はじめての鎮圧
「わあ……人がいる」
恐る恐る探索に出てみると、やはり人がたくさんいるのが見えた。みんなツナギを着ているけど、初期の三色以外の色の人もいるから、もしかして空中都市で装備の色替えとかもできるのかな?
「うう……」
周囲をキョロキョロと見回しながら、ゆっくりと枯れ果てた草原に歩み出す。
そこかしこにガーデンで見たアスパラガスのスズメとか大根の狐とかもいるので、できるだけ人じゃなくて、モンスターの子たちを眺めながら探索しよう! そうしよう!
「ワルフル、バタベア、護衛よろしく」
「わふ!」
「べあ〜」
ピッタリと私の横にくっついているワルフルは、一番最初の相棒の子だ。中型犬サイズなので、ちょっと屈んで頭を撫でてあげれば、もっちりとした触感が気持ちいい。
バタベアもにっこり笑顔になって私に頬を擦り寄せてくれた。おっきいお顔だ。可愛いね。
オリウルは頭上で旋回していたけれど、そんな私たちの様子が気になったのかバタベアの肩まで降りてきて「ホウ」と声をかけてくる。構ってほしいらしい。可愛いね。
顎? の下をくりくりと指先でつついて撫でると、クチバシを開閉しながら気持ちよさそうに目を細めた。か、可愛いね!!
「お、バタベアだ」
「わあ、ほんと」
「あの噂って本当なのかな〜」
「よくある名前だし……」
聞こえてきた言葉が気になって目を向けると、私を見ていたらしい人たちが慌てて目を逸らす。
うう、こういうのが嫌だから引きこもっていたいんだよなあ。
私は万が一にも話しかけられたくないので、そそくさとその場を立ち去った。
ミルクの池で採取したり、荒れた畑で枯れている野菜の採取をしたり、サンプルに濁った川の水らしきものを採取したりと、本来の目的からどんどん逸れながら、ひたすら採取ポイント巡りをしていく。
目的地がふんわりあっても、こうして道中で光っているものは全部回収していかないと納得できない病が出てきちゃうから難儀な性格をしていると思う。でもみんなやるよね? これ。
探索率のほうも何度か廃墟の中を調べたり、壁やら柵やらの痕跡を発見して進めていく。
「あ、水車小屋?」
水車小屋らしきものを発見して痕跡を集めたところで、肩にしがみついているミニマムシーちゃんが顔を上げた。
「探索率が50%になりました。おめでとうございます」
「もう50%なんだ」
――――――
◯探索地【枯れ果てた草原】痕跡50%収集ログ
本地域は、酪農施設や発電設備、農業区画を内包した生産型市街地であった可能性が高い。
家畜飼育を目的とした構造物跡や、配管・基礎設備の痕跡が複数確認されている。耕作区画と推測される地形も広範囲に残存しており、農業活動が盛んであったことが示唆される。
表層と外部を隔てる大壁は存在するものの、防衛設備としては脆弱であり、軍事的脅威を想定した構造とは考えにくい。敷地境界を示す区画構造物であった可能性が高い。
以上の点から、本地域は重大な外敵を前提としない平穏な生活圏であったと推測される。
しかし建造物の崩落状況および土壌腐食の進行度から判断するに、腐食は急速に拡大し、当時の生活基盤を短期間で破壊した可能性が高い。
かつて管理され、安定していた生産都市は、突発的な腐食により機能を喪失したと考えられる。
――――――
わあ、これ100%になったらどうなっちゃうんだろうな……。
そんなこんなで痕跡を集めつつ、シーちゃんの指示に従ってジャガイモの犬を探す。
前に見かけたときはここにいたと思うけど……と探索地の中央付近に足を踏み入れると、ちゃんとそこにいた。
ずんぐりむっくりとした、ジャガイモを思わせる胴体の犬だ。柴犬くらいだろうか?
ワルフルがスラッとした大型犬体型なのだが、この子たちはそれより小さくて丸っこい。
三匹ほどいた犬たちが私たちに気がつくと、すぐさま唸り声をあげてにじり寄ってきた。
「ワルフル、バタベア。あの犬をみんな鎮圧」
「わふー!」
「べあ!」
だけど今はオリウルだけのときとは違い、ちゃんと鎮圧できるモンスターが二匹もいる。だから大丈夫。
私はスコップを抱きしめながら、少し下がって様子を見る。
ワルフルがすぐに走り出してジャガイモの犬を一匹突進で突き飛ばした!
