そういうところかな」
「はい」
「なるほどねぇ」
改めて実感する。
腐食世界というだけあって、ほとんどポストアポカリプスものだ。だけど、それはそれとして……シリアスなストーリー背景があったところで、私たちプレイヤーはただ楽しんでいればいいだけだ。ただ楽しんでいるだけで、この世界を救うことになっていくんだろうなあ。
シーちゃんも徐々におしゃべりになっていってくれている気がするし、こういう重要なことを自分から話してくれるようになったあたり、ガーデンテイマーとしての活躍を認めてくれている……ってことになるんだろうか? そうだったらいいな。
「クケーーーーー!」
そう思ってシーちゃんの小さなほっぺをムニムニしていたとき、遠くから絶叫のような声が聞こえて肩が跳ねた。びっくり、した~! なになになに!?
声のほうを見ると、クチバシの長い変な鳥……アニメで見たことあるな。ドードーってやつじゃないかなあれ!? ドーナツを首にネックレスのようにかけたドードーが爆走している。そして、なんと、こっちに向かってきてですね……!
「なんでー!?」
「バタベア、ガーデナーの安全を確保なさい」
「べあー!」
「へ!?」
ビビっていると、バタベアがひょいっと私を抱きかかえて走り出す。
い、今シーちゃん私を助けるためにうちの子に指示出した!? え!? なにそのデレ!
「し、シーちゃんがデレた~~~~~!」
叫びながら私はヨイショヨイショとガーデンまで運ばれていくのだった。
「……Cはあなたのサポートをする存在です。『C』が望むのは星の生態圏を再生し、再度人類が帰還し、管理すること。あなたを手助けするのは当然のことですよ」
耳元で呟く彼女に頬を寄せて、私は笑う。
随分とまあ、頼りにされてるね。SFチックにもなってきたからこのゲームのストーリーが楽しみだ。




