新生パープル♡シャドウズ────メンバー募集中よ♡
澳 加純さま提供・サファイア様
「ねぇ、レッド。私暇だわ」
サファイア様のその一言から、平穏が訪れるはずのヒョウリュウジャーの日常が音を立てて崩れてゆくのを感じた。
「勘弁して下さいよ、サファイア様。宴も終わりに近づいて、みんな締めの挨拶をどうしようか考えてる所なんですよ」
なんだか最後の戦いの後日談をどうするのか、チキンレースが始まっているように思う。年末年始に向けて忙しいなか、いくらサファイア様が魅力的でも付き合ってなどいられない。
チェリー嬢だって、年末年始は忘年会新年会の予約がいっぱいだ。この時期に彼女の特製チェリークリームソーダを注文し、情熱のダンス『萌え萌えキューーーン♡』 付きのてっぺんチェリー乗せを見る為には、入店料にサービス料金が加算、特別料金も五割増しと、通常時よりかなり割り増しになっている。
ヒョウリュウジャーの仕事よりも、メイド喫茶として、荒稼ぎの機会になっているのだ。邪魔をするのも悪いし、お金もないので私はチェリー嬢のために裏方仕事を手伝っていた。
お皿洗いやグラス磨きに精を出していると、サファイア様がやって来たのだ。
「ねぇ、レッド‥‥」
「そんなウルウルと麗しい目をされても駄目ですよ」
私だって常に萌え萌えデレデレしているわけではないのだよ。サファイア様が相手でも、厳しいのだよ。
少しでも借金返済の為に働かなくてはならない⋯⋯実はそう言うわけでもない。イエローが肩代わりしてくれた分は、ヒョウリュウジャーの仕事で半分チャラに、もう半分はグリーンの有罪案件のどさくさで、出張料がわりとして彼に請求書を押し付けたからだ。
そう⋯⋯私は忌まわしい借金から解放されたのだ。借金をして働いていると口実をつけて『メイド喫茶 愛しのチェリー』 に入り浸っているだけだった。ヒョウリュウジャーメンバーからは生温かい目と、暗黙の了解がある。
そんなわけで今なお、気まぐれなS.o.D.Aの女神たちのお世話をここでするように任されていた。
「それならレッド、私の言う事聞くべきよね」
暇なだけのサファイア様も知っている情報だ。借金とはなくなっても、お金を使い過ぎればまた増えるもの。
「駄目ですよ。あくまで仕事の上でという条件ですから」
「ふぅん、真面目なのねレッドは。遊んでくれるのなら、チェリーさんのかわりに私がダンスをするわよ」
「何を言ってるのですか。それならブルーハワイのクリームソーダでお願いしますよ」
「それでこそレッドよ」
めっきり寒くなって来たこの季節。それでもサファイア様のブルーハワイの萌えキュンクリームソーダが飲めるのならば、仕事などしている場合ではないではないか。割り増しの特別料金は痛いが、めったにない機会。そんな好機を逃すようならば、レッドの名が泣くというもの。
サファイア様の貴重な萌え萌えをいただいた後、チェリー嬢に「何をやってるのよ」 と叱られた。チェリー嬢もサファイア様のダンスを見たかったようだ。
澳 加純さま提供・チェリー嬢
「ちょうどいいわ。チェリーさんも加わりなさいな。それでね、暇な原因を私なりに考えたのよ。私たち、パープルシャドウとして悪役になるはずが、正義の側に引っ張られ過ぎたと思わないかしら」
「さすがサファイアお姉さま。わたしもそう思ってました。チェリー・ライフルでグリーンを蜂の巣にするつもりだったのに」
ヒャッハーしているチェリー嬢の姿も尊い‥‥いや、違う。気持ちは分かるが、そのライフルでぶっ放すと、グリーンのチェリーゴーグルに目の良くなるサングラスのように風穴が空く。
「貴方も流石ね、チェリーさん。皆様が望むのは理不尽極まりないくらいのキツイお仕置きだったのに、甘やかし過ぎたと思うのよ」
甘やかし過ぎた結果の未来が痛風だとすると、それはそれで痛い気もするが、そういう事ではないようだ。
そもそもグリーンの中の人は、尿酸値高めな普通ではない漂流者。落ち込んで沈んでばかりで、浮かばれないのが気の毒に思う事もある。それでもお仕置きだべさ〜〜〜っと、爆発させるのに躊躇ってしまうのは、お二人の御心が優しいせいだろう。
「その優しさこそ敵なのよ。漂流者にとっても私たちにとっても。だからね、悪役として、みんなが戦いやすいわかりやすい敵って必要じゃない?」
