王太子妃は転生先で夏の暑さと戦う(風鈴)
「第7回小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。
【キーワード 風鈴】
暑いっ! 私は蒸し暑さに目が覚めた。隣を見ると夫たる王太子はもういない。仕事熱心だから早めに視察に出たのだろう。
しかしこの暑さは異常だ。転移してきたこの世界は言わば魔法文明。魔法で城全体を冷やすからこんなことになるはずはないのだけれど。
「王太子妃殿下」
あ、侍女が来た。
「どうしたの?」
「魔導士のマリア様が体調を崩されて冷却魔法が使えなくなりました」
「え? |真理亜《マリア》が? 大丈夫なの?」
「自室で休んでおられます。騎士のダン様がご自身で希望されて看護にあたっておられます」
「分かりました。すぐに行ってみます」
真理亜も弾も一緒にこの世界に転移してくる前からの友人だ。大事ないといいけど。
部屋に入ると、真理亜は真っ赤な顔をして、大量の汗を流して臥せっていた。脇には心配そうな顔をした弾が寄り添っているけど、やっぱり真っ赤な顔をして大量の汗を流している。
私にはすぐ分かった。これは病気による体調不良ではない。
「二人ともその分厚いローブと鎧を脱ぎなさい。夏にそんな格好していてどうすんの?」
「いやっ!」
真理亜は即座に拒絶。
「このローブは私の魔導士としてのアイデンティー。絶対脱がないわ」
「そういうことだ」
隣で頷く弾。
「真理亜がそう言う以上、この俺も鎧を脱がん」
ここで私もあっさり引き下がるわけにもいかない。
「二人が仲いいのは知っているけど、ここは体調を回復してもらって、冷却魔法をかけてもらわないといけないんだよ。だからローブを脱いで」
「それでも私は脱がない。これは私のアイデンティー」
「だから俺も鎧を脱がない」
はあ、この二人、転移前からバカップルだったからなあ。
戻った私はすぐ侍女に捕まった。
「どうでした? 王太子妃殿下」
「残念ながら冷却魔法は当分使えそうにないわ。みんなの様子はどう?」
「バテバテです。経験のない暑さなもので」
「このままってわけにはいかないよね」
私は考える。転移前に家でエアコンが壊れた時どうしたか?
私は顔を上げた。
「窓は全て開けて。庭の石畳には水を撒いて。それでガラス職人と竹細工職人を呼んで」
チリンチリン
城内には無数の風鈴が吊り下げられた。開かれた窓には全てすだれが下げられた。
元通りとはいかないけど何とかみんな元気を取り戻したようだ。
そこに現れた笑顔の真理亜と弾。
「涼しい。さすがは亜里沙。おばあちゃんの知恵だね」
真理亜。何だよおばあちゃんの知恵って。つーか元気になったんなら冷却魔法かけろよー。
読んでいただきありがとうございます。
本企画には他に「仮面舞踏会ではないのに仮面を着ける伯爵令嬢は王太子の婚約者」
https://ncode.syosetu.com/n1951ll/
という作品で参加しています。
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