ウィリアムズ公爵家
ルミーラ王国のシリウスの地の中央にはルミーラ城が建っており、ルミーラ城を中心とするように国は栄えていた。
ルミーラ城に隣接したルミーラ城下町には身分の高い貴族やそれなりの身分の人間が大勢住んでいる。
その土地に住む事が権力の強さを物語る。とささやかられているルミーラ城下町より西側にあるハルロポフという名の町にはウィリアムズという公爵家の豪邸が建てられていた。
ウィリアムズ公爵家は、裏社会と繋がりがあるのではないか。という黒い噂が長年囁かれていたが、現当主が代替わりをした事で近年ではそのような噂がさっぱりと消え失せているがその代わり冷酷かつ女たらしの公爵家というおかしな名前でささやかれるようになった。
そんなウィリアムズ家の屋敷の窓は深夜の一時をわまったこんな夜更けでも電気を灯していた。
「なかなか帰ってきませんね」
そう淡々とした口調で呟くのは肩につかない程度にまっすぐ伸ばされた亜麻色の髪を持つ中性的かつ童顔のせいで年齢不詳な青年である。
「そうね」
そんな青年の言葉に頷くのは腰まで伸びている銀色の髪を丁寧に編み込んだメイド。ニコニコと微笑む優しげな表情は〝天使のほほえみ〟のようだ。
「まったくなんだって僕がクライドの帰りなんて待たなくちゃならないんだ」
「仕方ありませんわ。ナーシルとムーヤンは毎朝早いんですから」
「それは君もだろ?ソフィア」
ソフィア。それがメイドの名前だ。
「…………クライドは今日連れてくると言っていたな」
「えぇ。たしか奥様と言っていましたね」
「クライドに恋人なんていたか?」
「私が知るかぎりではいらっしゃらないかと」
「…………ソフィア」
「はい」
青年はうんざりとした表情を浮かべるとカップを持ったまま重いため息をついた。
「これはふたつの可能性がある」
「ふたつ、ですか?」
青年はこくりと頷くとすっと細長い指を伸ばす。
「ひとつは人外」
そして、もう一本指を伸ばす。
「もうひとつは人攫い」
青年の言葉にソフィアはくすくすと笑うと黄色の瞳をすっと細める。
「ミレーユ」
「なんだ」
「もうひとつ、可能性がありますわ」
「…………」
ミレーユと呼ばれた青年は怪訝な表情を浮かべる。
「人妻ですわ」
「…………やめてくれ、考えるだけで頭が痛くなる」
ミレーユはカップをソーサーに戻すとこめかみを押さえた。
「あら、頭痛薬でも飲みます?」
「君、僕の事からかってるだろ」
「さぁ、なんの事でしょう」
オホホホ。と笑うソフィアにじっとりとした視線を向けていたミレーユだったが、その耳で屋敷の玄関の扉が開けられる微かな音を捉えるとすくっと立ち上がった。
「おで迎えのお時間になりましたか?」
「そのようだ。いくぞ」
「はい」
ミレーユに促されたソフィアは立ち上がると、ミレーユと共に談話室を出た。