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企て

 ミシロが裏口の戸に手をかけた時、突然声がかかった。


「ミシロさん」


 タイジだ。


「タイジさん。いかがいたしました?」


 ミシロはニッコリして見せる。


「ミシロさんこそ。この霧の中、森に入っていたのかい?」

「ええ、罠を仕掛けておりましたので、その様子を見に」

「獲れたの?」

「いえ、さすがにこれだけ霧が出ていると、かかるものもかかりません」

「そうなんだ」

「それで、いかがいたしました?」

「それが、ゴロウがまだ帰っていないみたいで、キクさんが騒いでいて」


 ミシロは空を見上げる。霧がかかっているとはいえ、日の光が届いている。まだ日中だ。


「まだ、帰られていないだけではないのですか?」

「そうなんだけどね、もう帰っていてもおかしくない時間でもあるんだよ。だから、村の誰かのところに寄っているんじゃないかと村中を見てまわっているところなんだ」

「そうでしたか。昨日、出発前に声をかけてくださったのですが、私としては売るものも必要なものもないと、お伝えいたしましたので、うちに来る用事は無いかと思うのですが」

「そうだよね。ごめんね。それじゃ、俺は他も回るから」


 そう言って、タイジは、霧の中、走って行った。




 ミシロは子供達にネズミを与えながら考える。

 ゴロウとの会話から、ゴヘイがあの場所でいなくなったことがばれていたことがわかった。

 そうか。荷車か。

 なら、ゴロウも同じところでいなくなったことが明日にはばれるだろう。

 荷車がまた置きっぱなしだ。

 となると、あの場所自体がもう潮時か。

 なら、どうやってネズミに餌を与えるか。




 結局、その翌日以降、ゴロウも行方不明になったということがわかり、村中が騒ぎになった。

 特に、キクは取り乱し、あちらこちらへと歩き回り、二人の息子の行方を聞いて回っていた。

 ミシロの家にも何度もキクは訪れた。

 そのたびに、息子の行方について聞かれた。

 もちろん、ミシロは「知らない」と、答えるだけだ。




 こうなると、村では街へ商品を売りに行くこと自体が危険視される。

 ゴロウは二回街に行って、一回は村に戻ってきたものの、ゴヘイともども行方不明になっているのだ。

 よって、村長のトメはしばらく街には行かないようにと、村人に指示を出した。

 安全が確保されるまで行かせられない、と。

 しかし、その安全をどう確認するのかについては、わからなかった。




 この決定は、村人たちに了承されたが、不満が無いわけではなかった。

 特に、独身の男は強い不満を示した。

 なぜなら、街に行くことでできることもあるからだ。


 その不満を示した筆頭が、キョウスケだった。

 キョウスケは若いが体が大きく、力も強い。

 もちろん、若いせいで、誰よりも街に行けることを楽しみにしていた。

 しかし、それが禁止された。次は自分の順番だったのに。


 また、二人の男、トラジとショウタもキョウスケに同調した。

 三人は、一人暮らしをしていたトラジの家に集まって、酒を飲みながらよからぬ相談をする。


「次に街に行くのは俺だっていうのに、何で村長は街に行くことを禁止するんだ。女を抱けないじゃないか」

「キョウスケの言う通りだよ。キョウスケの次は俺なんだ。俺まで行けなくなるじゃないか」

「だけどさ、トラジはそれでもキョウスケの次だろう? 俺なんていつになるか。この溜まったものをどうしたらいいんだか」

「村の女は婆さんか誰かの嫁さんかしかいないしな」

「そうなんだよな。人の嫁さんなんかに手を出したら、村を追い出されちまう」

「あー、嫁さんがいる奴はいいよな」

「そうだぜ。ヤスベエなんて毎晩らしいからな」

「ああ、うらやましい。俺らも街に行かなきゃ出会いすらないっていいうのに」

「「「はあ」」」


 ため息をつく三人。

 しかし、トラジが気が付く。


「村の女じゃなきゃ、襲ってもいいんじゃないか?」

「は? 村の女じゃない女? なんだそれ」

「いるじゃねぇか。春に流れてきた女」

「やめとけって、村長が言っていただろう。やんごとなき身分の可能性があるって。手を出したのがばれたら死罪かも知れないじゃないか」

「死罪の方がまだましなのかもしれないぜ?」

「ばれなきゃいいんだろう?」

「ばれなきゃって、どうやってばれずにやるんだよ」

「何か弱みでも握っちまえばいいんだよ」

「弱み? そんなものあるか?」

「襲われて傷物になった、何てのも、そうそう言えることじゃないだろう? それに、しゃべったらわかってんだろうな、って」

「「……」」

「あの女、色は白かったが、いい胸してたじゃねえか。お前だって見てただろう」

「そりゃそうだけどさ」

「こんな田舎じゃ見られないような、きめの細かい肌だったろう?」

「そりゃそうだけどさ」

「いいのかい、キョウスケ。いつまでもお預けでさ」

「……よくはないな」

「触ってみたくはないか?」

「……みたいな」

「やりたくは?」


 ……ゴクリ。


「じゃあ、やるか?」


 キョウスケは、ミシロの胸や腰を思い出し、股間を膨らませる。


「よし、やろう。夜中に決行だ!」

「「おー!」」

「そうと決まれば、夜中までもうちょい飲むか」

「そうだな」


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