漂着
タイジは女の上半身を抱き起し、そして女の腕を肩に回して何とか担ぎ上げる。
その時に、女の胸がタイジの背に当たるが、ひんやりと冷たく、欲情するより不気味さが勝る。
とりあえず高いところへと、タイジは女を担いでいく。
そして、自分の船の横にいったん寝かせた。
「悪いね、ちょっと荷車を取ってくるからよ、そこで待っててくれよ」
気を失った女に対し、一応それだけ言って、タイジは家へと帰って行った。
「おーい母ちゃん」
家の玄関で村長であるトメを呼ぶタイジ。
家の奥からストストと歩いてくる足音が聞こえる。
「日中は村長と呼べって言っているだろう。それに、何でこんなところにいるんだい。早く海に出てきなって」
「そんなこと言ってる場合じゃないって。女が船着き場で倒れていたんだ。いま荷車で連れてくるからよ。それで、ちょっと、どうしていいかわかんねえんだ。なんか用意しといてくれよ」
「はぁ? 女? 生きているのかい」
「生きているから連れてくるって言っているんだ。俺も早く海に出たいからよ、頼むよ」
「わかった。私も行くよ」
「早くしてくれよ」
タイジは荷車を納屋から出してくる。
そこへトメもやってきた。
「じゃあ、行きますか、村長」
パシッ!
トメはタイジの頭をはたいて荷車に乗り込んだ。
「村長、乗っていくのかい!?」
「母親には気を遣うもんだろう?」
「村長って呼べって言ったじゃないか」
「うるさい。早く行くよ」
「へいへい」
タイジは荷車を引いて船着き場へと向かった。
「村長、この女なんだが」
タイジが女の脇に座り込む。
「じろじろ見るんじゃないよ。いやらしいねぇ。そんなだから嫁の来手が無いんだよ」
「うるさいなぁ。そんなことより、見てくれって」
「はぁ」
ため息をつきながらトメも女の脇に座り込む。
「うーん。確かに、若そうに見えるけど、髪が全部白いんだねぇ。肌は張りがあってシミもなく、真っ白で日焼けの跡もない。どこぞのお嬢さんかねぇ」
「高貴なお嬢さんだったら?」
タイジが目を輝かせる。もしかしたら、助けたことで褒美がもらえるかもしれない。
「絶対に手を出すんじゃないよ。本当に高貴なお方だったら、切腹じゃすまないかもねぇ。簡単に死なせてくれれば儲けものくらいかもな」
と、タイジを脅すトメ。そう言っておけば、手を出したりしないだろう。
「だ、ださねぇよ。なんか真っ白で気味悪いしよ。それに、本当に高貴なお方だったら、村長の言う通りだろう?」
「ああ、そうだね。だから……、たしかお前が最初に街に行く当番だったね。街に行ったらこの娘を預かっていると、お役人さんに伝えておくれ。まあ、本当に高貴な方なら、すでに探しているだろうけどね」
トメは立ち上がる。
「さあ、この娘を荷車に乗せな。連れて帰るよ」
「わかってるよ」
タイジは女をまた肩に担ぎ、荷車に乗せた。同じように胸が背中に当たったが、トメに脅されたことも含め、欲情することはなかった。
女を荷車に乗せた後、荷車を引こうとするタイジ。
「よっこらせ」
と、荷車に乗るトメ。
「おい村長。何で乗るんだ」
「母親は気遣うものだとさっき言ったろう。乗せてっておくれ」
「坂道なんだぞ。押してくれよ」
「鍛錬だと思えばいいじゃないか。もっと重たい魚をこれから運ぶことになるんだろう?」
「そうだけどよ」
タイジは頭をぽりぽりかいて、
「あぁもう!」
と、家へと向かう道を荷車を引いて行った。
「はぁはぁはぁ」
「若いのに情けないねぇ」
と、荷車を降りるトメ。
「さ、居間に運んでおくれ。私は布団を用意してくるからさ」
トメは、膝に手をついて息を荒くしているタイジをよそに、家に入って行った。
「全く、母ちゃんってばよ」
「村長!」
家の中から怒鳴り声が聞こえた。
まったく地獄耳なんだから。というのは言葉にしなかった。言葉にしたら絶対に聞こえるはず。
「さてと」
と、タイジは女を担いで家に入った。
家の土間から居間に上がる。居間には囲炉裏があり、火が焚かされている。
その囲炉裏の脇には、トメによって布団が敷かれていた。
「そこに寝かしな」
と、トメが指をさしたのは布団ではなく畳の上。
「布団じゃないのかよ」
「服が汚れているだろう。着替えさせなきゃ布団に寝かせられないじゃないか。そこに寝かしたら、ちょっと出てな。着替えを見たいならいてもいいがね」
「けっ、出ているから、何かあったら呼んでくれ」
タイジは畳に女を寝かせ、土間から外へと出て行った。
外に出たタイジは、玄関の柱に寄りかかって空を眺める。そして、
「こんな季節にあんなところで倒れていて助かるなんて、運のいい女だよな」
と、つぶやいた。
しばらくすると、
「タイジ。来ておくれ」
と、家の中からトメの声が聞こえてきた。
「はいよ」
タイジは居間へとむかう。
そして案の定。
「布団に寝かせておくれ」
と、トメに指示される。
女はトメの替えの寝間着に着替えさせられていた。
「よっこらしょ」
と、タイジは女を担ぎ、布団の上に寝かせ、そして、掛け布団をかけた。
「ありがとよ、タイジ。それじゃ、漁に行っておくれ」
「わかってるけどよ。休ませてくれたりは?」
「さっき休んだろう。早く行きな」
「はぁ。それじゃ行ってくるよ」
タイジはため息をついて、家を出て行った。




