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疑惑

 しばらくすると、ミシロは土間に荷車を持ってきた。


 ミシロは寝室に戻ると、トラジを抱えて、荷車に乗せる。

 同じように、ショウタも乗せる。




 ミシロは、荷車を引いて、家を出た。


 まだ真夜中。

 村民は皆寝静まっており、物音ひとつしない。

 また、深い霧に覆われており、光が無いことも合わさって、何も見ることはできない。


 しかし、ミシロは迷うことなく荷車を海岸へと引いて行った。




 海岸にたどり着くと、ミシロは二人を荷車からおろす。

 そして、


「チチチ……」


 と、小さな声を口から漏らした。


 トラジとショウタは自分達がどこに降ろされたのか理解している。

 自分達の村である。場所は熟知している。

 しかし、これから何が起こるのかが全くわからない。

 声も出せない。体も動かせない。

 このような状況で、自分達の身に何が起こるのであろうか。


 カサ、カサカサカサ……


 小さな音が群れて聞こえてくる。

 そして、


 チューチュー……


 という、小さな鳴き声も。


 トラジもショウタも何の群れが近づいて来たのか、理解する。


 ネズミだ。


 ネズミがトラジの顔に近づき、においをかぐ。

 それをまぢかで見ることしかできないトラジ。

 まだ、自分に起こることが想像できない。

 しかし、次の瞬間。


 カリッ!


 トラジの唇がかじられた。


(いたっ!)


 声にならない。だが、痛いものは痛い。

 動けないので、ネズミを払うこともできない。


 カリッ、カリッ!


(痛い痛い痛い……)


 ネズミたちはトラジを覆い、耳、鼻、指など、かじり始めた。

 ショウタも同じだ。


 意識がある。体が動かない。そのような中、全身に痛みが走る。


 カリカリカリ……


 肉がかじられ骨が見える。

 鼻や耳など出ている部分はすでになくなり、血が噴き出している。

 腹にいたっては穴をあけられ、ネズミが頭を突っ込んで内臓をかじり始めた。


 トラジもショウタも、早く意識がなくなることを祈った。


「私だけ食事をしちゃだめだよね」


 そういって、ミシロは顔を血で染めたネズミを一匹、二匹と取り上げ、頚椎を脱臼させていく。


 六匹のネズミを手に取った後、ミシロはトラジとショウタの死を見届けることなく、荷車を引いて家に戻った。




 翌日。

 村中が大騒ぎになる。


 トラジは一人暮らしだったが、キョウスケとショウタは親と同居していた。

 子供という年齢でもないが、子供が帰ってこないと、それぞれの親が村長の家に押し寄せた。


 タイジが霧に覆われた岬中を走り回り、トラジとショウタを見つけることができた。

 ただし、タイジが見つけたのは、二人が着ていた服と骨だけだった。


 タイジは愕然とした。

 いったい何がどうすればこうなるのか。昨日は普通に生活していた。

 それが一晩で骨だけになる、そんなことがあるだろうか。


 タイジは、トラジとショウタの亡骸を村長に託し、キョウスケを探す。

 だが、どこにもキョウスケの痕跡は見つけられない。


 村中を走り回ったタイジは、ふと気づいた。

 ミシロの家の竈から煙が出ているのだ。


 普通の家であれば、食事の準備のために竈に火を焚く。

 しかし、ミシロの家で焚かれるのは、記憶をたどっても、めったにない。


「ミシロさん!」


 ドンドンドン


 タイジはミシロの家の玄関を叩く。


「タイジさんですか?」


 と、玄関を開けるミシロ。

 タイジは、ミシロに目もくれず、竈を覗き見る。


 竈には火が焚かれている。

 それは外から見えた煙でわかっていた。

 しかし、竈からはみ出た布切れ。

 あれは、キョウスケの服ではないだろうか。


「今朝はどういったご用件でしょうか」


 ミシロがタイジに尋ねる。

 しかし、タイジは首を振った。


「いや、何でもないです」


 それだけ言って、タイジはミシロの家を離れた。

 ミシロは竈の火を眺める。


「ばれたかしら」




 その日の夜。

 ミシロの家へタイジが訪れてきた。


「ミシロさん、話が、いや、お願いがある」


 ドンドンドン


 玄関の戸を叩くタイジ。


「はい。何でしょうか」


 ミシロは、玄関の戸を開け、タイジを家にあげる。


 囲炉裏を挟んで座るミシロとタイジ。


 タイジが囲炉裏に視線を向けたままミシロに話しかける。


「ミシロさん。これまでの行方不明について、ミシロさんがやったんでしょう?」


 ミシロは首をかしげるが、内心では、やっぱりばれていたのか、とため息をつく。


「ミシロさん、それで、お願いがある」

「何でしょうか」

「私は、ミシロさんを責めようとは思わない」

「なぜです?」

「ミシロさんを助けたのは私自身だからです」

「つまり?」

「この行方不明にはミシロさんが関わっている。ならば、私が関わったも同じだと思うから」

「それで?」

「お願いです。黙ってこの村を離れてもらえませんか?」


 ミシロは、間をあけて答える。


「わかりました。ですが、私からのお願いを聞いていただけますか?」

「私に聞けることなら」

「一つ目、この村を去るのは明日の朝にさせてください。もう夜ですから」

「はい。わかりました。それで構いません」

「もう一つ」

「はい」

「私と交わっていただけませんか?」



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