ミルックマ、カイワソ
バタベアの近くをうろついている、もう一頭のクマ。
最初に見たときから、なんとなく引っかかっていた。
体格はほぼ同じ。でも、漂う雰囲気は少し違った。
バタベアはおっとりとした力持ちだけど、こっちの子はなんというか……バタベアにやけにくっついてくるなあ。
腐食モンスターのはずなんだけど、うちの子についてまわっている気がする。もしかして腐食モンスター時代から仲がいいとか? うーん。
「……観察、してみようか」
防衛はオフのまま、距離を取って様子を見る。
ワルフルたちも警戒はしているが飛びかかったりはしない。
バタベアと関係があるなら……試しに、ミルクの瓶をひとつ置いてみようかな。
クマは少し首を傾げてから、近づいてきて、ごく自然な動作でミルクを飲んだ……飲んだだけだった。
「住民化、しないんだ」
そんなに簡単じゃないらしい。
バタベアが特別だっただけかもしれない。
クマを見つめながら図鑑を開く。
せめてなにかひとつでも条件が分かればいいんだけど。
――――――
No.019
名称【???】
・ 分類:???
・ 原型食物:???
・ 原型生物:クマ
・ 危険度:D
・ レア度:R
・ 大きさ:4タイル(2×2)
・ 生息地域:???
・ 好物:ミルク、???
・ 来訪条件:
20タイル分の汚染されていない草地がある。
ガーデンにバタベアがいる。
所属する??? が一頭もいない。
・ 住民化条件:
30タイル分の汚染されていない草地がある。
ガーデンにバタベアがいる。
???
・ 汚染タイル数: 陸上5
・ 能力:???
・ 備考:???
・ 生態観察: ???
――――――
おおう、No.19とな? 随分と番号が飛んだなあ。
でも、バタベアが関係あるのは間違いないらしい。
「ふむふむ」
……と、考えていたら視界の端で動く影を見つけたような気がして顔を上げる。
「え、増えた……?」
なんと、もう一頭見た目が違うクマがそこにいた。
「ま、またクマ!?」
よく見ると、三頭目のクマはガーデンの外側にいた。
耳元になにか実のようなものが付いているようだ。来訪すらもしていないけど、ここまで近くにいるということは、来訪条件を満たしそうで満たしてないってところかな。
クマの耳元に果実みたいなものがついているから、バタベアたちとはまた違った分類だろう。果実。樹木系か果物系かな?
「畑をもっと広げたら来るタイプかな。それとも、特定の樹木を育てるとか果物を食べるとか……そっちかな……それとも」
ぶつぶつと考え事を口にしながら、いったん思考を打ち切る。来訪すらしてこない子よりも、今は目の前のクマに集中したほうがいいからだ。
果物クマはともかく、ガーデン内にいる二頭だけでも、正直かなりの圧迫感だ。広いはずのガーデンが、急に狭く感じるようになった。
それに、クマというだけでやっぱりちょっと怖いよねって。
「……食べ物じゃないとすると、遊具かな」
バタベアが回転遊具を必要としていたことを思い出す。
メニューを開いて、ガーデンアイテムを確認する。
1タイルで置けるものなら、もうどんどん置いていっちゃおうかな? ガーデンの見た目は悪くなるけど、配置の仕方については後回しにしてとにかく手当たり次第出していく。
ミルク缶に空き瓶、食材保管庫をもう一個。鳥の水遊び台に、簡単な飾り物もいくつか。ポンポンと。
納品代とログインボーナス分のお金でギリギリ足りてるから、とりあえずこれでどうにかならなかったらそのときはまた稼げばいいかな。
配置して、少し離れて様子を見る。
クマはミルク缶に近づいた。
……そして。
いや待って、それ腐ったミルクじゃ!?
思わず声が出そうになるのを、必死にこらえた。
涙を飲んで見守る。
クマは動揺している私のことなんて気にせず、空のミルク缶にドロっとしたミルクを手から注いでいる。
あー! やめてください! 腐ったミルク缶になっちゃうー!!
しっかりと上まで腐ったミルクで満たしたクマは、満足そうに立ち止まり――卵に変化した。
テンカウントが始まる。
「……」
複雑な心境である。
カウントが終わり、殻が割れる。
現れたのは、頭からミルクをかぶったような真っ白なクマだった。
――――――
No.019
名称【ミルックマ】
・ 分類:乳製品
・ 原型食物:ミルク
・ 原型生物:クマ
・ 危険度:D
・ レア度:R
・ 大きさ:4タイル(2×2)
・ 生息地域:???
・ 好物:ミルク、???
