表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

物語のカケラたち

 俺は不幸だ。


 両親は5年前に事故でこの世を去り、唯一の家族である妹は、先日重い病に倒れた。


 そして、来年には俺も死ぬ。

 細かい日付まではわからないが、馬に蹴られて即死することになっている。

 そう、これは決まっていることなのだ。


 どういうわけか、俺はこの先自分の身に起きる出来事をいくつか知っている。

 未来予知などといった特別な力を持っているわけではなく、ただ知っているだけ。

 そして、この筋書きを変えてやるなどといったこともしない。そういうものではないこともわかっているのだ。

 俺は自分の運命を受け入れるほかない。


 おそらく、この世界は誰かによって作られたもので、俺はその中の登場人物なのだろう。

 まあ、1年後にあっけなく死んでしまうのだから、主人公でないことは確かだけれど。

 まったく、俺をこんな不幸な役どころにしやがって。作者の奴を一発ぶん殴ってやりたいよ。


 他の人たちも俺と同じなのか気になって、自分の未来を知っているか尋ねたこともあった。しかし、鼻で笑われるか、変な目で見られるかのどちらかだった。


 運命を知っている俺は、もしかしたら少しは特別な人間なのかもしれない。

 この物語の中で、自分という存在はどんな意味を持っているのだろう。

 不幸な人生を歩み、最後は馬に蹴られて死ぬ。そんな俺でも、何かを成し遂げる可能性はあるのだ。

 俺は未来に期待していないわけではなかった。


 この物語の中で、俺の出番はいつなのだろう。








「ふぅ…。」

 ある程度仕事を進めたところで、私は一息ついた。


 私は神と呼ばれている。

 いや、実際に呼ばれたことはないのだが、自分が神であるということは知っている。

 神の仕事は、いくつもの世界を創造することである。つい先ほども、一つ完成させたところだ。


 どれ、うまくまわっているかな。

 自分の仕事ぶりを確認すべく、私は先ほど作り上げた世界を覗き込んだ。


 …おや?

 なにやらおかしな思考を持った男がいる。稀にいるのだ。こういった異分子、いわゆるバグのようなものが。

 どうやらこの男は自分が作られたものだとわかっているようだな。


 どれどれ、こいつは…

 ああ、ただの村人か。この世界に影響を及ぼすものでもなく、名すら与えられていない。主人公とも出会わず馬に蹴られて死ぬ男。


 なにやら自分の運命に不満を持っているようだが、意味を持たない村人に対しても、各々人生を作ってやったのだから、感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはないのだが。


 …まあ、このまま放っておいても問題はないだろう。なんせ主人公がこの村を訪れるのは、こいつが死んでからだ。



 さて、あともう一踏ん張りだ。

 残り9つの世界を創造したら、私の役目は終わる。

 そのあとは、最後に作る世界から勇者が飛び出してきて、私は殺されることになっている。そう決まっているのだ。

 なぜかはわからないが、私はこの先自らに起こることを知っている。

 そして、これは抗えるものではない。そういう類いのものではないことも理解している。


 おそらく私も、村人と同じなのだろう。

 あの男を作ったのは私だが、それならば、神である私を作ったのはいったい…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