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蝋燭

作者: 太川るい

 一本、蝋燭(ろうそく)を立てる。


 二本、また蝋燭を立てる。




 あたりにはそうして立てていった蝋燭たちが、何本も何本も、ゆらゆらとゆらめいている。


 私はいつから蝋燭を立てはじめたものだろうか。それはもはや分からないことだった。


 ただ、私の中に何かがあったとき、蝋燭はその本数を増やしていった。




 一本、蝋燭を立てる。


 二本、また蝋燭を立てる。




 蝋燭の数はだんだんと増えていった。蝋燭が立つごとに、あたりは明るくなるのだが、なぜか私にはますますその暗さが強調されるようにも感じられた。




 蝋燭を立てる。


 蝋燭を立てる。




 不意に、以前立てた蝋燭が燃え尽きて、音もなく崩れる時がある。


 そんな時は、心にかすかな苦しさを覚える。


 私はその蝋燭に何をしてあげられただろうか。消えた蝋燭は、溶けた蝋と芯のかたまりだけが、墓標のようにその場所を占めるのだった。




 蝋燭を立てる。


 飽きることなく、また立てる。




 もう蝋燭を立てつづけて何年も経った。


 いつのまにか、私の髪には白いものが混じりはじめていた。


 見渡すと、無数の蝋燭があたりには広がっていた。長さはまちまちだ。一様に火をともらせて、静かに燃えている。


 よくぞここまで来たものだ、と私は一人考えた。


 その時髪は、すっかり白くなっていた。




 蝋燭を立てる。


 蝋燭を立てる。




 腰は曲がり、歯は抜けてきた。


 弱った視力では目の前をおぼろげにしか見ることができない。




 しかしああ、なんということだろう。


 かすんだ私の視界に、目の前の蝋燭たちは、なんと美しく映ることだろうか。


 なんと、美しいことだろうか!




 私は泣いていた。


 何故だか分からず、涙はこぼれていた。




 私に何が出来たのだろう。蝋燭はいずれ消える。ならば、私が今までしてきたことは、すべて徒労に終わるのではないか?




 しかしああ、なんとういうことだろう。


 目の前の景色は、こんなにも美しいではないか。


 私がこれまでしてきたことをおいて、何がこの景色を形作れるというのだろうか!




 私は泣いていた。


 もうかすんだ景色は、涙で一層おぼろげになっていった。


 しかし、それでもかまわなかった。





 私の目の前には、無数の蝋燭がゆらめいていた。

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― 新着の感想 ―
静寂の中に孤独さと気鬱さが揺らめいています。 無価値に思えるような蝋燭を立てる営みが、存在の意義を問いかけているように思えました。 蝋燭を立てることに、その瞬間の自己を閉じ込めている気さえしました。 …
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