「きゅーん!」
転がされた犬はびっくりしたように悲鳴をあげて、そのまま逃げていく。
続いてバタベアが腕を横に振ると、これまた犬たちは今度は二匹とも転がされてびっくりしたように慌てて逃げていった。
数字は分からないが、体力バーはちゃんと表示されている。攻撃したからだろうか? ゼロになっている様子はないけど、半分くらい全員削れているように見える。半分一気に体力が削れたからびっくりして逃走した……みたいな感じだろうか?
「逃走でも鎮圧は鎮圧です。おめでとうございます、はじめての鎮圧は見事に成し遂げられましたね」
「あ、いいんだ。意外とあっけなかったね」
スコップで立ち向かう場合は死ぬんだろうけど、モンスターたちがついているとこんなにも心強いもんなんだなあ。
チュートリアルだからというのもあるだろうか? 回避も必要ないくらいだったし、案外バトルシステムは簡単なのかも! この調子でずっと簡単だったらいいんだけどね!
……そうはいかないんだろうなあ。
「それでは、他に特に用がなければ帰還しましょう」
「はーい」
人を避けつつ探索地を引き返し、ガーデンに戻ってくる。
そして待っているシーちゃんに「ただいま」と声をかけようとしたときだった。
「ガウガウ!」
「えっ、わっ!?」
ガーデンに入る直前、いつのまにか跡をつけていたらしいジャガイモの犬が私を襲ってきた。
ガーデン内に逃げて後ろを振り返る。犬はまだ追ってくる。
今まで来訪すらしてこなかったのになんで!?
「わ、ワルフル助けて!」
「わふーん!」
勇ましくワルフルが犬をド突いて、ゴロゴロと回転しながら犬が転がっていく。
「きゅーん」
目を回したようにその場でくるくる、ぴよぴよと回るヒヨコのエフェクトをまとっていた犬は、その状態から立ち直るとなぜかハッ! とした顔でワルフルに近づいてきた。
そしてワルフルの目の前で卵に変化し、テンカウントが始まる。
「え!?」
カウントがあけて卵が割れると、そこにはずんぐりむっくりな腐食していないジャガイモの犬がいたのだった。
じゅ、住民化してるー!? なんで!?
慌てて図鑑を確認してみる。
――――――
No.028
名称【ジャガイヌ】
・ 分類:野菜
・ 原型食物:ジャガイモ
・ 原型生物:イヌ
・ 危険度:D
・ レア度:R
・ 大きさ:2タイル(1×2)
・ 生息地域:枯れ果てた草原
・ 好物:???
・ 来訪条件:
鎮圧を成功させたことがある。
所属するジャガイヌが5頭に達していない。
・ 住民化条件:
ガーデンに畑がある。
訪問した際、敵対行動中に鎮圧する。
・ 汚染タイル数: 陸上2
・ 能力:
敵対行動をしている対象の鎮圧を試みる。
成功率はランク差で左右される。(同ランク90%。ランク差が1開くごとに30%低下)
畑で育成するジャガイモの生産数がジャガイヌの数だけプラスされる。
・ 備考:
所属するジャガイヌが5頭に達していると、群れボーナスで同ランク鎮圧が100%。ランク差が開くごとに20%低下。
探索中のドロップ品、採取品が2〜5増加する。
・ 公式生態観察: 敵対行動中の対象を優先的に鎮圧する戦闘補助型モンスター。
群れを形成することで鎮圧成功率が向上し、探索効率が大きく改善される。
同時に畑で育成される作物の収量にも影響を与える。
愛玩性の高い外見とは裏腹に、運用は戦略的判断を要する。
――――――
ち、鎮圧がきっかけになって住民化する子もいるんだ……なるほどね。
それから、予想はしてたけどジャガイヌも戦闘ができる子みたい。この子も群れで住民になってくれるみたいだし、ワルフルたちと交代で防衛ができそうで助かる〜!
「よろしくね」
「ガウ!」
先輩後輩よろしくワルフルにくっついているジャガイヌに手を伸ばすと、手を噛まれた。
赤いエフェクトが散って、【30秒間、手で使用するアイテム使用禁止】の文字が目の前に躍り出る。
「!?」
「ジャガイヌは友好的な個体同士で体をかじり合う習性がございます。ご注意ください」
「先に言って!」
「言う前にお手を出しておられましたので」
そうだね! 私が悪いね!
ワルフルがその場にジャガイヌを引き倒して上下関係を刻んでいるかたわら、私は傷の判定なんてあるんだ……と赤いエフェクトだらけになった手を見つめて悲しくなるのだった。
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