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その日の夜。
「ゴヘイが帰ってこないんだ!」
と、村長であるトメの家に押しかけるゴロウとその母キク。
キクとゴロウ、ゴヘイは三人で暮らしていた。
「今日帰ってくるはずだろう?」
タイジがそういうものの、
「もう夕方なんだ。帰って来ていてもおかしくはないだろう」
ゴロウは震えるキクに代わりまくしたてる。
「何かあったのかもしれないが、女につかまっているのかもしれないだろう? 女に入れ込んで帰ってこないのかもしれないじゃないか。旅籠に忘れ物をして取りに戻ったとか、考えられるだろう。明日まで待ってみてはどうだ」
言われたことは家族のゴヘイのだらしなさを指摘されているようなものだが、ゴロウもキクも強くは否定できない。
「わかった。明日の夕方まで待ってみる。それで帰って来なかったら、街へ行ってみる」
ゴロウはそうタイジとトメに告げて、キクを連れて帰って行った。
「母ちゃん」
タイジがトメに言う。
「明日、どうせ霧で漁に出られないから、ちょこっとだけ街に向かってみるよ。明日中に返ってくるから」
「そうかい。わかったよ。頼む」
トメはタイジの提案を了承する。
村長として、村民に対してできることはしてやりたい。
しかし、老いたこの体ではできることは限られている。
タイジに頼らざるを得ない。
翌朝。
「ちょっと行ってくるよ」
「すまないが、よろしく頼むよ」
と、出かけるタイジの見送りをするトメ。
何もなければいいのだが、と、タイジの背中をポンと叩いた。
タイジは峰の街道を街へ向かって少し小走りぎみに歩いて行った。
今日も村まで霧が来ていたが、街道には霧がかかっておらず、右も左も道の先も見渡すことができる。
一応、道の脇に何か痕跡はないかと視線を送るが、前回通った時と何も変わる様子はなかった。
そうして、一時、二時を歩いたところで、タイジはゴヘイの荷車を見つけた。
「こんなところに荷車? ゴヘイはどこへ行ったのだろう」
見渡しても特に何も見つからない。
「しょんべんをしに森に入って、足でも滑らせたかな?」
たとえ小便であっても、崖の方へは向かわないだろう。危険すぎて自分でもそれはしない。
タイジは森に入ってみる。
「おーい、ゴヘイ!」
声をかけてみるが、返事はない。
足元を見ても、誰かが踏み入れた形跡もない。
「うーん。はずれか。となると、やっぱり、忘れ物をして取りに帰ったという線が濃厚かな」
タイジは、村に戻ることにした。ゴヘイの荷車を引いて。
タイジはゴヘイはキクの家に行く。
キクの家では、キクとゴロウがコンブの裁断作業をしていた。
「おーいゴロウ」
タイジが玄関前で叫ぶと、家からゴロウが出てきた。
ゴロウは、タイジが引いている荷車に視線を移す。
「その荷車、うちのじゃないか。どこにあった?」
「街道を街に向かって二時ほど歩いたところに置いてあった。周りを見てみたが、ゴヘイが森に入った形跡はなかった。やっぱり、街に戻ったんじゃないのか? 街に戻るのに荷車は邪魔だしな」
「そうか。手間をかけさせてすまなかったな。ありがとう。俺達も今日一日待ってみるよ。昨日街に戻ったのなら、今日帰ってくるはずだからな」
「ああ。女につかまってなきゃな」
「ちげえねえ」
「「あはははは」」
タイジとゴロウはゴヘイならありそうだと笑いあったが、キクは不安を隠せなかった。
結局、この日もゴヘイは帰ってこなかった。
その翌日。
「ちょっと街まで行ってくるわ。何か売って来る物はあるかい?」
ゴロウが荷車を引いてトメの家にやってきた。
「ゴロウ、お前が商品を持って街に売りに行くのはもうちょい先だろう。確かに次の当番はお前だが、今、売り物を持っていく必要はないんじゃないのか?」
「まあ、そうかもしれんが、どうせ街に行くのなら、売り物を持って行ってもいいかと思ってな」
「お前、今回も行って、次も予定通り行って、二回も女を抱いてくるつもりだろう」
「……」
ゴロウは少し視線を逸らせる。
「いやいや。お役人様に、ゴヘイの情報が何かないか聞いてくるだけだ。ついでに、あいつの行きつけの旅籠に行って手がかりでも探してくるつもりだが」
「やっぱり行くんじゃないか」
「情報収集だ情報収集。それには金が要る。だから、何か売らないとな」
「はぁ。仕方ない。協力してやるよ。コンブが三束と、あと、ナマコとアワビがあるから売って来てくれ」
「おう。助かる」
タイジは、商品をゴロウの荷車に乗せた。
ところが、その翌日には、何もなかったかのようにゴロウが帰ってきた。肌つやをよくして。
役所に行っても、ゴヘイの情報はなかった。
旅籠へ行っても、確かにゴヘイは泊まったものの、翌日には出発したらしく、さらに戻った形跡もなかった。いなくなった女郎もいない。
ゴヘイの行方についての情報は何も得られなかった。




