表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

つちのこのこのここしたんたん もしくは、102回目のウソのプロポーズ

作者: シロクマ

 とあるのどやかな森に残念(ざんねん)なイケメンのつちのこがいました。

 残念なイケメンというくらいですから顔だけはいいのですが、どこか残念です。たとえば、せっかく森のおねえさんがなげてくれたおまんじゅうをよくキャッチしそこねます。


 残念なイケメンのつちのこは森の人気者(にんきもの)になりたがっています。

 つちのこは人柄(ひとがら)がよいので、ポンコツでもみんなに可愛(かわい)がられていましたが、まだまだ森一番(もりいちばん)の人気者にはほどとおいかけだしのどうぶつです。

 つちのこは今日ものこのこ森をねりあるきつつ、どうすればいいか考えます。

 つちのこのこのここしたんたん。

 つちのこのこのここしたんたん。

 こしたんたん、とは虎視(こし)眈々(たんたん)というトラがエモノをねらっているさまのことです。

 しかしねらわているのは今回、つちのこ。

 ねらっているのは今回、おおかみ。

 森のはぐれもののずるがしこいおおかみは、つちのことむかしからともだちです。

 ともだちのつちのこが人気者になろうとすることは応援(おうえん)したいけれど、おおかみのことをかまってくれなくなるのはさびしくてイヤなのです。


「そうだ、つちのこをだまして独り占め(ひとりじめ)してしまおう! こうしたら人気者になれるとウソをおしえて、きらわれてしまったらかれはわたしだけのものになる、もし人気になってもわたしのおかげだもんね」


 ずるがしこいおおかみは、かるいきもちでこう言いました。


「つちのこさん、つちのこさん。かおだけはよくて残念なイケメンのあなたが人気者になる良い方法をおしえてあげます。よくきいてください」

「ぼくが人気者に? わぁ! おおかみさんはなんてかしこくて良い人なんだ! いつもありがとう、おおかみさん!」

「い、いやぁ、それほどでも」


 ずるがしこいおおかみは、ちょっとためらいがちに言います。


「つちのこさん、つちのこさん。あなたは森のみんなに(あい)告白(こくはく)をなさい。大好(だいす)きです、愛しています、結婚(けっこん)してください、とウソのプロポーズをするんです。ちゃんと(まえ)もってウソだと伝えて、ことわってもらうんです。ごめんなさいと返事(へんじ)をもらいましょう。」

「ウソのプロポーズ……!?」

「そうです。みんな面白がって、あなたのことをもっと可愛がってくれるはずです」

「うーん、はずかしいけど親切なおおかみさんのいうことです。やってみます!」


 すなおで残念なイケメンのつちのこは次の日の集まり、ウソのプロポーズを試しました。


「トラさん、ずっと前から好きでした。ぼくと付き合ってください!」

「ごめんなさい、としうえのおねえさん以外はちょっと」


 ふふふ、とウソのプロポーズをトラさんは笑ってくれました。


「ひつじさん、あなたのもこもこにずっと夢中です! 結婚してください!」

「ごめん、ぽれにはこころにきめたつきのウサギがいるの」


 ふっ、とウソのプロポーズをひつじさんはハナで笑いました。


「ゴリラ先輩、愛しています! こんな残念なぼくですがよろしくおねがいします!」

「うーん……。お前ここにすわれ、セリフに気持ちが入ってない。指導(しどう)してやる」

「ええっ!?」


 森のみんなのみているまえで、つちのこはゴリラ先輩にガチ指導(しどう)されてしまいました。

 なお、ゴリラ先輩のおてほんのプロポーズの方が盛り上がりました。


 つちのこのウソのプロポーズはなんだかんだで森のみんなの人気になりました。

 わたしもウソのプロポーズをされてみたい! と順番(じゅんばん)まちです。

 こうなるといじわるなおおかみはフクザツなこころもちです。


「そうだ! わたしがつちのこのウソのプロポーズの台本をみんなに用意(ようい)してあげます! そうしたらもっとたのしいはずですよ!」

「わぁ、いいんですか? おねがいします!」


 おおかみはつちのこのために、おもしろおかしくウソの愛の言葉(ことば)をつづります。

 自分のプロポーズの言葉をいっしょうけんめいに(えん)じて、こっぴどくフラれるつちのこ。

 なんだかとっても、もにょもにょです。


「ごめんね、あなたのことはおともだちとしか見れなくて」


 ふふふ、とにがわらいしながらまた森のおねえさんにつちのこがフラれます。

 つちのこはたのしそうです。

 おたがい、ウソとわかっているのですから、スキもキライも気楽(きらく)にいえます。

 そんなつちのこが、おおかみにはまぶしくみえます。


 森の集まりが一段落(いちだんらく)したあと、おおかみは言いました。


「ね、わたしの言ったことはただしかったでしょう? これからもわたしとなかよくしてくれたら、もっと良いことがありますよ」

「うん、おおかみのおかげだね」

「そう、そうですとも」


 つちのこはいろんなひとにかこまれて、ともだちがずいぶんふえました。

 むかし、おおかみと出逢(であ)ったばかりのころより、ずっと森のともだちがふえました。

 そして今夜、残念なイケメンのつちのこはもっと人気者になってしまいました。

 なんたって、101回もプロポーズをして、フラれたんですから。


「……ああ」


 おおかみは……ふと、こう言ってしまいました。


「つちのこさん、あなたを愛しています。これからもいっしょにふたりで(あそ)びましょう」


 それはウソのプロポーズではありませんでした。

 けれども、だけども。


「ごめんなさい。ぼく、こころに決めた人がいるんです」


 つちのこはそうほほえみながらこたえました。

 森のみんなもあたたかに笑って、()りあがります。

 策士(さくし)(さく)(おぼ)れるとは、このことをいいます。

 でも、おおかみもまた、これがウソのプロポーズになってよかったとおもいなおします。


「つちのこさん、まだまだ演技が甘いですよ。これからもわたしが教えてあげますね」

「はい、おおかみさん! 次はなにをしましょうか?」

「そうですねぇ、次は……」

 つちのことおおかみはそれぞれに、次はどうしようかと考えをめぐらせます。


 つちのこのこのここしたんたん。

 おおかみのこのここしたんたん。


 こうして102回のウソのプロポーズは()わりました。

 でも、みなさんお忘れなく。

 ウソはいつかバレるものだということを。

毎度お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけましたら、感想、評価、いいね、ブックマーク等格別のお引き立てをお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