・ 来訪条件:
20タイル分の汚染されていない草地がある。
ガーデンにバタベアがいる。
所属するミルックマが一頭もいない。
・ 住民化条件:
30タイル分の汚染されていない草地がある。
ガーデンにバタベアがいる。
ガーデンにミルク缶が設置されている。
・ 汚染タイル数: 陸上5
・ 能力:
一日に一回ミルク缶をミルクで満たす。
ハチミツを与えて回転遊具で遊ぶとハチミツミルクがひと瓶生成される。
・ 備考:
バタベアが引っ越した場合、ミルックマもガーデンから引っ越していく。
・ 生態観察:
バタベアとの共生関係が強い乳製品系クマ型モンスター。
ミルク缶への充填を主な行動とし、安定した乳資源供給に寄与する。
回転遊具と甘味資源を組み合わせることで派生飲料を生成する。
共生相手が離脱した場合、本個体も定着を維持できない。
単独運用よりも“セット運用”を前提に設計された個体である。
――――――
「本当にバタベアと仲良しなんだ」
「おめでとうございます。ミルックマの住民化に成功しましたね」
シーちゃんの言葉を聞きながら、心配になったのでミルク缶に近づく。ミルク缶を確認すると、さっきまでは確かに腐ったミルクだったはずなのに、中身は新鮮なミルクに変化していた。
……あ、これ採取できるようになってる!
空になったミルク缶には「あと0回」の表示。
「一日待ち?」
なるほど、このでっかいミルク缶は生産施設でもあったわけだ。当てずっぽうだったけど、上手くいってよかった。
「よろしくね」
「みる〜」
ミルックマはバタベアにくっついてすりすりしながら、私に頭を下げた。
外にいたもう一頭の子は……もういなくなっちゃったみたいだね。あの子はまだ来訪すらしてこないみたいだから保留。
ひと息ついて畑のほうへ戻る。
――そこで、私は硬直した。
確かにいっぱい畑に種を蒔いた。
だけど、耕しすぎてまだ空いた畝が多く残っていたはず……なんだけど。
「……どなたさま?」
種を蒔いていないはずの畝からひょこっと顔を出したのは、小さくて、丸くて、やたら愛嬌のあるカワウソだった。
「きゅ?」
カワウソが地面の下から這い出してくる。尻尾の先が、
カイワレダイコンの束になっていて、ふさふさとゆれている。ただし、その尻尾の先は茶色くなって枯れていたけど……。
理解する間もなく、そのカワウソはあっさり卵に変化した。
テンカウントがあって、孵化して出てくる。
――――――
No.022
名称【カイワソ】
・ 分類:野菜
・ 原型食物:カイワレダイコン
・ 原型生物:カワウソ
・ 危険度:Ⅰ
・ レア度:R
・ 大きさ:2タイル(1×2)
・ 生息地域:???
・ 好物:???
・ 来訪条件:
所属するカイワソが二匹に達していない。
ガーデンに畑がある。
・ 住民化条件:
50タイル分の表層浄化された土壌がある。
ガーデンの畑に空きがある。
・ 汚染タイル数: 陸上3
・ 能力:
カイワソが畑に埋まっていると、同列の土壌が1時間で1タイル分の深層浄化が進行する。
深層浄化が終了すると、隣接するタイルのいずれかにランダムで浄化が伝播する。
伝播した浄化能力は一時間に一層ずつの浄化として適用される。(中間層一時間→深層一時間)
・ 備考:
表層が整えられている土地に放つと、中間層から深層まで土壌浄化を進行させられる。
畑に埋まっていない時間は適用されない。
浄化進行中に畑から出ると経過時間がリセットされる。(浄化開始から30分で外に出るとまた最初からやり直し)
・ 生態観察:
畑区画に定着し、土壌深層へ干渉する浄化系モンスター。
畝に埋没している間のみ、同列タイルの深層浄化を段階的に進行させる。
深層浄化の完了後、浄化は隣接タイルへ伝播し、中間層→深層の順で適用される。
進行中に畑外へ出ると蓄積がリセットされるため、配置と運用手順が重要となる。
表層が整備された土地ほど効果を発揮し、畑を起点とした中〜深層の回復に適する。
「……カイワソかあ、可愛いな」
「おめでとうございます、カイワソの住民化に成功しましたね」
キョロキョロと辺りを見回しつつ、カイワソは空いている畝に出たり入ったりしながら楽しそうに遊んでいる。癒し系だ〜。
「……びっくりしたけど、いっか」
クマで緊張していた分、一気に力が抜けた気がする。
ガーデンには、バタベア、ミルックマ、そして畑から生えたカイワソの新たな住民が増えて随分と賑やかになった。
「図鑑書くのも楽しみだな〜」
三日目にして一気にいろいろと道がひらけた気がする。
さて、次はどうしようかな? シーちゃんに聞いてみよう。




