子育
翌日。
「ミシロさん、起きているかい?」
居間にトメが入ってきた。
「はい、起きております」
ミシロはすでに布団をたたみ、正座をしていた。
「今、朝食の用意をするで、待っていておくれ」
「はい、ありがとうございます。何かお手伝いをすることは?」
「んー、そうだね、ちょっとタイジを起こしてくるで、一緒に空き家を見に行って来てくれるかい? 住めるかどうか確認して欲しいんだが」
「ありがとうございます。助かります」
そう言ってミシロは深く頭を下げた。
「いいってこと。じゃあ、タイジを起こしてくるで」
と、トメは居間を出て行き、タイジを起こして戻ってきた。
「タイジ、ミシロさんと一緒に空き家を見に行ってきておくれ。ほれ、あそこなら井戸もあるし、そう古くはないし、いいだろう?」
「あ、あそこか? でも、森に近くないか?」
というトメとタイジの会話に、ミシロが声を挟む。
「あの、どこでも構いません。森に近くてもです。井戸があるのは嬉しいです」
「そっか。じゃあ、そこにするか。ミシロさん、出られるかい?」
「はい、大丈夫です」
と、ミシロは立ち上がった。
森の近くにあった家は、こじんまりとしていたが、土間に竈もあり、その奥には風呂もあった。
居間には囲炉裏もあり、奥にもう一部屋あった。
これなら、すぐにでも住めるだろう。
「ここでいいのかい?」
タイジが聞く。
「はい。嬉しいです」
と、少しの笑顔をタイジに向けるミシロ。
タイジはほんのりほほを染めそうになるが、やはり、ミシロのその赤い瞳孔を見ると、少し委縮してしまう。そんな気がする。
「それじゃ、朝飯を食べたら掃除をしてしまうか」
「これくらいなら私一人でも……」
「いや、村長も言っていたけど、今日は漁には出られない。だから、やることも少ないんだ。気にすることはないよ」
「でも、無いわけではないんですね」
「まあ、昨日干したコンブをもう一度干したり、煮たナマコやアワビを干したり……」
「それでは、そちらを先に手伝わせてください。それが終わったら、申し訳ないのですが、掃除を手伝っていただけますか?」
「ふう。わかった。そうしよう。ありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
二人は、朝食をとるためトメの家に戻った。
朝食後は、タイジが言ったように、コンブやナマコ、アワビを干した。
その後、トメも加わって三人でミシロの家の掃除をした。
「布団はうちの来客用のを持って行っていいよ。他に調理道具や食器もね」
「何から何までありがとうございます」
「他に何か必要なものはあるかい?」
トメが聞く。
「もしあれば……」
ミシロは視線をさまよわせながら言う。
「お肉を取って来たいので、弓矢などありますでしょうか」
それを聞いてトメもタイジも確信する。弓矢を使えるなんて、武家の出、もしくはそれ以上だと。
「タイジ、納屋にあっただろう。貸しておやり」
「わかったよ、村長。ミシロさん、後で持ってくるよ」
「ありがとうございます」
その後、トメとタイジは家に戻った。
タイジは、弓矢と当面の食材を持ってミシロの家に戻ったが。
「ミシロさん、弓矢で動物を狩れるんだね」
「ええ、ちょっとしたたしなみです」
「そっか。かっこいいな。今度見せてもらうことは?」
「申し訳ありません。秘技ですので……」
「そ、そうだよね。あはははは。どうせ、俺は弓矢なんて使わないからさ。ごめん。変なこと言って」
「いえ、こちらこそ、助けていただいたのに、その程度のこともできず、申し訳ありません」
「いいってことよ。じゃ、またな」
「はい。ありがとうございました」
ミシロは走り去るタイジの後姿を見送った。
タイジが見えなくなったところで、ミシロは家に入る。
そして、玄関を閉めて、閂をかけた。
ミシロは奥の部屋に布団を敷き、そして、その上で丸くなった。
翌日。
この日は村中が霧に覆われた。
家の土間で干したコンブを切りそろえながらタイジがつぶやく。
「今日、ミシロさん来ないな」
一緒に作業をしているトメは、タイジを諭す。
「まあ、今日は霧が濃いし、毎日毎日手伝ってくれとは言えまい」
「そうだな」
二人は家の中で作業を進めた。
一方のミシロ。
ミシロは布団からはみ出るほどに体が大きくなっている。
その姿は、全長が六メートルほど。体の直径は二十センチにもなる。
それはそれは、立派な白蛇だった。
ミシロは敷布団の上でとぐろを巻いている。
その中心には三つの卵。
直径が十センチもありそうな大きな卵だ。
ミシロは、時々体を動かして、卵を転がす。
そして、真っ赤な縦に割れた瞳孔で、優しく卵を見つめた。
「早く生まれておいで」
そう語りかけながら。
囲炉裏で部屋を暖めてやれば、およそ一か月でふ化するだろう。
ああ、楽しみだ。子供達が生まれるのが。
そう、ミシロは目を細める。
しかし、懸念が一つ。
子供達の餌だ。
子供達は生肉を食べる。生肉をどのように確保するか。この村でもらえそうなのは魚だ。だが、子供達には肉を食べさせたい。




