つちのこのこのここしたんたん もしくは、102回目のウソのプロポーズ
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とあるのどやかな森に残念なイケメンのつちのこがいました。
残念なイケメンというくらいですから顔だけはいいのですが、どこか残念です。たとえば、せっかく森のおねえさんがなげてくれたおまんじゅうをよくキャッチしそこねます。
残念なイケメンのつちのこは森の人気者になりたがっています。
つちのこは人柄がよいので、ポンコツでもみんなに可愛がられていましたが、まだまだ森一番の人気者にはほどとおいかけだしのどうぶつです。
つちのこは今日ものこのこ森をねりあるきつつ、どうすればいいか考えます。
つちのこのこのここしたんたん。
つちのこのこのここしたんたん。
こしたんたん、とは虎視眈々というトラがエモノをねらっているさまのことです。
しかしねらわているのは今回、つちのこ。
ねらっているのは今回、おおかみ。
森のはぐれもののずるがしこいおおかみは、つちのことむかしからともだちです。
ともだちのつちのこが人気者になろうとすることは応援したいけれど、おおかみのことをかまってくれなくなるのはさびしくてイヤなのです。
「そうだ、つちのこをだまして独り占めしてしまおう! こうしたら人気者になれるとウソをおしえて、きらわれてしまったらかれはわたしだけのものになる、もし人気になってもわたしのおかげだもんね」
ずるがしこいおおかみは、かるいきもちでこう言いました。
「つちのこさん、つちのこさん。かおだけはよくて残念なイケメンのあなたが人気者になる良い方法をおしえてあげます。よくきいてください」
「ぼくが人気者に? わぁ! おおかみさんはなんてかしこくて良い人なんだ! いつもありがとう、おおかみさん!」
「い、いやぁ、それほどでも」
ずるがしこいおおかみは、ちょっとためらいがちに言います。
「つちのこさん、つちのこさん。あなたは森のみんなに愛の告白をなさい。大好きです、愛しています、結婚してください、とウソのプロポーズをするんです。ちゃんと前もってウソだと伝えて、ことわってもらうんです。ごめんなさいと返事をもらいましょう。」
「ウソのプロポーズ……!?」
「そうです。みんな面白がって、あなたのことをもっと可愛がってくれるはずです」
「うーん、はずかしいけど親切なおおかみさんのいうことです。やってみます!」
すなおで残念なイケメンのつちのこは次の日の集まり、ウソのプロポーズを試しました。
「トラさん、ずっと前から好きでした。ぼくと付き合ってください!」
「ごめんなさい、としうえのおねえさん以外はちょっと」
ふふふ、とウソのプロポーズをトラさんは笑ってくれました。
「ひつじさん、あなたのもこもこにずっと夢中です! 結婚してください!」
「ごめん、ぽれにはこころにきめたつきのウサギがいるの」
ふっ、とウソのプロポーズをひつじさんはハナで笑いました。
「ゴリラ先輩、愛しています! こんな残念なぼくですがよろしくおねがいします!」
「うーん……。お前ここにすわれ、セリフに気持ちが入ってない。指導してやる」
「ええっ!?」
森のみんなのみているまえで、つちのこはゴリラ先輩にガチ指導されてしまいました。
なお、ゴリラ先輩のおてほんのプロポーズの方が盛り上がりました。
つちのこのウソのプロポーズはなんだかんだで森のみんなの人気になりました。
わたしもウソのプロポーズをされてみたい! と順番まちです。
こうなるといじわるなおおかみはフクザツなこころもちです。
「そうだ! わたしがつちのこのウソのプロポーズの台本をみんなに用意してあげます! そうしたらもっとたのしいはずですよ!」
「わぁ、いいんですか? おねがいします!」
おおかみはつちのこのために、おもしろおかしくウソの愛の言葉をつづります。
自分のプロポーズの言葉をいっしょうけんめいに演じて、こっぴどくフラれるつちのこ。
なんだかとっても、もにょもにょです。
「ごめんね、あなたのことはおともだちとしか見れなくて」
ふふふ、とにがわらいしながらまた森のおねえさんにつちのこがフラれます。
つちのこはたのしそうです。
おたがい、ウソとわかっているのですから、スキもキライも気楽にいえます。
そんなつちのこが、おおかみにはまぶしくみえます。
森の集まりが一段落したあと、おおかみは言いました。
「ね、わたしの言ったことはただしかったでしょう? これからもわたしとなかよくしてくれたら、もっと良いことがありますよ」
「うん、おおかみのおかげだね」
「そう、そうですとも」
つちのこはいろんなひとにかこまれて、ともだちがずいぶんふえました。
むかし、おおかみと出逢ったばかりのころより、ずっと森のともだちがふえました。
そして今夜、残念なイケメンのつちのこはもっと人気者になってしまいました。
なんたって、101回もプロポーズをして、フラれたんですから。
「……ああ」
おおかみは……ふと、こう言ってしまいました。
「つちのこさん、あなたを愛しています。これからもいっしょにふたりで遊びましょう」
それはウソのプロポーズではありませんでした。
けれども、だけども。
「ごめんなさい。ぼく、こころに決めた人がいるんです」
つちのこはそうほほえみながらこたえました。
森のみんなもあたたかに笑って、盛りあがります。
策士策に溺れるとは、このことをいいます。
でも、おおかみもまた、これがウソのプロポーズになってよかったとおもいなおします。
「つちのこさん、まだまだ演技が甘いですよ。これからもわたしが教えてあげますね」
「はい、おおかみさん! 次はなにをしましょうか?」
「そうですねぇ、次は……」
つちのことおおかみはそれぞれに、次はどうしようかと考えをめぐらせます。
つちのこのこのここしたんたん。
おおかみのこのここしたんたん。
こうして102回のウソのプロポーズは終わりました。
でも、みなさんお忘れなく。
ウソはいつかバレるものだということを。
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