まだ見ぬ探索地たち……!
翌日。私は仕事を終えてからゲームの準備に入った。
料理はそこそこにフルダイブ。今からならガーデンの一日分くらいは進められるだろうか?
四日目になっているから、次の探索地の開放もあるんだよね。どんな探索地が待っているんだろう。楽しみだなあ~。
一瞬の浮遊感のようなものに包まれてガーデンにログインをする。
ベッドから体を起こしてみれば、目の前にリアルタイム日数のほうと、ガーデン日数のほうのログインボーナスがそれぞれ表示された。さらっと課金もしているので、ボーナスで手に入るものは地味に増えている。また、図鑑を書くことによる達成報酬のようなものもいくらか配られている。
こういうゲームはだいたい、いろんな行動をとることによって達成報酬が配られる形になっているけれど、このゲームも例外じゃない。たとえばモンスターと一日に何回触れ合ったとか、スコップを何回使ったとか、初めてガーデンの地形を変えるような行動……ショップにある、砂地を作る袋とかを初めて使ったとか、そういうので簡単に食券が手に入る。
まだゲームのサービスが始まったばかりだからというのもあるかもしれないけど、序盤はこの達成報酬を得る機会が多いからガチャもある程度やり放題だ。私はまだちょっと尻込みしてるけど……なんせ一番最初に引いたモンスターの卵がアレだからなあ。
でも、いつまでもビビっているわけにはいかないだろう。ある程度はやっておかないとな。
ただ、ビジュアルがすごい好みのモンスターが実装されたりしたときのために、ある程度食券を溜めておかないといけないけれど。
デイリーミッションも簡単なものばかりなので、遊んでいたら大体は達成できるものだ。あまり意識する必要はない。
さて、四日目はなにをしようかな。
「おはようございます、ユウ様」
「あ、おはよう。シーちゃん」
顎に手を添えてひたすら考え込んでいると、見かねたのかシーちゃんのほうから挨拶をしてくれた。
ソファに座ったままだが、こちらをまっすぐ見てくれている。
この秘書さんにもだいぶいろいろ手伝ってもらっていることだし、そろそろなにかお礼を受け取ってほしいんだけどな……まあ、三日間の挙動を見るに、無理なんだろうなあ。なにかフラグがいるんでしょう。
粛々と会話をして仲良くなれることを祈るしかないのかもしれない。
「昨日、探索地の開放があるって言ってたけど、どんなところ?」
ガーデンにでて作業をする前に尋ねてみる。すると、シーちゃんは自分の持つ本にトントン、と指を当てて開く。
すると、彼女が開いた本は飛び出す絵本のようにホログラム映像が浮かび上がった。
その映像は何度も切り換えられているが、大きく分けて二種類の場所に分けられる。
平原のような場所と、森のような場所だ。
「こちらの荒れた平原の名称を、我々は【バキベキウエハースの平原】と呼称しています。乾燥し、ひび割れ、荒廃した、枯れ果てた草原ともまた違った地域です」
なんだか愉快な名前だけど、その実態は笑えそうもない。
ひび割れたガラスや氷のように地面が裂け、カラカラに乾いている平原がどこまでも続いている。そこに生息するモンスターもいくらか映っているけど、そのうちのひとつにワルフルが映し出されていた。
ワルフルの生息地はずっと不明だったけど、ここがそうらしい。
「そして、こちらの森の名称を、我々は【糸引く森】と呼称しています。枯れ果てた草原や平原とは違い、こちらの森は水分が多く、腐食が特に進みやすい環境です。生息するモンスターたちも自然に存在する食品を起源とした個体が多いのが特徴的ですね」
ああ、糸引くってそういう……。
こっちはこっちでなんだか絵面がひどそうだ。
「どちらか一つを選ぶんだよね?」
「はい。どちらの探索地を開放するかをお選びになっていただきます。そして、選んだ探索地の付近に新たなガーデン予定地を押さえ、開拓していくことが可能です」
「そっかそっか」
予定通り、ガーデンは新しく増えてもしばらくは手を付けない方針にしておいて……探索地はどうしようかな。
なんて考えてみてるけど、本当は最初から心は決まっていた。平原にワルフルがいるのを見てからね! やっぱり図鑑はちゃんと完璧に完成させてしまっておきたい。初期配布の五匹は特にね。だから、まずはワルフルの生息地である平原からいこう!
ウーパイルーパーは多分森……でもなさそうな気がするし、来るのに三日かかるとするならもっと遠い場所だろうか。そっちもそのうち生息地が分かるようになるといいなあ。
「あとは……そうだな。ねえ、シーちゃん。全部の探索地の名前だけ教えてくれることってできたりしない? 今後、どんな場所が解放されるのかって、ワクワクして待ちたいんだ」
「……問題ございません。かしこまりました。名称と概要のみでよろしいですか?」
「え、いいの? やった! うん、それでいい」
ダメ元で聞いたんだけど、思いがけず先んじて情報を入手できることになった。
今はまだ関係ないけど、いずれ行けるようになるエリアの名前って知ってるだけでワクワクするものだ。
シーちゃんは一度ホログラムを投影している本を閉じて、もう一度指先でトントンと表紙を叩く。この動作はどこか魔法をかけているみたいに見えて、目を離せなかった。
魔法をかけて開いた本の上に、また映像が浮かび上がる。
「こちらの川辺のエリアを【酸っぱい川べり】。丘陵を【焦げついた丘陵】と呼称いたします。どちらも現在の探索地とは比べられものにならないほど強力なモンスターが生息していますので注意が必要です」
「たとえばどんなモンスター?」
「例を挙げるのでしたら、カバに、ライオンでしょうか」
「わあ……」
両方とも強いって分かる動物だった。でもメジャーな動物にはいっぱい会いたいな。ライオンもカバも格好いいし。
「次に、砂漠地帯となっている【シナビテ砂漠】。そして地表の多くのエリアを占めている【黒い塩とぬるいソーダの海】ですね」
「海! うん、名前がすごく嫌な感じだね」
「事実をそのまま呼称として採用しておりますので」
ソーダなのにぬるいのは海だからなのだろうか。イルカとかいるんだろうなあ。
「さらに、甘い雪に覆われた【砂糖菓子と放棄されたショートケーキの雪原】。そして人類の痕跡が多く残り、加工食品や料理系モンスターの楽園となっている【腐食した保管庫】があります」
「おお……雪がショートケーキのクリームみたいになってる場所なのかな」
「そうなりますね」
保管庫のほうはいかにもラストって感じの名前だけど……。
「最後に、非常に獰猛なモンスターが巣くっている【焼きすぎ火山】です。こちらは危険すぎますので、解放までの条件は少々厳しくなっておりますね」
「ラストだとそうだろうなあ」
だいたいの地形はあるってことがよく分かったし、図鑑100%までの道のりが果てしないのも突きつけられた気がする。それでもワクワクした。最後の火山まで辿り着く頃には、私はどんな子たちと出会って、どんな生態を見ることができるんだろうって!
「ユウ様、本日ははじめから探索地の開放が可能です。【バキベキウエハースの平原】と【糸引く森】ではどちらになさいますか?」
「平原にするよ」
「かしこまりました……ゲートの行先に【平原ガーデン】が追加されました。ご確認ください」
「ありがとう!」
ま、先にこっちのガーデンでまだまだやることはあるから、しばらく平原ガーデンの浄化はしないだろうけれど……それでもチュートリアルから一歩進んだ状態に、今私は歩み出したと言ってもいい。ようやくだ。ようやく!
「今日も一日頑張りますか」
「サポートいたします」
まずはガーデンの子たちに挨拶だ。
明るく「おはよう!」とみんなに声をかけながら小屋を飛び出した。
真っ先に駆け寄ってきてくれたワルフルの吠え声、オリウルたちの鳴き声、ワームースやバードッグが土を掘る音。たくさんの音に包まれながら私は今日やりたいことを頭の中で組み立てるのだった。
ここでだいたい一冊分くらいの区切りかなあ、の気持ち。




