表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

ミシロ

 タイジは急いで船を海に降ろし、定置網の設置に参加した。


 仲間達から様子を聞かれたが、トメが言うように、高貴な家の者かもしれないから手を出すなと伝えた。

 これには皆が一応の納得を見せた。まだ死にたくはない。


 その後は、コンブを採ったり、ウニやナマコ、アワビをタモやカギを使って獲り、家へと戻った。




「ただいま」


 タイジは玄関から顔をのぞかせる。


「女はどうだい?」

「おいおい、そうじゃないだろう。その娘はまだ目を覚まさないが、呼吸をしているから無事だろうさ。そんなことより、何を獲って来たんだい? 干すものを干さないと乾かないじゃないか」

「ああ、コンブとウニとナマコ、アワビだな」

「まずはコンブを干しちまわないとな。ナマコとアワビは煮ないと。ウニは塩漬けだな」

「というわけで、コンブ干しの手伝いをよろしく」

「おい、肉は?」

「まだ干し肉があっただろう。定置に魚がかかるまで待ってろって」

「仕方ないねぇ」


 そう言って、二人は庭でコンブ干しを行った。




 夜。

 囲炉裏を囲んでタイジとトメが食事をとっていると、


「ん、んん……」


 と、女が目を覚ました。


「おい、聞こえるか」


 タイジが声をかけると、女がそっと目を開けた。

 その目を見たタイジ。血の気が引いた気がした。


 女の瞳孔は真っ赤だった。


「こ、ここは……」

「目を覚ましたのかい。ここは八霧の村だね。わかるかい?」


 トメの質問に女は首を振る。


「まあ、いいか」


 トメは続ける。


「いろいろと聞きたいんだが、まず……飯は食うかい?」


 女は布団に入ったまま、自分の腹をさする。そして、何かを確認した後、トメに顔を向けて言う。


「よろしければいただけますか?」

「はいよ。まあ、いつどうやってここに来たのかはわからんが、食べなきゃ生きていけないわな。起き上がれるかい?」

「はい」


 女は、何とか掛け布団を足元へとたたみ、立ち上がろうとした。


「あ、いいよ。敷布団の上に座りな」


 トメの言葉に、女は敷布団の上に正座をした。


「ほれ、温まるといいがな」


 と、汁の入ったお椀と箸を女に渡すトメ。

 それを受け取る女。


 具は干し肉と野菜だ。決して少なくない量が入っている。


「いただきます」


 そういって、女はお椀に口をつけた。

 それを見て、とりあえずホッとするタイジとトメ。

 自分達も食事を進めた。


 結局、女はお代わりもした。

 しかし、肌は白いままで血色がよくなることはなかった。




 食後、トメが話を聞くことにする。

 これも村長の仕事。

 タイジも座布団に座ってそれを聞く。


「私はこの村の村長をしているトメだ。トメと呼んでくれても村長と呼んでくれてもいい。それから、右に座っているのが息子のタイジ」


 タイジはぺこりと頭を下げる。


「で、あんたは?」

「……はい、私はミシロと申します」


 ミシロと名乗った女もぺこりと頭を下げた。


「私を助けてくださり、ありがとうございます」

「うん。ミシロさんや。あんたはこの村の浜に倒れていたんだ。どうしてそんなことになったのか、心当たりはあるかい?」


 ミシロは視線をさまよわせて考え込むが、思いあたりはしない。


「いえ、わからないです」

「そうかい。ま、仕方ないね」


 トメはため息をついて、質問を続ける。


「で、ミシロさんはこれからどうするね」


 ミシロは再び視線をさまよわせる。やりたいこと、やらねばならないことはある。そのために安全は確保したい。


「あの、もしよろしければ、しばらくこの村に滞在させていただくことはできますでしょうか」


 タイジはトメに視線を送る。まさか、この家に? と。


「ああ、いいよ。この村は人口減少も激しくてね。空き家もあるからね。明日、どうせタイジは漁にはでない。霧が出るからね。だからタイジに空き家を一棟整備させる。そこでいいかい。まあ、今日はこのままここにお泊り」

「ありがとうございます」


 ミシロは両手を腹に当て、深く頭を下げた。


「それじゃ、ミシロさんは今日はここで寝なさい。私達は奥の部屋で寝るから、何かあったら遠慮なく言っておくれ」

「何から何までありがとうございます。それでは休ませていただきます」


 ミシロは再び深く頭を下げた。


 タイジとトメはふすまを開けて居間を出て行く。

 タイジが出て、そしてトメが。


 トメは居間を出てふすまを閉める途中、もう一つミシロに聞く。


「ミシロさん、もう一つ聞いていいかい」

「はい、何でしょう」

「家名はなんていうんだい」


 ミシロはまた視線をさまよわせる。そして答えた。


「言えません」


 トメは一瞬目を見開く。言えない。と言うことはあると言うことだ。


「わかった。聞かないことにするよ」


 そう言って、トメはふすまを閉めた。


 閉められたふすまの先からトメが再度声をかける。


「そうそう。この村では働かざる者食うべからずだからね」


 ミシロは即答する。


「はい。何かあればお手伝いさせていただきます。よろしくお願いします」


 誰も見ていないにもか変わらず、ミシロは深く頭を下げた。




 ミシロは布団に入り、横になる。

 そして感謝する。


 助かった。

 生きていた。

 まだ産める。

 この子達を産める。

 産んで、私の手で育てなければ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