白濁したミルクの池
「おあ〜、スタミナ制度はあるっぽいなこれ……」
ある程度逃走していると、スピードがガクンと落ちた。どうやら見えないだけでスタミナの概念がしっかりあるらしい。モンスターからの攻撃を避ける必要があるときとかも、あんまり無茶はできないかもしれない。
「確かにこれは……オリウルがいなかったら、死んでたかも」
以前、空中都市で聞こえてきた会話がよみがえる。
探索に出て即死だったなどという、なんでそんなことに!? という話も、今のを体験すると納得できてしまった。
つまり、全てはモンスターを護衛に連れていることが前提の難易度になっているということだろう。
モンスターをいかに集めて役割分担をするかも大事なのかもしれない。
そうして逃走してきた先で、私は足を止めた。
岩場に手をつき、キラキラと光るなにかを目を向ける。
枯れ果てた草原の中で、唯一乾いていないもの。
けれど、乾いていないことがかえって悲惨なもの。
「……うわあ」
白濁とした池がそこにあった。
いや、推測しよう。あれは、腐ったミルクの池だ。間違いない。
水面はどろりとしていて、表面に薄い膜が張っている。
色は白だけど、濁って黄色みがかっている。
見るだけで気分が悪くなりそうな場所だった。
……あんまりいろいろと考えるともっと気持ち悪くなりそうなので、私は思考を逸らす。
いや、本当に匂いの再現がなくてよかった。
ひどい世界だ。ポストアポカリプスの一種と言えるだろうか。終末世界の悲惨さがこの池だけで強く伝わってきた。
そう実感した、そのとき。オリウルが低く鳴いた。
同時に、モンスター通知が視界の端に映る。
私は反射的に近くの岩場へと身を寄せた。身を隠して視線を池に戻す。
そこに現れたのは――
「……あの子だ」
何度もガーデンに現れ、住民化条件がどうしても分からなかった……例のクマだった。
溶け落ちたような体。重たそうな足取り。
観察していると、クマは迷いなくミルクの池へ近づき―そのまま、飲み始めた。
息を飲み込む。
思わず叫ぶところだった。だって腐った牛乳……絶対体に悪いだろうに。
そこまで考えて、はたと気がついた。
この草原、今のところここ以外の水源らしきものを見かけていないのではないか?
「……」
衝撃だった。
もしかして、みんなこのやばい池で水分をとって……?
口元を押さえる。
もうみんなうちにおいで!!
ガーデンテイマーやってるプレイヤー総出で引き取らなくちゃ……! 熱い使命感が燃え上がった。
しばらく見ていると、クマはごくごくと当たり前のようにミルクを飲んで喉を潤わせると、その場を立ち去っていった。
クマがいなくなったことを十分に確認してから、私も池に近づいてみる。
匂いは普通のミルクの香りがうっすらと漂っているだけだ。腐った匂いなどはしない。でも、それがかえって不気味に見える。見た目と匂いがチグハグだからか、うっすらとした不快さを感じる。
これは……やめちゃう人がいるのも仕方ないだろうなあ。
こういうのって苦手な人はどうしても苦手だろうし。
「ふう……」
ただ、ここにきたことであのクマがどんなモチーフなのかをなんとなく理解した。ミルクが関わるのだろう。
そして、シーちゃんがワルフルたちにあげてもまだ余るほどのミルクをログボとしてくれた意味も。
「調べないとだね」
意を決して私は白濁したミルクの池を調べる。
【腐ったミルクを入手しました】
うわあ。
それから、周辺を調べつつ痕跡集めにも精を出す。
木の柵や厩舎のような建物の名残り……機械らしきものの残骸……なんか見たことあるなあ、これ。主に牧場経営系のゲームで。ミルカーみたいなやつ……?
「もしかしてここって」
まさか、昔は酪農場だったとか言わないよね。




