手を伸ばした先
「あんず」
その声を聞いた時、アンズはまたこの夢だと身構えるが、夢の中のあんずはその声に導かれるようにゆっくりと目をしました。
「大丈夫?」
まだ寝足りないとまばたきを繰り返すあんずの視界に映る母親の顔をあんずはぼんやりとしたまま見つめる。
体が異様に重く、そして熱い。
何かを話したくても胸がつかえたように何故か言葉がでない。
代わりにでるのはぜぇ、ぜぇ。という喉からでる音。
「まだ熱が高いわね」
母親はあんずの額に触れ、心配そうに眉を下げる。
「おかゆ食べれそう?」
そう尋ねてくる母親にあんずは手を伸ばす。
「どうしたの?」
母親はあんずの顔を覗き込むと、その手をとって「大丈夫、すぐ戻ってくるからね」と言って優しく微笑んだ。
アンズはゆっくりと目を開けた。
まただ。また、なつかしい夢を見た。
「…………っ?」
あの時の心細さや鉛のように重い体、自分の息遣いなどどこを切り取ってもリアルな夢に浸る暇はなかった。
知らない天井、そしてふかふかの何かに全身を覆われた感覚にアンズは飛び起きた。
「う…………」
その途端ぐらりと頭と体が傾き、ポスンと横へ倒れる。
「っ…………」
アンズはガンガンと痛む頭を押さえながらちいさく唸る。
ここはどこなのか。あのあと自分はどうなったのか。確認しなければならない事がとにかくたくさんあったが、ドクドクと脈打つような頭の痛さや体の節々の痛さやダルさ、そして、発火してしまいそうなほど熱い体にどうする事もできない。
「ん、大丈夫か?」
その時、苦しんでいるアンズの目の前にひとりの男が現れる。
プラチナブロンドと呼ばれるきめ細やかな金色の髪と翠色の瞳を持つ非常に整った顔をしている男は、横倒しになっているアンズの体をひょいと抱えるようにベッドに寝かせる。
「まだ熱があるようだな、少し待ってろ。今解熱剤を……」
男はそう言ってアンズのそばを離れようとした時、アンズがうっすらとその目を開けた。
自分から離れていく男の姿が夢の中の母と重なって見え、思わず手を伸ばし男のシャツを掴んだ。
「……?」
男は戸惑ったような表情を浮かべるとアンズの手を怖々とした手つきで握る。
言葉はないが手を握ってくれた事でホッとしたような表情を浮かべたアンズはそっと目を閉じるとすぅ……と眠りについた。
「…………」
男はどうしようか。と握られた手を見つめ、手を離して解熱剤を持ってこようかと考えたが安心しきった表情で眠っているアンズを見るとこの手を離すこともできず結局アンズが目を覚ますまで握り続ける事にした。