叩いても不屈の精神を持つ敵役を、サファイア様自ら作り出そうというのだ。実体のないミラージュガール。サファイア様とチェリー嬢が作り出した幻が、ヒョウリュウジャー達の新たな敵として襲いかかるようだ。
「ヴァイオレットの中の人が不在ならば⋯⋯の条件付きよ」
そのためには手下を集める必要がある。そう⋯⋯ショッ◯ーなモブ構成員集めが必須だった。
「名前はどうするの、お姉さま?」
「パープル♡シャドウズでいいわ」
私は知らなかったが、そういう名前のバンドがいたようだ。間を♡にしたのはまったく無関係である事を示すためらしい。色々含みを持たせるあたりはサファイア様らしい。
「ふふふ⋯⋯、いいわ、いいわね、お姉さま。わたしは悪の幹部として、派手にブチかますわね」
Oh⋯⋯まさかの闇堕ちルートが、マッチポンプな悪の組織から誕生したよ。モブ戦闘員ごとチェリー・ライフルで撃ちまくる、ダークチェリー嬢は素敵だ。そして悪の組織に君臨するサファイア様の美しさはきっと魅力が倍増すること間違いなしだ。
「というわけでレッド、仕事よ。パープル♡シャドウズのモブ戦闘員を集めるために、ポスターを貼って来て頂戴」
正義側のヒョウリュウジャーに通じるメイド喫茶で、チェリー嬢は堂々とメンバー募集のポスターを貼る。
駄目だ、自由奔放過ぎるよ、S.o.D.Aの女神様方は。風紀を乱す輩が集まって来ても困るので、シャドウズの拠点はお店横のプレハブ小屋を用意した。
ブラックな職場環境に喜んでやって来るモブ戦闘員はいないだろう。来られても困るんだよ。ヴァイオレットの中の人は、レッドの中の人の私が兼任させられそうだから。
赤紫蘇のクリームソーダのヒョウリュウマゼンタが現れたら、役割を押し付けるとしよう。梅干しを漬ける時にグリーンのスーツも一緒に漬けておくとしよう。酸の溜まった身体にアルカリが染みる事を願って。
「甘いわよ、レッド。あの漂流者‥‥油断して、また尻尾を出したわ」
「祭りは最後の秒針がてっぺんを越えるまで終わらないのにね」
「サービス精神が旺盛で、知恵の実の中から、わざわざチェリー・ボムを掴みに行くんだ」
やられ役を演じる為に、再結成したばかりの『パープル♡シャドウズ』 最初のお仕置きターゲットは結局グリーンに決まった。
メンバー募集で集められたシャドウズには、ブラックの墨で黒に染められた全身タイツと、ゴールド様の残したチェリーのボクサーグローブが配布され、グリーンを捕獲する。
ホワイトから分けてもらったゼラチンを使い、貼り付けられたグリーン。集まった皆さんウキウキで、一斉に邪鬼を追い出すようにチェリー・ボムを投げつけた。戦闘員じゃない姿がチラホラ見えた気がするが‥‥気のせいだ。
────さらば、グリーン。君の事は忘れないよ。カウントダウンが終わり新年の挨拶が始まるまで、年は越せないのだ。なにより祭りの終わりには盛大な花火を打ち上げたいもの。
夜空に打ち上げられた見事なグリーンは、もちろん無事にブルーが回収した。
盛大なお仕置きを済ませた後は、『パープル♡シャドウ』 本部となった『メイド喫茶 愛しのチェリー』 にて打ち上げパーティーが開かれた。
「お疲れ様レッド。楽しかったわよ」
サファイア様に笑顔が戻る。上機嫌で何よりだ。
「レッド、ごめん。メンバーが増えすぎて、あなたの分のチェリーが足りなくなったわ」
「えっ、それじゃ萌え萌えキューーーンのチェリーダンスは?」
「当然なしよ。わたし、てっぺんチェリー以外は認めないもの」
ブラックアメジストのクリームソーダにレーズンをまぶした美味な飲み物。てっぺんには、チェリー・ボムのかわりに巨砲ならぬ巨峰一粒。爆発はしない‥‥しかし、お楽しみのチェリーダンスをお預けされた私は、悲しみに打ちのめされるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
グリーン様には、お休みいただく予定だったのですが、タイミング良くお話を投稿されたので最後の方は変更しました。
クリームソーダ後遺症祭り、最後まで華々しく散っていただき感謝しております。
ヴァイオレットの中の人は(仮)です。設定上にパープルの方がいたのなら、ごめんなさい。
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